忠犬彼氏と飼い主彼女 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




貴方への愛が加速していく


夜中にふと目が覚めた。
泉美は身動きして布団から顔を出し、辺りを窺う。
部屋は真っ暗で、夜明けまでには時間がありそうだった。
また眠りに戻ろうと目を閉じたが…寝ようとする思いに反して目は冴えてきてしまう。
ぼんやりとしていた頭の中も次第にはっきりとしてきて、泉美は目を開いた。さっきよりも視界が晴れている。

「(…変な時間に目が覚めちゃったな)」

早く寝た訳では無いのにと泉美は小さく息をついた。
明日も授業がある。しかも朝から実技実習だ。
睡眠不足では集中力も低下してしまい、本来の力が発揮出来なくなる。
もう一度眠らないと…と自分に言い聞かせるようにして布団に潜り込んだ。

「ん…」

すると、すぐ横で朧気な声が聞こえた。
それは同じ布団で眠っている竹谷が発した声だった。
今日も竹谷からのおねだりで部屋に泊まりに来ていて、一緒の布団で眠ったのだった。
起こしてしまっただろうかと泉美は顔を上げ竹谷を見るが、その心配は無さそうだ。
目を閉じ、一定のリズムで呼吸しているのが聞こえる。
ほっと安堵の息を吐いて、泉美は何気なく竹谷の顔を眺めた。
暗闇でも表情が分かるほどの至近距離で眠っている竹谷。
こんな気の緩んだ顔を見れるのは恋仲の泉美だけだろう。
それに竹谷は眠る時、いつも片腕に泉美の頭を乗せて、もう片腕で泉美を抱き締めるようにしてくれる。
今では当たり前のことになっているそれも、改めて思うと自分は竹谷に大切にされているのだと再認識出来た。
竹谷を起こさないようにその頬に触れた。

「(…あったかい)」

泉美は笑みを零す。
竹谷はいつも温かく、いつでも優しく抱き締めてくれる。
それが嬉しくて、無性に竹谷が愛おしくなった。
そっと、優しく唇を重ねる。

「…好きだよ、ハチ」

小さく泉美は囁く。
すると、泉美の声が聞こえたかのように竹谷の口元がふっと緩んだ。
それと同時に体が竹谷に引き寄せられ、ぎゅうと抱き締められる。

「…ハチ…?」
「…んん…」

泉美は竹谷の名を呼んだが、竹谷からは気の抜けた声しか返って来ない。
静かに様子を伺ってみるが、直ぐにすうすうと寝息が聞こえてきた。
どうやら笑みを浮かべたのも抱き寄せてきたのも、夢うつつでの無意識的なものだったようだ。
そうと分かり泉美は竹谷がしたと同じように頬を弛めて、その胸元に顔を寄せた。
身も心も竹谷の温かさに包まれている。
今ならまた、眠りにつけそうだ。

「…おやすみ」

そう呟いて、ゆっくりと目を閉じた。



翌日の実技実習の後、泉美はいつものように生物委員会の手伝いをしていた。
今日の仕事は飼育小屋の清掃で、竹谷は動物達が寝床として使っている古い落ち葉や布切れの片付けをし、泉美は小屋内を箒で掃いている。
孫兵以下下級生達は新しい落ち葉を集めに出ていて、ここには竹谷と泉美2人きりだった。
たわいもない会話をしていた中、竹谷が唐突に「あ、そうだ!」と声を大きくさせた。

