神様はあなたがいい 1


・kookvです
・漫画『G/A/N/G/S/T/A.』の設定を借りていますが素敵設定を生かしきれてません

↓以下注意点
・死体、暴力、血などの残酷な表現
・ジョングク・ナムジュン・ユンギに喫煙シーン
・テヒョンが売春をする・暴力を受けるなどのシーン、モブ×テヒョンの描写
・特殊な設定について一応説明を挟んだりはしていますが分かりづらいところは雰囲気で読み流してくださいごめんなさい
・全3話予定、3話のみ性描写有り
・無駄に長い
・視点がコロコロ変わる

以上問題無ければお進みください。
拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです〜






淀んでいてどこか熱を帯びた、湿っぽい空気が頬を撫でる。この街にはありふれた薄暗い路地裏は、しかしテヒョンの唯一の居場所だった。

「足りねえよ、もっとマトモに稼げねえのか」

力の入らない身体では、軽く押されただけですぐ尻餅をついてしまう。為す術もなくそのまま地面に座り込むと、薄っぺらい紙束がヒラヒラとテヒョンを追いかけるように落ちてきた。それをボーッと見ていたら乱暴に髪を掴まれ、ぐ、と強引に頭を持ち上げられる。それから力加減も無しに思い切り頬を張られ、薄暗い路地に不格好な音が響いた。口の端が切れて鉄の味が広がる。瞳孔を開いたテヒョンの“飼い主”が、興奮気味にもう一度テヒョンに手を振りかざす。
─痛みに耐え、幾人もの男たちに身体を好き勝手されて、少ない金をかき集めて、殴られて、傷が治るのを待って、傷が治らないうちにまた新しい傷が出来て。何度こんなことを繰り返しただろう。衝撃に頭がぼんやりしてくる。極力無駄に口の中を切らないように歯を食いしばっている自分が健気で笑えてきそうだ。

「痛ぇのは厭だろう?死ぬ気で身体売れよ、テヒョン」

引き攣った喉に叱咤して何とか「はい」と返事をすると、テヒョンの飼い主である男は落ちた金を拾い上げてどこかへ消えていった。薄汚くなったシャツにぼたぼたと血が落ちていく。
身一つで金を作ることがいかに大変かは痛いほどに知っている。だからこそ服を一着買い足すのも大分覚悟がいるのに、飼い主は血が出てもお構いなく殴るし、テヒョンを買う男たちだって、興奮すると服を引き裂く勢いで脱がせてくる。紙ナプキンじゃないんだからもっと丁寧に扱ってくれよ、ととても口には出せない文句を呑み込む。立ち上がって覚束無い足取りで表に出ると、いつもテヒョンに「この辺りで商売をするな」と怒鳴ってくる煙草屋の店主に見つかってしまい、思わず首がすくみ上がった。

「ここは禁止区域だって言ったろ!こっちの商売の邪魔だから他所でやんな!」

─ああ、そうなんだけど。おれにも行くところがないんだよ、ごめんね。
禁止区域で商売をすることが危ないことは分かっているし、煙草屋の商売の邪魔をして悪いとは思っているが、テヒョンも辞めるわけにはいかなかった。飼い主を失ってしまったら、今更どうやって生きていけばいいのか分からない。
殴られた頬が痛んで、煙草屋の店主に頭を下げる気も起きなかった。くらくらする頭で壁にもたれながら歩いていると、ふと頭の上に何かが降ってきた。ゆっくり手を伸ばすと、それはきちんと畳まれた白いハンカチだった。すぐに上を見上げても誰も居ない。真っ白なのに、使ってもいいのだろうか。
─誰が、これをテヒョンに向かって落としたのだろう。声も姿も知らない誰かに、テヒョンは心の中でありがとう、と呟いた。そういえば、もうずっと、心の底から誰かに向かって「ありがとう」なんて言っていない。金を払って自分を抱いた男に囁く心無い社交辞令のようなそれじゃなくて。
テヒョンはハンカチを見つめながら、神様が心を失うな、と言っているんだと考えた。そう思い込まなければ、壊れてしまいそうだった。ひぐ、と喉の奥が変な音を立てて、目の奥が熱くなる。思わずそのハンカチを顔に押し当てた。洗剤の清潔な匂いに混じって、微かに煙草の匂いがした。


