Pray on.1









一目見たときから美味そうだと思った。美しく整った顔とどこか柔らかさすら感じられる肉体の下に隠された血液を、猛烈に欲した。唾液が口内を満たし、本能が疼く。捕まえて、思い切り首筋に歯を立てて、全て吸い尽くしてしまいたい。こんな衝動は初めてだったから、これから普通に食事をしなければならないというのに今すぐ自分のものにしたくて堪らなくなった。だってこんな、人間の食べるものなんてどれもこれも不味いのだ。舌に載せると脂っこくて、すぐに吐き出してしまいそうになる。けれど今だけは、この時だけは我慢しなくては。親切な人間を装って、あの美しい男ににじり寄り、懐柔して連れ去る。そうと決まれば早くこの馬鹿げた飲み会がお開きにならないかと、ソワソワしてしまう身体を落ち着かせなければならなかった。






俺は外見の年齢で言えば大学生くらいだ。吸血鬼に正しい年齢なんてない。何年生きてるのかなんて数えるのは馬鹿らしくなるくらい生きている。ただ、吸血鬼も人間だらけの世界に混じって生活していかなければ、絶滅してしまうのだ。人間ばかりが土地を占めて、吸血鬼は昔から狩られて殺されてばかりいる。生き残ってもこそこそ生活していたら人間に滅多に近付けないから飢えて死ぬ。そんな悲劇を繰り返さないため、あたかも自分は普通の人間ですよというように、流行に合わせた服を着て、学校へ行き、食事をし、友達を作りつるんだりして、人間生活に精を出している。
前述した通り、吸血鬼には人間の食事は口に合わないという致命的な欠陥があるので、慣れるしかない。本当の食事は人間の血液だし、それも美しい人間でなければ美味しくない。そりゃあ飢えて死ぬだろう。なんて不便なんだろうと思うけれど、一旦美しい人間を手に入れてしまえば後は楽なのだ。まあ、それが最短にして最難関なのだけれど。

美しい人間なら、男女はどちらでも構わないという吸血鬼の方が多い。性別より余程容姿のレベルの高さの方が重要で、例えば「美味しい」という言葉に「美」とあるように、容姿が美しければ美しいほどに味のクオリティが高くなる。強いて言うならあとは好みで、女の方がマイルドで甘い味がする。俺はというと男女に拘りはないから、早く俺のものになってくれるペット探しをしている真っ只中というところだ。そんな中に、キムテヒョンという、同じ大学のとびきり目を惹く美しい人間を見つけてしまったのだった。美への感性は人それぞれだからそれが味の好みへ繋がる訳だが、あのキムテヒョンという男はとても俺の好みの顔をしていた。高い鼻、切れ長の目、細い顎。すらっとした長い手足、男のくせに柔らかそうな尻。骨格がしっかりしているのになぜあんなに柔らかそうに見えるのかが謎で、早くその無粋な布を取り去って確かめてしまいたいなあと思った。そしてあのぽってりとした唇に噛み付いた日には、もう暫く何もいらないと思えるほど満足することだろう。

キムテヒョンを初めて見たのは俺が四月に大学に入学して一週間ほど経ってからだ。あまりに美しいために浮いて見えて、他の生徒も遠巻きにしているようだった。それでも彼の周りにはいつも人がいたから、性格がいいのかもしれない。隣の同級生に「あれ誰?」と思わず聞けば、「有名なのに知らないのか?三年のキムテヒョンだよ」と教えられた。名前と顔が知れ渡っているのは、あの外見なら自然な流れなのだろう。そう納得すると同時にあまりに好みの顔だったから、その日から俺はキムテヒョンについて調べることにした。
─キムテヒョン、三年生、経済学部。写真サークルに入っている。最低限それだけ分かれば良かった。なんとかしてお近づきになるために早速写真サークルに申し込み、毎日のように顔を出して、獲物が来るのを今か今かと待ち続けた。
それなのに一向に顔を出さないから、俺は焦れていた。早く会いたい。話してみたい。あの綺麗な顔でどんなことを話すのだろう。どんな風に表情を変えるのだろう。どんな声で言葉を紡ぐのだろう。歯で感じる唇の厚みは。肌の滑らかさは。血の色と味は。知らず知らずのうちに唾液が湧き出る。今やキムテヒョン以外の血を吸う気になれず人間を見つけるまでの繋ぎとして飲んでいる血液ドリンクで凌いで、ただ待った。