「どうしたの?」

そう聞くと、竹谷は屈んだ体勢のまま泉美を見上げた。そして嬉しそうに笑む。

「俺、今日すごくいい夢見たんですよ!」
「へえ、そうなんだ」

竹谷が嬉しそうにしているのを見ると泉美とつられて自然と笑顔になる。
泉美は掃除の手を止めて竹谷に向き直った。

「どんな夢?」
「へへ、泉美先輩から好きって言ってもらえて、口吸いしてもらった夢です!」

へらりと竹谷は表情を崩して答えた。
その答えに泉美は「えっ」と目を瞬かせたが、竹谷はその様子に気付くことなく話を続けてゆく。

「たぶん食堂だったと思うんですけど、そこに泉美先輩と一緒にいたんですよ。泉美先輩は俺の向かいに座って、うどんと餡蜜をすごく美味しそうに食べてたんです。ほら、この間一緒に食べに行ったうどんと甘味処の餡蜜です!余りにも美味しそうに食べてたから、俺が泉美先輩にどっちの方が好きですか?って聞いて…そしたら一番好きなのは俺だって仰ってくださってぇ」

夢で見た話をしているのだが、竹谷はさも今目の前で言われたかのごとくでれでれと破顔していた。
町で食べたうどんと餡蜜を忍術学園の食堂で食べる、というちぐはぐさはさすが夢である。

「それで、そのままぎゅうっと抱き着いてくれて口吸いしてくれて。もうその時の泉美先輩、本っ当にめっちゃくちゃ可愛かったんですよぉ」

竹谷は頬に手を当て、夢を思い出しながら幸せに浸っているようだ。
それを聞いて泉美は「そ、そうなんだ」と戸惑いを浮かべて苦笑う。
自分に口吸いされる夢を見てこんなにも幸せそうにしてくれているのは満更では無いが…少し引っ掛かりを覚えたのだ。

「えへへ、それがあまりに幸せだったからその部分しか覚えてないんですけどね!泉美先輩が夢に出てくれるだけでも嬉しいのに、口吸いまでしてくれるなんて!夢だって分かってても幸せでしたよぉ!あー今思い出すだけでも嬉しくて…って、あれ?泉美先輩?」

話したいだけ話した後、ようやく竹谷は泉美の違和感に気付いた。
笑顔で話す竹谷に反して泉美は苦笑っている。
それに気付いた途端竹谷はさっと顔色を悪くさせた。

「あ、あれ…俺、何かおかしなこと言っちゃいました…?」
「う、ううん。そんなことないよ。そうじゃなくてね…」

泉美は思ったことを言おうか、少し悩む。
言ってしまうのは恥ずかしいのだが…ちらりと竹谷の方を見ると、不安げにこちらを見上げてくる瞳とぶつかった。
泉美のほんの一言で感情が激しく左右されるのが竹谷だ。
このまま「やっぱり何でもない」では竹谷を不安にさせたままになってしまう。
それは嫌だった。

「ええとね…ハチが見た夢なんだけど、半分は夢じゃない…んだよね」
「え?…夢じゃない?」

不安そうな顔から一転、竹谷はきょとんと目を丸くさせた。
泉美は恥ずかしさの混じった笑みで頷く。
泉美が引っ掛かりを覚えたのは当然ながらこのことだった。
好きと言ったのも口吸いをしたのも紛れもない事実で、決して夢ではない。
だが竹谷の中で上手いこと現実と夢とが混合されてしまったらしい。
気付かれていないと思っていたのに、まさか認知されていたと思うと恥ずかしくなったのだ。
例えそれが「いい夢」だとしても。
しかしそれに反して、心のどこかに夢として扱われて終わって欲しくないという気持ちも出てくる。
乙女心は複雑なのだ。

「それって、どういう…?」
「…昨日の夜、1回目が覚めちゃってね。その時に…ハチに口吸いしちゃって」
「え」
「それに好き、って言ったのも本当のことで…だから、ハチが夢だと思ってることの半分くらいは本当に私がしちゃったことなの。…ごめんね、勝手に」

思い切って伝えたものの、やはり気恥ずかしくなって泉美は視線を竹谷から逸らした。
驚いて両目を見開いている竹谷に赤くなった顔を見られないように背を向け、掃き掃除に戻る。