▲▼


一際暗い路地がある。その路地に最近同じ顔がいるのをよく見かける。ベランダで煙草を吸う時に二階から見下ろしていれば、あの路地で何をしているのかも、どんな顔をしているのかもよく見えた。
煙草を吸おうとしてがさりとポケットに突っ込んだ指は虚しく空振りし、フィルター部分を掴むことは無かった。仕方がないのでその路地の近くにある馴染みの煙草屋へ、ジョングクは散歩がてら買いに行くことにした。

「よく居るんですか?彼」

今日も路地の奥に座り込んでいるのが見えたので何となく煙草屋の店主に訊いてみれば、呆れたように溜息をつかれた。

「最近見ない顔が増えてね。この辺で放し飼いにしてるみたいでさ、禁止区域だから止めろと言っても聞きやしない。あーやだ、だから嫌なんだよチンピラは」

ヤレヤレと手を振る店主にお礼を言っていつもの銘柄を貰い、金を渡す。
誰かに飼われている「彼」。彼の事情は知らないが、ベランダから眺めたときに見える彼は、泣いているか男に抱かれているか、ぼんやり座り込んでいるかくらいしかしていない。到底好きで身体を差し出しているようには見えないので、強制的に売りをさせられているのだろう。遠目から見ても彼が美しい顔をしているのは一目瞭然なので、男でも売りをさせればそれなりに金になるのかもしれない。

自分はヘビースモーカーなのだろう。そう自覚したのは本日何度目かの彼をベランダから見かけたからだ。一日何本吸っているかなんて一々数えていないが、喫煙するたびに何となくベランダに出て、彼の姿を見ながら煙草を吸っていることに気づいてしまったのだった。無意識下に彼を見たくなるほどには、彼の容姿は恐ろしいほど整っていた。彼の艶やかな金髪の下の目は虚ろで、よくできた人形のように見える。いつもその血の気の失せた顔に表情は無いのに、この日はふらりと路地を出た彼が何故か顔を血で汚しているのが見えてしまった。
思わず声を掛けてしまいそうになったが、彼とジョングクは知り合いでも何でもない。どうせ声を掛けたところで、助けてやれるわけでもない。だから、せめてもの慰めに、何も持っていなさそうな彼の小さな頭へ自分のスラックスのポケットに入っていたハンカチを落とした。彼が受け取ったかは、確認しなかった。

「ほら、仕事行くよジョングガ!」

ちょうどその時、後ろで仕事の相棒であるジミンがジョングクを呼んだので、はいはいと返事をする。ジャケットを手に引っ掛け、銃をホルダーに収めた。
──この街には彼のような立場の人間は吐いて捨てるほどいる。
頭を切り替えるために冷蔵庫から炭酸水を取り出して開ける。カシュ、と小気味良い音が鳴った。

相棒であるジミンとジョングクは、二人で「便利屋」という仕事をしている。受ける依頼は多岐に渡り、依頼主の立場も様々だ。この街は犯罪者が多く蔓延っている上に難民も流れ込み、治安は最低最悪といえる。そしてこの街は少々特殊で、主に四つの勢力が街を牛耳っている。それぞれが力を持ったマフィア組織であり、何かと複雑な事情を抱えるこの街の均衡を保っているのは、この四つの勢力によるところが大きい。しかし「便利屋」はそのどの組織にも属さず、中立の立場を守っている。だからこそジミンとジョングクを頼り依頼を持ち込む人間は多く、近所の馴染みの人間から警察、医院といった公共機関や、四つの組織のうちのどこかから声が掛かることもあるので、それなりに信頼を得ているといえる。

この日ジミンとジョングクが仕事で呼び出されたのは街の中央にある警察署だった。ジョングクは集合時間を把握していなかったが、警部であるナムジュンに遅刻だと出会い頭にぶつくさ文句を言われて眉間に皺が寄るのを隠せない。すいませーんと心にもない謝罪をするジミンがさっさと話を進めろと言わんばかりに「で?今日の依頼は何ですかナムジュニヒョン」と文句を遮ると、呼ばれた彼は大きく溜息をつきながらも、それ以上の文句を飲み込んで説明し始めた。ご丁寧に顔写真付きの資料を手渡される。写真の中のリーダー格らしい男は見るからに悪事を働いていそうだ。この街にはよくいる顔でもある。チンピラらしい品性の欠片もない顔に、ジョングクは唾でも吐きかけてやりたい気持ちになったが、しかしこの男の首を刎ねれば金になるのだろう。

「この男のマフィア集団が最近悪さをしていてな。急に活動範囲を広げて禁止区域にまで手を出してるせいで、古参の組織がお怒りなんだ。だから、こいつらを丸ごとお前らに潰して欲しい」

ジミンは「良いですよ、どれくらいの規模なんですか?」と二つ返事で依頼を受けた。元から断るという選択肢もないだろう。この手の依頼は金になる。

「規模自体はそんなに大きくないから、お前らならそんなに苦労はしないだろ」

煙草をふかしながらナムジュンが言うのを聞き流しつつ、パラパラと資料を捲る。しかしすぐにその手が止まった。資料の中には男の手下たちの写真も多く入っていたが、その中に場違いなほど綺麗な顔を見つけたのだ。それは、紛れもなくあの路地の彼だった。──キム・テヒョン。こんな資料で彼の名前を知ることになるとは、皮肉なものだ。

「……彼はどうするんですか?」
「言ったろ、丸ごと潰せ。知り合いか?」
「いえ」

するとジミンも写真を覗き込んで合点がいったらしく、「保護してやらないんですか?貧困で死にかけてる人間は」とナムジュンに話を振った。彼は冗談じゃない、と飽きれたような顔をした。今更何を、と言いたげでもある。

「そんなもんまで面倒見てたら手が回らないし、それは俺たちの仕事じゃないからな。第一この街にどれだけそういうやつらがいると思ってんだよ」
「まあね。でも気が進まないな、この子すごく綺麗な顔してんのに」
「嫌なら辞めとくか?」
「それはないですよヒョン、お金は欲しいので」
「…そいつのことより、ナムジュニヒョン。戦利品は勝手に持って行っていいんですよね?」
「ああ、いいぞ。変なもん拾うなよ」
「分かってますよ」

ジョングクはぱたりと資料を閉じた。気が進まないが仕方ない。任せたぞ、とジミンとジョングクを見据えたナムジュンに「はい」と返事をする。ジミンがにやりと笑い、「報酬弾んでくださいね」と念押しした。

意気揚々と先に“頭”を叩きに行ったジミンと分かれ、ジョングクは便利屋の方向へ引き返した。例の路地へ入り、それから少しの間壁に凭れて煙草を吸っていると、奥からコツ、と安っぽい革靴が地面を叩く音が聞こえた。振り返ればあの金髪の彼が居て、真っ直ぐに向けられた目がジョングクを射抜いた。間近で見たのは初めてだったが、まっさらな金髪の下の顔はやはり美しい。不思議な色の目と顔のパーツが見事に収まった完璧な顔立ちは冷ややかな印象を与える。この彼が売りをしていると考えると唆るものがあるが、彼の客になるつもりはない。ふと彼の手に握り締められているハンカチが目に留まり、思わず眼が緩むのを抑えられなかった。

「ハンカチ、使ってくれたんですね」
「……君が貸してくれたの?……ごめんね、汚しちゃった」
「いいですよ、そんなことは」
「ありがとう」

思ったより低い、心地好い声。言葉少なに伝えられた感謝には何の打算も欲もなく、向けられた眼差しに邪気はない。ふわりと笑ったその顔が真顔よりも断然美しくて、ジョングクは少々目を奪われた。

「……どうして、奴に飼われているんですか」

ジョングクの言葉に彼が目を見開く。何故知っているのかと言いたげだが、ジョングクが一々説明する気はないと分かると彼はゆるゆると視線を下の方へ落としていく。

「行くところ、ほかにないから」

ぽつりと零れた言葉と暗くなった表情に、少しだけ後悔して。

「悪いけど。もうそいつ、ここには来ませんよ」

それだけ言い捨てて、ジョングクはその場を後にした。彼が狼狽して何か言うのを遮るようにして背を向けた。ただ彼を殺してしまうのは惜しいというジョングクの意思だけで、彼はそのままそこに立ち尽くしている。彼がマフィア集団に飼われて苦しんでいるのなら逃げればいい。逃げさえすれば、どうせここで殺さなくても、姿をくらませればわざわざ追いかけて殺しはしない。


▲▼


普通の人間が使う路ではないような隘路を木霊する怒号と銃声に、頭の芯は冷えているのに自然と口角が上がってしまう。

「おい、なんでここに"便利屋"がいるんだ!」

ターゲットの手下たちが泡を食って逃げ惑う。その頭に焦点を当てて引き金を引けば、頭が弾けて派手に血が噴き出した。元々薄汚れた暗い道路に鮮血が飛び散って汚らしいことこの上ないが、ジミンはその光景を特に厭だと思ったことはない。銃口の先の頭がまた弾けて仲間が引き攣った声を出す。ほら、頑張って逃げたら。直ぐに追いかけて殺すけど。挑発すれば男たちが冷や汗を掻きながら醜く走り回る。その姿は溢れたゴミの間を駆けるドブネズミのようで滑稽だ。
─あれ、そういえばジョングクまだ道草食ってんのかな。
なかなか姿を見せない相棒のことを考えていると、男の一人が「動くな!畜生、動くんじゃねえ!」と叫びながら、銃をジミンに向けた。

「降参だよ、お前と真っ正面から殺り合う気はねえからさ、いくらで雇われた?金なら……」

男の震える口がその先を言う前に、ジミンの顔の真横でガチン、と金属音が鳴る。それは見慣れた相棒の武器の先だった。その瞬間、ジミンに銃を向けていた男は銃声と共に悲鳴を上げながら倒れていて、ジミンは呆れながら振り返った。

「ジョングガ遅いっつの。てかもう僕だけで終わりそうだったんだけど?」
「そう言って報酬独り占めする気ですね?そうはいきません」
「お前が遅いのが悪いよ」

ジョングクと二手に分かれたのは、まず手始めにあの路地の彼を片付けてくれば、と提案したからだ。どうせ殺してはいないんだろうが。ジョングクが最近あの金髪の彼をよく眺めているのをジミンは何度か見かけていた。

「あの金髪の子はどうしたの?」
「あれ、ジミニヒョンなら分かってくれると思ってた」
「まーね、お前の考えることくらい分かるよ」

そう二人が軽口を叩いていると、視界の端で蹲っている男が一人、転がった銃を手繰り寄せようとしたのが見えた。ジョングクがすかさずその手を革靴の踵で踏み潰す。「ぐああ!」と苦しげな声が上がるとジョングクがにやりと笑って、その無防備な脇腹に一発ぶち込もうとしているのをジミンが慌てて止めた。

「あーあーあんまり虐めんなって」
「お、おいッ!あの金髪の野郎を探してんのか!?だったらお前らにやる!金だってある!」

二人の会話から耳ざとく拾った単語に男が反応し、自身の命と引き換えるために必死に交渉を持ち掛ける。しかしその言葉を聞いて、ジョングクはみっともなく喚く男の顔の傍に目線を近づけるようにしゃがみ込んだ。ヒィ、と男の情けない声が漏れる。ジョングクの目には紛うことなき怒りが燃えていた。

「何であんたがここに寝そべる羽目になったか理解してます?…まあ、この街の均衡を崩す奴もモノ大切にしない奴もあんたみたいな莫迦も、俺たちは大好きですよ。死ぬほどね」

ぐり、と男の頭に銃口を擦り付けると、男の顔が限界まで歪む。待てとかやめろとかめちゃくちゃに喚く口に、ジョングクはゴツリと銃口を捩じ込んだ。死ね、と冷たく放たれた言葉はそのまま鉛玉となり、男の頭を貫いた。

ドン、と派手に銃声が鳴った後、背後に新しい気配を感じ取り、ジミンとジョングクは同時に振り向いた。耳に聞き覚えのある安っぽい革靴の音。血に汚れた景色にはとても不似合いなほど浮いている金髪と白い顔が、呆然と死体となった男を見つめていた。彼は表情を変えず真っ直ぐ男の元へ歩いていき、かくりと跪いた。

「来たんですね。あのまま逃げると思ったのに」

ジョングクが彼を見て言う。ジミンも意外そうに彼を見たが、特に何も言わなかった。彼は目を見開いたまま死んだ男の肩に触れて、「ひどいね」とぽつりと呟いた。

「この人をおれから取り上げたら……どこにも行くところがないのに」

そう言ったでしょ。震える唇が力なくジョングクを詰る。大きな目から落ちる涙が場違いなほどに綺麗で、ジョングクは彼を天使みたいだな、と思った。けれど彼はぐ、ときつく唇を噛み締めたかと思うと、近くに転がっていた銃を手にして、死体と化した男に向けて弾を放った。静かな路地裏に銃声と彼の泣き声が木霊する。肉塊でしかない死体は無抵抗に弾を撃ち込まれて、衝動でビクビクと跳ねた。やがて弾が無くなると、彼は震える手を抑えながら路地裏から出ていこうとした。
─ここから出てもどこにも行くところなんてないくせに。
彼から居場所を奪っておいて勝手なことを、と思うだろうか。逃げるという選択肢をわざわざ与えたのに、また彼はジョングクの目の前に現れた。だから、その手を掴まえても許されるだろうか。深く考えるより先に走って彼の手を捕える。思ったよりその手が細くて驚きながら、泣き濡れた目で戸惑う彼に向かってジョングクは口を開いた。


▲▼


「お?終わったか!お疲れ……ってそいつは!」

任務完了の旨を報告するため警察署へ向かうと、ナムジュンが待ち構えていた。その顔はジミンとジョングクを見てぱっと明るくなったが、隣の金髪に視線が注がれた瞬間に無表情になった。

「そいつも殺せと言った筈だが?」
「戦利品は便利屋で勝手に持って行っていいって言いましたよね」

俯く彼の肩を抱いてジョングクが如何にも生意気な顔でふん、と笑う。

「だから"これ"も戦利品ってことで、貰っていきますね。じゃ、別途で報酬も宜しくお願いします」
「おいおいそんな勝手は許されないぞ!巫山戯るのはやめなさい!」

言葉の裏を取ったというにはあまりにも強引だ。だが、彼一人を生かすくらいでなんだというのだろう。いつもベランダから見下ろす彼の姿と、ジョングクに一度だけ見せた美しい笑み。絆されたと言われればそうかもしれない。ただ彼の笑う顔がもう一度見たい。その願いの何が悪いというのか。いや悪いところなどどこにもない。ジョングクは開き直っていた。するとジミンははあ、と溜息を一つ吐いたかと思うと、

「……ナムジュニヒョン。ヒョンにはお世話になってるけど、僕達はあなたの部下じゃない。勘違いはよくないですよ。あと…、たまには言うこと聞いてくれないと、僕達も相手を間違えちゃうかもしれません」

と笑みを浮かべて告げたのだった。
ジミンはジミンでジョングクに甘い。別に気に入ったのなら連れ帰ればいいじゃないか、と思う。彼一人生かすことは猫を逃がすのと同じようなものだ。
そしてナムジュンはジミンとジョングクとそこそこに付き合いが長い。だから、こうなれば二人が折れることはないと痛いほどわかっていた。ナムジュンは呆れ果てながら、勝手にしろ、と投げやりに呟いたのだった。


×