ある時、サークルで新入生歓迎会があると聞かされた。これならキムテヒョンも顔を出すだろうと意気揚々と参加したらきちんと彼は出席していた。その瞬間から俺はもうキムテヒョンしか目に入らない。目の前の不味そうな料理を美味しそうに頬張るキムテヒョンがあまりにも美味しそうで、ぐうと腹が鳴った。
俺はさり気なさを最大限に装いながら、いそいそと彼との距離を詰めるために隣の席へ移動した。

「俺は一年のジョングクです。キムテヒョン先輩ですよね?よろしくお願いします」

俺は元々人見知りの質で、話すと冷たいと言われることがある。ぶっきらぼうにならないようにいつも以上に声色を柔らかくすることを意識した。テヒョン先輩は切れ長の目を細めながら、よろしくね、と挨拶を返してきた。耳に心地の良い低い声と優しげな話し方。ふわりと派手に染められた銀髪が揺れる。外見は華やかすぎるほどなのに、物腰柔らかで威圧感がない。それどころか危機感とか警戒心とかいうものと無縁そうで、何となく危なっかしいなと思いつつ、隣に座るだけで噎せ返る馨しい匂いに目眩がしそうになる。美味しそうすぎる。こんな人間をこんなところに置いておいたら取られてしまいそうだ。皆平然としているから吸血鬼なんていないのだろうが。俺は早くも酒なんかより彼の匂いに酔いそうになっていた。

「大学、たのしい?何でも悩んでることがあったら相談してね」

先輩がふわりと笑う。切れ長の目が細められ、柔らかそうな唇がきゅうと笑みの形になる。俺はぶわりと頬が熱くなるのを感じた。うわあ、どうしよう。タイプすぎる。上擦る声ではい、と返事をした。

「ジョングクってかっこいいね。モテそう」

くすっと笑う彼の顔にぼんやり見蕩れながら、そんなことありませんと返す。ちなみにほとんどの吸血鬼にとって人間とは捕食対象であり、恋愛感情はない。寿命も吸血鬼の方が格段に長いので、パートナーとしては単純に不向きなのだ。それでも自分好みの人間を見つけた吸血鬼によっては、人間と同じように付き合ったり結婚したりすることもある。俺は残念ながら自分好みの人間に会ったのがこのキムテヒョンで、モノにしたいと思った人間も目の前の彼だけなので、その辺の人間とお付き合いをしたことはない。

「テヒョン先輩もモテるでしょう」
「うーん、まあまあ?」

あは、と笑う姿はへらりと軽くて可愛らしい。美味しそうな唇。ああ、早く食べたいな。

彼は友人が多くて慕われている。少し見ていればわかる。誰にでも優しくて、ノリがよくて、無防備だ。甘そうな酒ばかりちびちび飲んで、口を大きく開けて笑って、楽しそうに話す。あまり強い酒は飲んでいないはずなのに頬は紅潮し、首まで赤くなっている。酒に弱いんだと分かってますます俺の気分は上昇する。酔わせて連れ帰ろう。

テヒョン先輩と仲良くなるために隣を陣取り続けた。彼はどうやら後輩にも優しいらしく、親切に大学の単位の話やサークルの話をしてくれた。単位を取るのが楽な講義、外してはいけない講義。学部が違っても共通の講義があるのでありがたくそれを教えてもらう。それから自分の趣味はカメラを弄ることで、写真を撮ることも大好きだから、今度先輩を撮らせてほしい、と頼んでみた。

「ええ?おれなんて撮ってもしょうがないよ」
「本気で言ってます?あなたほど被写体に向いてる人もいないと思います」
「よく頼まれるんだよねえ、恥ずかしいから断ってるんだけど」
「お願いです、一回だけ」

そう言えばううん、一回だけね、と頷いてくれた。甘い人だなあ、と思いながら純粋に嬉しいと思っている自分に気づく。どんどんキムテヒョンの魅力に踏み込んでいっているようで興奮する。
それから腕時計で時間を見て歓迎会が始まって二時間弱が経ったのを確認し、さりげなく自分の飲んでいたウイスキーを彼のグラスと差し替えて遠ざけた。自分の手元なんて見ていないテヒョン先輩は話しながらグラスを手に取って、何の疑いもなく口元へ運ぶ。これまた美味そうな喉仏がごくんと液体を流し込んだとき、ぱっとその目が見開かれた。

「あ、れ?おれのお酒じゃない……」

途端に目をとろんとさせた彼が訝しげに自分のグラスを見る。彼の隣の名も知らぬ先輩が「誰かのと取り違えたんだろ、お前酒弱いんだから気をつけろよ」と話している。

「んう〜、あ〜、眠くなってきちゃった」
「わあ、ここで寝るなよ?」

目を擦って頭をふらふらさせる彼に慌てる先輩。想像以上に酒に弱くて笑ってしまう。他の先輩は二次会の話をしていたが、これほど眠そうにしていれば彼は行かないだろう。先輩がふらふらしている彼を支えながらあたふたしているところに、「重そうだからこっちに持たせかけていいですよ」と肩をこちらへ寄せる。こてんと俺の肩に頭を寄せたテヒョン先輩の匂いが近くていよいよドキドキしてきた。いい匂いだ。それは吸血鬼として唆られる匂いでもあり、普通の人間同士だったとしてもセンスのいい香水の匂いで、感じ方は違えどいい匂いだと思っただろう。
テヒョン先輩は「んむ」とか「う〜」とか愚図りながら重そうな瞼を必死に開けているが、「寝ちゃってもいいですよ?後で起こしますから」と言えば、んん、とひとつ唸ってから完全に瞼を閉じた。

来た、これは勝機。やがて二次会はカラオケで、と話が纏まる。先輩は「こいつは無理だなあ、どうしようか」と狙い通り困った顔をするので、にこやかに「俺は帰るので送りますよ」と言った。しかし先輩は困った顔を崩さず「こいつの家わかんないだろ?それに今日知り合ったばっかりだろうに悪いよ」と譲らない。友人としては良いやつだが今は要らぬお節介だ。外に出たら目が覚めるかもしれないし、とかタクシーに乗せたら叩き起して家を聞き出すので大丈夫だとか何とか言いくるめ、呼んでおいたタクシーにさっさと彼を乗せる。テヒョン先輩が不参加と知ってあからさまに残念そうな顔をする数人を横目に見る。
─早く食べてしまいたいというのもあるけれど、カラオケみたいな空気の悪いところに長時間いたら、彼が不味くなってしまいそうで嫌だ。不細工で汚い人間はそこで指咥えて見てろ。俺の手の中にある美しい人間は、もう俺のものだ。

バタン、とタクシーのドアが閉まる。完全にサークルの集団と隔てられて、夜の街をタクシーが滑らかに走り出す。俺の家の住所を告げ、今だに俺の肩でくうくう寝息を立てる顔を覗き込む。顔が赤い。ん、と漏れる寝息と悩ましげな眉が色っぽくて、思わず唇に噛み付こうとして思い直す。まだタクシーの中である。

俺の住むマンションに着いてから、彼を横抱きにして部屋へ向かった。趣味の一環として身体を鍛えているため、同じくらいの身長の彼でも運ぶことができた。俺とは筋肉量が違うようで、体格にしては少し軽い。全く目を覚ます気配のない彼に笑みを溢しながら、ゆっくりとベッドに彼の身体を下ろした。白いシーツに散らばる彼のブリーチして染めたであろう銀髪。月明かりに照らされて高い鼻に影ができる。

「─ねえ。起きて、テヒョン先輩」

耳元で囁くように言って、彼の身体を揺らす。そうすると漸く「ん、う、」と声を洩らしてからうっすらと目を開ける。それから居酒屋とは全く違う部屋の雰囲気に、驚いたように身体を起こした。

「あ、れ?ここ、どこ……」
「俺の家ですよ。テヒョン先輩、俺がわかりますか?」
「え……?ジョング、ク?なんで……?」
「あなたが酔っ払って寝ちゃったから、連れて帰ったんです。終電は無くなったしあなたの家の場所も分からないし、あなたの友達は二次会に行きたそうにしていたので」
「あ……そう、なんだ。ごめんね……ジョングクも二次会、行きたかったよね」
「いいえ。あなたと、やっと二人きりになれた」
「……え?」

不思議そうに見開かれた目が俺を真っ直ぐに見つめる。何を言っているか分からないとでも言いたげだ。ゆらりと揺れる瞳と今だ紅潮した頬。ゆっくりと細い顎に手を掛けると、「何、どういうこと?」と戸惑ったように身を捩った。可愛い、可哀想、あなたが美しいばっかりに、吸血鬼に捕まってしまった。それも、あなたは何一つ自分がどういう状況なのか理解出来ていない。とん、と彼の肩を押すと、驚くほどに力の入っていない身体は吸い込まれるようにベッドに倒れてしまう。ギシ、と音を立てながらベッドに乗り上げて彼を抑え込むと、怯えた目に涙の膜が張る。いちいち加虐心を煽る顔をするなあ。

「恐怖心で血の味も深みが出る。いいですよ、もっと怯えて、俺を見て」
「な、に、どういう、こと?ねえ、何をしようとしてるの?」

震えながら俺に必死に問いかける彼に、無言でにやりと笑う。唇から覗く鋭い牙に、テヒョン先輩が息を呑んだ。

「俺はね、ただの人間じゃないんです。吸血鬼、って知ってるでしょう?あれ、お伽噺でもなんでもなくて、存在するんですよ。数は少ないけど、その分人間の何倍もこの世で長く生きてる。あなたは俺から見たら赤ちゃんみたいなものかな」
「吸血、鬼……?」
「そう、吸血鬼。あなたはすっごく俺の好みだから、前から目をつけてました。今日やっと会えた。だから絶対に俺のものにしようって決めたんです」
「おまえの、……?」

舌っ足らずにゆっくり話す彼は、訳の分からない状況とアルコールのせいでふわふわとしている。話を飲み込むので精一杯な様子の彼へ、幼子に語りかけるように説明する。

「そう。だから、あなたは今日から俺のペットだよ」
「……?」
「そう言っても分からないだろうから、今から食べてあげますよ」

彼の緩いシャツの首元に手を掛けてボタンを外せば、ようやく慌てたように彼が抵抗し始める。

「ま、って、たべるってどういうこと?やめて」
「やめるわけないでしょう?言ったはずです、ずっとあなたを待ってたって」

みるみるうちに顔色が悪くなっていく彼に微笑みかける。その間もぷちぷちとシャツのボタンを外す手は止めない。いやだ、と首を振りながら手を突っぱねようとする彼の力は酒のせいかまだ弱くて、簡単に振り解けてしまう。剥き出しになった彼の首筋を月明かりに照らす。するりと撫でるとびくりと震えて、ついに彼が涙を零した。

「泣かないで。痛いのは一瞬です。だんだん気持ち良くなってくるから」

首筋へゆっくりと顔を近づける。馨しい匂いを醸し出すそこに鼻先を擦り付けて、それから牙を突き立てる。

「ぃ、あ゛ッ!?や、やだぁ!いた、い……!」
「ん……」

牙によってぶち、と肌が破れて血が溢れ出る。べろりと舌で舐めとった途端、びりりと脳を刺激する濃厚な味。今まで味わったことのない、とびきり美味しいそれは、一瞬にして俺を虜にしていた。じゅ、と吸い上げる度にびくびく震える彼。足先が何度もシーツを蹴って、弱々しくいたいとすすり泣いている。ぼろぼろと涙を零して、痛みに耐えるように目を瞑っている。

「はは、美味しい……、こんなに美味しいの初めてですよ、テヒョン先輩。よく今まで他の吸血鬼に食べられなかったね、最高、ははッ!」

歓喜に震えて笑えば、涙でぐずぐずになったテヒョン先輩が茫洋とした目で俺を見つめる。その髪をゆっくりと撫でつけて、もう一度牙を突き立てた。

「あッ!ん、いや、いやだッ……」

自分では分からないのかな。嫌だと洩らすその声がどんどん甘くなっていることに。シーツを蹴っていた足が膝を擦り寄せていることに。その顔が、恍惚として蕩けていっていることに。

「はあ、」
「っあ、あ、あ!ひ、んうっ」
「ね?気持ちいいでしょ?」
「ちがっ、きも、ちよくなんて、な、ッ!」
「素直になって?抵抗したってもう、俺があなたの血を吸う前の身体には戻れないんだからさ」
「…、ん、う……?」
「吸血鬼に血を一度でも吸われたら、あなたの身体は血を吸って欲しくてたまらなくなるんだ。身体が疼いて、俺に食べてくださいって縋り付きたくなっちゃうんだよ。だから諦めて」
「そんなのうそ、嘘だあ、や、からだ、あつ、おかしい……っ」
「ほら。俺に血吸われたから、変わっていってるよ。気持ちよかったでしょ?」

吸血鬼に血を吸われたらどうなるか。
同じく吸血鬼になるとか諸説あるんだろうが、それは違う。正しくは吸血鬼の血を与えられれば、相手も吸血鬼になる。一方的に吸血されるとそれ自体が癖になって、吸血されること自体に快感を得るようになる。それは性欲より激しいらしく、吸血鬼に食材用に斡旋される人間たちは狂ったように血を吸われたがっていた。きっとそれほど時間を置かずに彼も快感を得るために血を吸われたがる。その欲求に抗う術はない。

それでも嫌だ違うと首を振って否定し続ける彼にいい加減焦れて、強引にこちらを向かせてキスをする。ぬめる血に彼が目を見開いて、俺の唇をがり、と噛んだ。

「うそつき……、美味しくなんて、ない」
「あなたは人間なんだから当たり前でしょう?それより馬鹿だなあ、吸血鬼の血を与えられたら自分も吸血鬼になってしまうとか、ざっくりでもそういう作り話知ってるものじゃないんですか?」

そう言えば彼がびし、と固まる。まあ、唇が切れてないから彼の口内に俺の血は入っていないけれど。

テヒョン先輩の首筋に垂れる血を掬いとって彼の口元にべたりとつける。それから徐に自分のスマホを取り出して、フラッシュを焚いて写真を撮った。無機質なシャッター音に、彼が目を丸くする。画面の中には真っ赤な口紅を塗ったかのような彼が映り込んでいる。夜の闇の中で髪を乱し首を血塗れにした、途轍もなく美味しそうなキムテヒョンの写真。本当なら一眼レフで撮りたいけれど、暗闇の中の彼を撮るとなると一眼レフは不向きだ。

「なんで、撮るの」
「さっき約束したじゃないですか。あなたを撮らせてって」
「そ、んな……こんなことするなら良いって言わなかったのに」
「後悔してるの?もう遅いですよ。いいじゃないですか、最高に綺麗な写真が撮れたんだから」
「嫌だ、消して」
「駄目ですよ。まあ別にこれをダシに脅そうとか考えてないから大丈夫です。こんなのなくても、あなたは俺が欲しくなる」

敵意と悲しみと怯えの入り交じる顔の、べったりとついた血を舐めとる。

「どんなに抵抗しても無駄だよ、あなたはもう既に俺のものなんだから」

あなたは一生俺のごはんだよ。

そう言った時の絶望に染まる顔がとても可愛らしくて、動かなくなった彼の身体を割り開いて更に密着する。

「ご所望とあらばお礼にもっと気持ち良くしてあげますよ?」
「……!ッばか!」

ああ怯えちゃって可愛いな。もう一度首筋を舐めて下半身を押し付ければ、「あん、」と思わずといったように彼が甘い声を出す。一瞬で蕩けてしまった自分の身体に絶望する顔が凄く唆る。身体が言うことをきかないでしょう。それなら抗えない快感に、早く身を委ねたらいいのに。そうして、早く堕ちてきてよ。

「テヒョン先輩、たくさん愛してあげる」

身体を作り変えたら、そのうち俺の事を好きになってくれるだろうか。縋りつきながら、血を吸って欲しいと泣く彼を想像する。完全に俺のものになったキムテヒョンは、きっと今よりずっと可愛い。




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