しあわせがどこにもない。見当たらない。


おかしい。あたしは今しあわせであるはずなのだ。大好きな人と、数日前まではそっとその後姿と背中に垂れる長いつややかな黒髪に視線をやるだけでせいいっぱいだった人と、目を合わせて、会話して、親しくなって、好きと伝えて、俺も好きだなんていわれて、付き合いだした、のに。

なにかしら道を踏み誤ったにちがいなかった。なにゆえこんなにも退屈で、くるしくて、もどかしい。うだるような暑さがあたしの苛立ちと困惑に拍車をかける。
ため息をつけば蒸気を吐き出したようだ。額にじんわりと滲む汗を手の甲でぬぐい、空を見上げた。夏空はずいぶんと高い。空に高いも低いもあったものではないかもしれないが。
もくもくとした入道雲を眺めているうちに細切れに千切ってわたあめのように口に含んでやりたい衝動に駆られた。

残暑、晴れ渡る空の下、校門前にて。

やたら怖い顔をしたクラスメートが熱心に手入れをしている花壇には、一心に太陽に顔を向ける向日葵が列をなしていた。向日葵は日焼けをしないのだろうか。それ以前に、直射日光をみつめたりして、目は大丈夫なのか。
不思議なものだ。あのクラスメートはそれはそれは禍々しい、怪物のような姿をしているのに、心根はとてもやさしい。人(?)は見かけによらないというがそれは本当だと思う。あたしの身近にも、もうひとり、外見からは想像もできないような内面を持った人物がいる。

真面目で堅物な教師の癖に生徒に手を出すなんて何事か。

馬鹿馬鹿しい。つくづく下らない。禁断の恋愛ごっこなら、もうちょっとリスクの少ないものに手を出したらどうだ。たとえば、人妻とかね。
少しでも後悔しているのなら、ふってくれていい。だって、この関係が露見してしまったときに一番つらいめにあうのは、あたしじゃなくて、あなたなのだ。


あたしがしあわせを見つけられないままでいても、季節は素知らぬ顔をして通り過ぎていく。そのツンと済ました鼻っ面をへし折ってやりたい。憎い。
下らない。なんであたし、季節を憎んでいるのだ。季節なんてもう、生き物ですらないじゃないか。あきらかに華の女子高生の思考ではない。もうずっと、ながいこと、きっとあなたを目で追うようになったときから、あたしの脳内は迷路。

目的の人物がやって来るのが見えた。今日は暑さのせいか長い髪をくくっていた。コンマ5秒ほど視線がかち合い、すぐに外れた。彼は視力がいいほうだし、数メートル先の校門に立っている生徒が誰か、なんてすぐにわかったはずだが、彼はさりげなく、あたしを視野の外に追い出したようだ。

いくらため息を吐いたところで、夏休みは終わってしまった。新学期が始まれば、あたしは生徒で、あなたは先生だ。なんて馬鹿馬鹿しいの。




//2010.08.30
少し前に書いたものの書き直し
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -