俺の恋には障害が多すぎる




いつも俺は部活が終わったら必ずテヒョンを迎えに行って、一緒に帰る。学年が違うからこそふたりきりの帰り道がとても大切で貴重な時間なのだ。

それなのに。

「え、テヒョンイヌナいないんですか」

教室が夕焼け色に染まって、金管楽器が夕日を受けてきらきらと光っている。そんな青春の一ページのような光景の中でただ一人、俺だけ絶望の滝壺に落ちたかのような顔でそれを教えてくれた名前も知らない先輩を見ていた。親切な先輩は多分テヒョンの友達だ。

「うん。体調が悪いみたいで、五限で早退したの」
「え、あ、そうですか……」

初耳でしかなかった。テヒョン、体調が悪いなんて。朝迎えに行った時は何も言っていなかったのに。でも言われてみれば顔色がいつもより良くなかったかもしれない。そのことについて一切言及しなかった自分をタコ殴りにしたい。

……待てよ。
今日の部活、そういえばジミニヒョンがいなかった。朝練はいたのに。嫌な予感しかせず俺はジミニヒョンのスマホに電話を掛けるが、やはり応答はない。

テヒョンはジミニヒョンと家が隣同士の幼馴染。クラスは違うはずだけど、あのふたりならそんなこと関係なさそうだ。そう自分でも考えるのが嫌だけど、実際そうなのだ。
ジミニヒョンはテヒョンのことを「妹みたいな子だよ」と言った。しかし脳内の俺の姉の「男の言う『妹みたいな』女は大抵抱いてるよ」という言葉に戦慄した。無理無理無理。とにかく抱いたかどうかはさておき(いやさておかないが、絶対に許さないが)十中八九どころか火を見るより明らかに、百パーセント、いや五億パーセント、ジミニヒョンは体調が悪いテヒョンを連れて帰っただろう。なんでお前がとかそんなのこの際関係ない、あのふたりは理屈じゃない。とにかく絶対テヒョンはあの芋餅野郎と一緒にいる。テヒョンもなんで俺に連絡してくれないのとか後から後から文句が出てくるけれど、とにかく頭でうだうだ考えるよりも俺は足を動かすことにした。

俺は風になる。いや風よりも早く、駆け抜ける。
信号とか守っている場合ではないしガードレールを遠回りして避けて通る時間すら惜しくてハードルの如く飛び越える。今なら陸上の世界大会で優勝できるくらいには爆走した。

いつもテヒョンとゆったり歩く道を走り抜けたおかげで、いつもかかる時間の半分弱ほどでテヒョンの家に着いた。どんどんどんとドアを叩きながら「テヒョンアアアアア!!!!!」と絶叫する。どんなに走った後であろうとも俺の肺は強靭なので力いっぱい叫べる。ミンギュにお前はターミネーターかと言われたほどに俺は体力バカである。

やがてがちゃんとドアが開いたかと思えば、髪をかき上げながらジミニヒョンが出てきた。なんで自分家かのように部屋着で出てきてんのこの人。

「……うるっさいなー。あ、ジョングガ。お疲れ」
「お疲れじゃねえわどういうことだよテヒョンイどこ」
「敬語抜けてんぞ」

ふん、とどこか人を小馬鹿にしたように笑うジミニヒョンはいつもの優しくて俺を可愛がってくれるヒョンではなかった。その細い目には剣呑な光さえある。

「テヒョンイは具合悪いから今日は会えないよ」
「何でですか。俺はテヒョンイの彼氏だから、俺が看病します。ジミニヒョンはどうぞお帰りください」
「そういうのに彼氏とか関係ないから。僕が一番テヒョンイがして欲しいことも求めてるものも分かってあげられてるし、とりあえず今日は大丈夫。じゃ」

何やら死ぬほど腹立つことを言いながらジミニヒョンがドアを一方的に締めようとする。

「オイオイオイ何言うてんねんボケかコラ何ドア締めようとしてんねん入れろや芋」
「何が芋じゃボケ帰れやしつこいな」
「いや誰が帰るかテヒョンイの様子確認させろや」
「嫌だっつってんだわホラお子様はお帰りくださいませ〜ホラ!ご飯の時間!さっさと帰ってお腹いっぱい食べて寝てな」
「バカにしてんじゃね〜!!あんたこそ帰れよ部活もサボってこんなとこいていいわけねえだろ!!」
「テヒョンイがお腹痛いっつってんのに踊ってる場合かよバァカ」
「いやそれは俺も一緒だし、てかそれより、てひょ、お、お腹痛いの!?!?なんで!?胃腸炎!?!?」

俺がそう言った途端ジミニヒョンはやべ、という顔をした。お腹が痛いってどういうこと、と絶叫すればジミニヒョンはうんざりした顔でうるさい、と言いながら、「………テヒョンイは生理痛が重いんだ」と言った。

「せ、いり、つう?」
「そう。はいはいお子様にはまだ早かったでちゅね、帰れ」
「断固拒否!!!てかなんでそんなのジミニヒョンが知ってんの」
「はあ?当たり前だろ?テヒョンイの生理周期くらい把握してるわ」
「いやだからなんで?俺が知らないのになんでヒョンが知ってるわけ???」
「僕の方がテヒョンイと長く一緒にいるからだね」

フンとほくそ笑む目の前のヒョンが心底憎たらしい。ていうかまじでなんでテヒョンイの生理周期把握してるわけ?意味がわからない。

「……じみなぁ。何さわいでるのお………」

玄関先でギャンギャン吠えたてていると、いい加減うるさかったのか奥からテヒョンイが出てきた。その顔はやはり血色が悪くて、タオルケットを抱きしめるようにしてお腹を抑えている。ふわふわのタオル地の部屋着は俺がプレゼントしたものだ。テヒョンは肌触りが良くてもこもこしたものが好きだから。

「テテ!寝てなってば」
「……あれ、じょんぐが……」
「ほら、ベッド戻りな」

ジミニヒョンがテヒョンの傍にすっ飛んでいって肩を抱き寄せるのが我慢ならなくて、俺はカバンを放り投げてテヒョンの家に駆け込んだ。お邪魔しますはちゃんと言った。

「あ!コラ!」

ジミニヒョンが家に入ってきた俺を睨むけど、テヒョンの傍にいるのは俺じゃなくちゃ嫌なのだ。

「……じょんぐが?」
「テヒョンア。大丈夫?」
「……うん」

力なく頷くテヒョンは大丈夫そうにはとても見えない。立っているのも辛そうなので慌ててお姫様抱っこすれば、びっくりしたように首元に抱きつかれる。柔らかい身体は熱を持っていた。ベッドにゆっくり下ろしてあげると、テヒョンがくたりと力を抜く。潤んだ目が可哀想なのに可愛くて、思わずふわふわした髪を撫でた。

「……来てくれたの?」
「……部活、終わって迎えに行ったのに、いないから。どうしたんだろうってすごく心配になって。それで家に行ったらジミニヒョンいるし。ジミニヒョンの方がテヒョンイのこと分かってるって言うし。やだよ、俺、テヒョンイのことなら全部知ってたいのに」

怒りたいのに、情けないことに涙の方が先に出てきた。こういうところが歳下っぽいと言われると分かっているのに。

──テヒョンの方がお腹が痛くて泣きたいはずなのに、テヒョンは俺の制服の裾をちょんと引っ張って、小さな声で「ぎゅってして」と言った。鼻をずびずび言わせながら言われた通りぎゅうと抱き締めると、「泣かないで」と耳元でいつもの優しい声が囁いた。

「じょんぐぎが来てくれて、わたし、うれしいよ。おなかいたいの、ちょっとだけよくなった」
「ほんと?」
「ん。おまえ、あったかいね」
「……あ!俺、今めっちゃ汗臭い……」
「いいの……」

目をとろん、とさせたテヒョンが大きな目をゆったりと笑みのかたちにした。
生理痛がどんなものか俺にはわからないけれど、きっとすごく辛いのだろう。いつもきりっとした眉をへにゃりと下げて、俺の頭を撫でながら「んぅ……」としんどそうに声を漏らすのがひたすら可哀想で、代わってあげたいと思う。そう思うのに、辛そうな顔すら可愛くて、ついつい柔らかいお腹を撫でながら顔を近づけてキスしたくなってしまう。我ながら最低だ。
それから少しして、長い睫毛が伏せられる。眠いの?と聞くと、ん、と小さく頷く声がした。

「はい面会時間終了です」

パン!と手を叩いてジミニヒョンが甘い空気を一瞬にして吹っ飛ばした。空気読めなさすぎやしないか?今の今まで腕組みをして部屋の入口にいたのが恐ろしいところである。

「いやなんでヒョンいるわけ?帰れば?」
「帰るのはお前だっつの」
「……んもう、じみな、ぐくに意地悪しないの……」

ふにゃりとした声がジミニヒョンを宥めると、「テテ〜意地悪なんかじゃないよ、うるさいとお前寝られないでしょ?」とかなんとか言いながらテヒョンの頭を撫でてタオルケットをかけ直した。それから。