「……えっ?ほ、本当ですか?本当に泉美先輩が?」

しばらくの沈黙の後やっと竹谷は言葉を発した。

「うん。…ごめんね」
「あ、謝らないでください!泉美先輩から口吸いなんて…そ、そんな……ど、どうしよう、嬉しい…!」

泉美が振り向いて見ると、竹谷も泉美と変わらないくらいに…いや、それ以上に頬を染めていた。
口元に手を当てて隠しているが、表情が緩んでしまっているのは泉美にも分かった。
だが竹谷が恥ずかしそうにしていたのはほんの僅かのことで、ぱっと顔を上げたかと思うと、

「夢じゃなかったんですね!へへ、嬉しいです!」

と、至極嬉しそうに笑って言うのだった。
そんな竹谷を見ると、泉美の中にあった恥ずかしさも擽ったいような温かい感情に変わる。
その心地よい気持ちに、泉美も自然と顔が綻んだ。

「…ん?いや、ちょっと待ってください」
「うん?」

竹谷はだらけさせていた表情を急に改めた。

「どうしたの?」
「すごく嬉しいんですけど…なんか、勿体なくないですか?」
「え?」

勿体ない?と泉美がオウム返しに聞くと、竹谷は大きく頷いた。

「だってほら、今教えてもらわなかったら俺、泉美先輩からしてもらった口吸いに気付かないままだったんですよ?…うわ、そう思うとやっぱりすごく勿体ない!せっかく泉美先輩がしてくれたのに一回分損したみたいです!」
「そ、そうかな?」
「そうですよっ!」

相変わらず竹谷の考え方は突飛だが、本人は至って真剣だ。
突として立ち上がったと思うと泉美の元へ駆け寄ってきて、ばっと両腕を広げる。
いきなりの行動に泉美は面食らってしまい、広げられた腕と竹谷の顔を交互に見詰める。

「ど、どうしたの?」
「俺にしてくれたこと、もう1回してください!」
「え?…今?」
「今!」

さあ!と言わんばかりに竹谷はもう一度大きく腕を広げた。
してくれたことを今からしてくれ、とはつまり口吸いをしてくれということだ。
しかしさすがに泉美は竹谷と違って二つ返事で口吸いは出来ず、困って眉を下げるだけだった。
そんな煮え切らない態度の泉美に痺れを切らし、竹谷は唇を尖らせながら急かす。

「早くしないと孫兵達が戻って来ちゃいますよ?下級生達に見られちゃっても良いんですか?まあ俺は全然構わないんですけどね!」
「わ、私は困るなぁ…」
「じゃあ尚更早くしてもらわないと!してくれた時と同じようにお願いします!ねっ!」

竹谷に引き下がる気は微塵もないらしい。
してくれるまでは絶対に引き下がらない!という気迫に溢れていて、それは泉美にも伝わってくる。
そこまでねだられてしまっては断ることが出来ないのが泉美だ。

「…うん。分かった」

腹を括り、一歩竹谷に近付く。
箒を片手に持ち替え、ねだられた通り…そして昨夜と同じようにして、竹谷の頬に触れた。
竹谷は一瞬目を瞬かせるも、手の感触を堪能するように目を閉じる。
泉美は背伸びをして唇を重ね合わせた。

「…好きだよ、ハチ」

そして、昨夜と同じように想いを伝える。
今は昨夜と違って竹谷は起きているわけで、しっかりと目が合ってしまい恥ずかしくなる。
それでも泉美は竹谷から視線を逸らさず、照れが混じった微笑みを浮かべた。

「俺もです!」
「わっ」

ぎゅっと、竹谷は思い切り泉美を抱き締めた。
その拍子に箒が地面に転がってしまったが、泉美は気に止めることもなく、そう言えば昨夜もこうして竹谷に抱き締められたなぁと思い出していた。
寝惚けていた竹谷が覚えているはずはないが、なかなか忠実に再現されている。
そして竹谷の腕の中も昨夜と同じでとても温かかった。

「…ふふ。これでもう損とは思わない?」
「はい!」

泉美が顔を上げ聞くと、頬を緩ませきった顔で竹谷は頷く。
抱き締めていた腕を解いて、代わりに泉美のその両肩に手を置いて身を離した。

「これからも泉美先輩から好きなだけ口吸いしてくださいね!あ、でも寝てる間だったら、今回みたいに俺が起きてから同じ数だけしてくださいね?約束ですよ!」

泉美を真っ直ぐ見据えながら言うのだった。
竹谷は度々突拍子もない要求(という名のワガママ)を泉美にする。
それでも、往々にして竹谷に甘い泉美が首を横に振ることはない。
それを分かっていて竹谷も自由にワガママを言うのだが。
勿論今も、泉美は「分かった」と微笑んで見せる。

「やった!…って、あ!す、すみません!手が汚れてたの忘れてた!」

無邪気に喜んだのも束の間で、竹谷は慌てて泉美から手を離した。
自分がさっきまで掃除で使い古された布や落ち葉を触っていたことを今思い出したのだ。
それなのに泉美に触れてしまった、いや抱き締めてしまったと急いで自分の袴で手を拭いている。
今更手を拭いても遅いのだが、その気遣いが嬉しくて泉美はくすっと笑みを零す。
気にしてないよ、と伝えれば竹谷はほっと安堵の表情を浮かべた。

「…あ、そうだ。泉美先輩に寝てた時の分もお願いするなら、俺も同じようにしないと駄目ですよね!」
「え?しないとって…ハチもしたことあるの?」

泉美が驚いた顔をする。
寝ている間のことだから知らないのも無理はないが、今までそう言った話は聞いたことがなかったからだ。
竹谷は「勿論ですよぉ」と笑った。

「でも俺寝るのはいつも泉美先輩より早いですし、逆に起きるのは泉美先輩より遅いですからあんまり機会が無いんですけどね。そうだなぁ、最近だと…1、2…」

竹谷は指折り数え始めた。
竹谷の指が倒される分だけ、口吸いをされたということだ。
そう思うと泉美は何だか恥ずかしくなってきてしまう。
そんな泉美の気も知らず、竹谷は宙を眺めながらどんどん数を増やしていく。
あっという間に数は5を超えた。
そんなに沢山していたのかと、泉美の感じていた恥ずかしさは驚きへと変わる。
と、ここで竹谷の勘定がぴたっと止まった。

「あれ、これって口以外のも数えた方が良いのかな」

止まったからと言ってこれで終了ではないようだ。
竹谷は独り言のように呟いたかと思うと、曲げていた指をすべて立てて1からまた数え始めた。
泉美は目を見張り、竹谷の行動をじっと見詰める。
改めて数え始めたということは、どうやら唇以外にもされていたようだ。
いや、そのことには何の問題もない。
愛されているからこそ、大事に思ってくれているからこそ唇以外にもしてくれていると泉美は分かっている。
分かっているし、嬉しかった。
だが問題はその数だ。

「5、6、7、8…」

明らかに先程より数えるスピードが早い。
止まる様子がないどころか、逆に数える速さが上がってゆく。
しかも時たまこちらに視線を向けては「あの時は確か頬に2回と瞼にも…あれ、3回だったかなぁ」なんて照れることなく言ってくる。
今された訳ではないのに、泉美は言われた箇所がだんだん熱くなる気がした。
竹谷のことだから、何も知らず眠っている泉美を眺めては幸せそうに笑み、その瞼や頬に唇で触れているのだろう。
優しく頬や髪を撫でたり、手に指を絡ませたりしながら。
それを想像すると今度は顔全体がかあっと熱くなる。

「10、11…」
「は、ハチ、もう数えなくて大丈夫だから」

両手の指を使い切って折り返しに入った竹谷の手を、恥ずかしさの限度を超えた泉美はぎゅっと握った。
そうすることで数えている手を強制的に止める。

「えっ?あ、はい。分かりました」

不思議そうに竹谷は首を傾げたが、泉美に手を握られた喜びが勝ったらしい。
へらっと笑い素直に数えるのを止めた。
止まったのを見て泉美はホッと安堵する。
終わりの見えない竹谷の口吸いの報告に耐えられる自信はなかった。