「ジョングガ。ちょっと部屋の外来い」

顎でそう促されて渋々ヒョンについて行く。勝手知ったるといったふうにリビングへ進み椅子に座るよう言われ、イライラしながら仕方なく従う。
手を組み神妙な顔をしたヒョンは、「お前にはあの状態のテヒョンが何をしてほしいか何が必要かなんて何も分からないだろ?」と言った。喧嘩を売られている。

「は?分かりますよ。テヒョンイは俺にそばにいてほしいって思ってます」
「そういうことじゃねんだわ。それはお前の願望でありテヒョンイに本当に必要なものではないわけ。生理がいつ来るのか、ナプキンは昼用夜用何センチの羽有り無しどっちがいいか、いつもテヒョンイが薬貰いに行ってる産婦人科医の休診日はいつか、薬の減り具合はどうか、テヒョンにとっての最適な部屋の温度はどのくらいか、どの部屋着が一番テヒョンイがリラックスできるか、テヒョンイは今何が食べたくてその中の何ならお腹に優しいのか、貧血になってないか、熱出てないか、腰は痛くないか、浮腫みは辛くないか、お腹冷やさないようにしなきゃいけないからカイロや腹巻き用意して、生理痛に効くツボを把握して頃合を見てマッサージしてやって、それを踏まえた上で、ようやく、はじめて、テヒョンイ寒くない?寝れる?寝れないなら抱っこしてあげるよ、っていうセリフが吐けるわけ。あとはそれらをこなしながらメンタルケア。生理中は特にイライラしたり精神的に不安定になりやすいから、テヒョンが快適に過ごせるようにわがままも聞いてあげるし寂しくないように傍にいてやるしテヒョンが意味もなくイライラしてても受け止めてあげなきゃいけない。全部お前にできる?できないだろ??しかもさっきテヒョンの辛そうな顔見てちょっとムラッとしただろ??ん??そんなんでテヒョンの看病任せられるわけがないだろうが。お?反論できんの???」

ものすごい長いジミニヒョンのセリフを、俺の頭は右から左へ受け流した。だってちょっとよくわからなかった。朝用と夜用の羽って何?テヒョンが天使ってこと?それは知ってるんだけど。

「確かによくわかりませんでしたしテヒョンイはいつ如何なる時もかわいいので年中ムラムラしてますけど、テヒョンイは俺に傍にいてほしいはずです。わかりました、テヒョンイの看病はしていいです。つまり家政婦的なポジなら許すということです。俺がテヒョンイの抱き枕になります。ジミニヒョンまさか俺という存在をスルーしてテヒョンイ抱き締めて寝たりしてないでしょうね?最低じゃないですか?浮気ですよ!」
「いいや?最低でもなんでもないけど?テヒョンイは何かを抱っこしてないと寝れないし、生理の時は尚更辛いだろうからテヒョンイが寒くないように寂しくないように抱っこしてあげてんの。それの何が浮気なわけ?僕とテヒョンイは家族同然だし」
「はあ?それなら俺とテヒョンイだって家族同然ですけど?将来結婚するんで。ジミニヒョンはただの近所の人、許しても家政婦の餅ですわかりますか?ドゥーユーガソリンスタンド?」
「カッコつけて英語使おうとしてんじゃねーよガソスタじゃなくてアンダスタンだろ英語3点万年脳筋野郎!こんなバカをテヒョンイに紹介するべきじゃなかったね!テテはやっぱり渡せない!」
「はぁー!?何がテテですか勝手にかわいい呼び方しないでください誰の許可を得て結婚決めるかってまず少なくともあんたじゃねーし!俺の方がテヒョンイにふさわしいんで!あと英語3点じゃなくて4点な!!こないだの補習で1点上がったんで!!あと俺の方が身長あるしテヒョンイを守る鋼の筋肉もありますしィ〜!ヒョンはチビだからテヒョンイと並ぶとちょっとバランス悪いんじゃないですかぁ〜!?」
「んだとコラいてまうどワリャ、1点上がったくらいで威張るなボケ、なんだその点数見たことないわパン買ったらたまについてる皿と交換できるシールの点数かよ!!呆れたわ締め出すぞオオン!?」
「ほ〜らそうやってすぐヤンキー面する、清楚なテヒョンイに釣り合いませんねぇ〜!」
「テヒョンイのそばにいるなら強い男じゃないとだめだろうが!僕はテコンドー黒帯剣道歴8年やぞテメーのハリボテ筋肉とは訳が違うんじゃオラッッ!!」

「もぉ、ジミニもジョングギも何けんかしてるの〜。やめてっていったでしょ。もう二人とも帰って」
「エッ!?テテ、まだごはん食べてないでしょ!?一緒に食べなきゃ!!」
「お、俺も!俺もテヒョンイとごはん食べたい!てか食べさせたい!あーんしてあげるし食後一緒に風呂入あだっ!?」
「こんなバカは早くお帰り願おう!ただの変態だ!!」
「……けんかしないでっていってるのに……」

テヒョンの長い下睫毛にきらりと涙が乗ったのを見て、俺もジミニヒョンも顔面蒼白になった。メンタルケア!!メンタルケアが必要だよジミニヒョン!!思わず心の中で叫んだ。

「テテ〜っ!!ごめんよ、ごめんねぇ〜!!このバッ……ジョングギと仲良くするから、泣かないで!!ね!!!今夜はお前の好きなもの3人で食べよ!!!」
「そ、そうですよ俺たち超仲良し!!クソ芋ッ……ジミニヒョンやっさしィ〜!!さっ!ごはんの用意しましょうね!!!」

テヒョンがぐずるのを見てそそくさと態度をころりと変えてテンション高くごはんごはん!と叫ぶ男二人。あまりに滑稽すぎてこの場にミンギュがいたら笑い転げていたことだろう。



「じみなぁ。ねえ、じみな?」
「なぁにテテ」
「んーん、なんでもないよ」
「なんだよぉ〜何かあるから呼んだんじゃないの?」
「呼びたくなったから呼んだんじゃだめ?」
「だめじゃないよ〜!もう、可愛いなあテテは」
「んふふ。ジミニはかっこいいね、私が食べたいものなんでも作れちゃうの」
「簡単なやつだけどね。お前のために料理覚えたようなもんだから」
「あは。私より料理上手だもんねぇ」
「テテは手切っちゃいそうだし火傷しそうだし危ないから食べるだけでいいよ」
「食べるだけじゃ太っちゃうよお」
「むしろ太った方がいいよ、細すぎるって」

細すぎるくらいなのにお尻も胸も大きめなのが可愛いんだよな〜。白目を剥きながら俺は2人の甘い会話を聞いていた。ねえテヒョンイ、あなたどっちと付き合ってんの?

あれからジミニヒョンはテヒョン専用メニューだとかなんとか言ってリンゴを切ったりおかゆを作ったりしていた。それもテヒョンが「ジミニが作ったごはん食べたい」と言ったからだし、ジミニヒョンが具材を切る包丁の音でまたうとうとし始めたテヒョンを俺は片時も離れんと言わんばかりに抱き締めていたわけだが、なんだろうこの敗北感。おかしくね?幼なじみってどこもこんなもんなの?


それから寝たり起きたりを繰り返していたテヒョンの膝枕権をジミニヒョンと奪い合うという不毛な争いをしているとあっという間に時計は21時を回り、一つ溜息をついたジミニヒョンは仕方ないというように立ち上がった。

「僕帰るわ、明日朝練あるし。お前もだけどな。早く帰れよ」
「はい!!!」

帰る支度を始めるジミニヒョンに向かって今日一番の笑みを見せると舌打ちされたがもうそんなことはどうでもいい、やっとテヒョンと二人きりになれる。……有り得るだろうか、こんな時間まで幼なじみの男とテヒョンの膝枕をどっちがするかで争っていただなんて。恐ろしい男だ。

「……じみな。帰っちゃうの」
「うん。明日学校来れるかな」
「行く……」
「来れる?本当に?」
「じみにが迎えに来てよ」
「ふふ、わかっ「いやいやいや俺いますやん俺!!テヒョンア!?!?」
「うるさいなお前」
「じょんぐぎ来てくれるの?」
「いやこいつ朝練あるから」
「あんたもじゃん」

最後の最後まで口喧嘩を繰り広げながらバシンと玄関の扉を閉めると、やっと静かになる。
またテヒョンを抱き上げてベッドに連れていく。テヒョンが嬉しそうに「ジョングギわたしの王子様みたい」というのが可愛すぎて、テヒョンのおでこに自分のおでこをこつんとぶつけた。

「ジミニヒョンはあなたの王子様じゃないからね」
「うん。ジョングギだけだよ」

ふわふわのルームウェアに身を包んで可愛い顔をするのは反則だと思う。それに、ジミニヒョンと散々イチャイチャしているところを見せつけられたので、ちょっとくらいはテヒョンを甘やかしたい。

「いつもヒョンとあんなふうなの?いくら幼なじみとはいえさぁ」

あまりに面白くなかったのでひとつ文句を言うと、「あのね」とテヒョンが俯いた。

「なあに」
「あのね。……ほんとはもっとおまえとくっついていたかったけど、おまえにくっついてるともっともっとってなっちゃうから、抑えなきゃって思ったの。だからジミニとばっかり話しちゃった。ごめんね?」
「……………あなたってさあ。ほんとさあ……………」

やだほんと。もう本当にこの人はずるすぎる。そりゃあジミニヒョンがいなかったら生理で体調がよくないのにテヒョンに手を出しちゃいそうで危なかったけど、あなたからそうやって言われちゃったら抑えられる気がしないじゃないか。ううう、と唸りながらテヒョンの柔らかいお腹に顔を埋める。うう好き。柔らかい。可愛い。ほんとに好き。「ぐぅ、好き」……頭の上から更に可愛い声が聞こえてきてなんかもう泣きそうだった。可愛い。限界突破してる。……………抱きたい。いやいや。あ〜。
テヒョンの甘い匂いを嗅げば嗅ぐほど股間が熱を持っていく。やばいとわかっているのに、テヒョンの唇に吸い付いたらもう止まれなかった。
しかし。
ぴんぽーん、と間の抜けた音が家中に響いたと思ったら、「あ、オンマとアッパ帰ってきた!」と言って慌てたテヒョンが俺の頭を床にそのまま落とした。ゴツン!と鈍い音が木霊する。

「いてぇ!」
「あぁごめんじょんぐが!あっどうしようこんな時間にじょんぐぎいたら怒られちゃうっ」

わたわた慌てるテヒョンに「わたしの部屋に隠れてて!」と押し込まれて、俺は目を白黒させながら部屋に放り込まれたのだった。

結局その後はテヒョンがお父さんとお母さんに怒られないように細心の注意を払って家から脱出を試みたが途中で見つかり、娘さんとお付き合いさせて頂いてるチョンジョングクですと挨拶する羽目になった。

「あらあ。ジミンくんじゃないのねえ」

テヒョンのお母さんが意外そうに言う。やめてくれ。

「僕はそのうちボゴムくんかソジュンくんと付き合うんだと思ってたよ」

いや誰それ。候補が多くね。
テヒョンとよく似た雰囲気の夫婦は聞きなれない名前を出したりして俺をモヤつかせながらも、そうなんだねえ、テヒョンをよろしくね、と受け入れてくれたようだった。


「ごめんね?結局見つかっちゃった」

玄関口で、テヒョンが済まなそうに言う。

「ううん。大丈夫。ちゃんとご両親に挨拶できてよかったよ」
「うふ、ふたりともジョングギのことイケメンだねって言ってたよ」
「そんな事ないと思うけど……。ねえ、ソジュンさんとかボゴムさんとかたくさん俺の知らない名前が出てきたんだけど誰」
「あー、えっと、近所に住んでる大学生のお兄さんと、違う高校の三年の先輩だよ。昔から良くしてもらってて、ふたりともすごく優しいの。アッパったらわたしの友達で知ってる人がそれくらいだから名前出したのかな」

なるほどね。テヒョンの周りには他にもたくさん候補と言える男の人がいるということか。勘弁してくれ。そう思いつつ、「そっか!今度会ってみたいな」と言うと、呑気なテヒョンは「いいよぉ。今度紹介するね」と笑っていた。可愛い。

「また明日、朝迎えに行くから」
「朝練あるんでしょ?」
「朝練終わる前に適当に抜ける」
「いいよ、大丈夫だよ」
「いーや。多分俺が行かなかったとしてもジミニヒョンが行こうとするだろうし。だから、俺が行くまで家で待ってて」
「うん、ありがとう」

気をつけて帰ってね、と少し寂しそうに言うテヒョンに触れるだけのキスをして、また明日、と手を振った。可愛い俺の天使。家に帰ったら生理について調べよう。次こそはジミニヒョンなしでテヒョンのお世話するんだからな。













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