「よーし、それじゃあ今数えた分だけでも同じところにしますね!」
「えっ」

これが本題だとばかりに、満面の笑顔の竹谷は泉美の腰に手を回した。
ぐいと引き寄せられて泉美の同意を得るより先に顔を近付けてくる。
泉美は慌てて手で制した。

「ま、待ってハチ。その…う、嬉しいんだけどね…恥ずかしいよ。そんなに沢山されちゃうと」
「そうですか?えー…俺なら泉美先輩に何回してもされても嬉しいのになぁ」

少し拗ねたように竹谷は唇を尖らせた。
それでも珍しく駄々を捏ねてまで口吸いの許可を求めようとはしてこない。
泉美からの優しい口吸いを貰ったばかりで心が満たされているお陰だろう。
だが勿論、諦め切れている訳ではない。
その証拠に竹谷の手はまだしっかりと泉美の腰を抱いていた。

「ハチは今まで通りでいいよ?いつも沢山してくれるし、私は損してるとは思ってないから」
「…泉美先輩がそう仰るなら…」
「ハチのしたい時にしてくれたら私も嬉しいから。ね?」
「…分かりました。じゃあそうしますね!」

渋々顔で頷いたのも一瞬のことで、竹谷はすぐにパッと笑顔に戻る。
そして今度は泉美に制する間も与えず、顔を近付けその唇を塞いだ。
一息程度の短い口吸いだったが、泉美から離れた竹谷は嬉しそうに白い歯を見せて笑んだ。

「今したくなっちゃったんで!」
「…もう」

眉を下げて困ったふうを装うが、泉美の頬は緩んでいた。
満更でもないその表情を見て調子を良くした竹谷は、瞼や頬や額へと次々に唇をぶつけてくる。
その姿はまるで飼い犬が飼い主にじゃれているようだ。
腰を抱かれていては身動きも取れず、泉美はされるがままに口吸いの嵐を受ける。

「ちょ…っと、もう、ハチってば。擽ったいよ」
「へへ、すみません」

泉美の声でやっと竹谷は口吸いを止めた。
口では謝るものの悪びれた様子はない。
泉美と視線が交わると、どちらともなく笑顔が溢れた。
と、そこへ。

「竹谷せんぱーい!西浜せんぱーい!」

元気な声が飛んでくる。
竹谷と泉美が揃って声の方へと顔を向けると、生物委員会の後輩達がこちらへやって来るところだった。
皆、両手いっぱいに落ち葉や布切れを抱えている。

「お待たせしました!」
「たっくさん集めて来ましたよー!」
「おう!ありがとなー!」

竹谷が手を挙げて応じると、その間に泉美は竹谷の腕からするりと抜け出した。
下級生達に仕事を頼んでおきながら自分達は掃除そっちのけで抱き合っていたなんて、示しがつかない。
転がしたままだった箒を拾い上げて、竹谷を見上げる。

「じゃあみんな戻って来たし、早く片付けちゃおうか?」
「そうですね!」

泉美が自分から離れてしまったことの不満を若干表情に滲ませながらも、竹谷は気を取り直して頷いた。
泉美から口吸いをもらい、自分からも満足いくまでとは言わないが沢山口吸いが出来た竹谷の機嫌はすこぶる良かった。
良い夢を見た、と嬉々として言っていた初めの頃よりも断然良い。
よしっ!と竹谷は大きく気合を入れる。

「全部こっちに運んでくれ!直ぐに掃除を終わらせるから、済んだら分けてそれぞれの小屋に敷くぞ!」
「はーい!」

下級生達の声がひとつに合わさり、返ってきた。
やる気十分に腕捲りをして指示を出していく竹谷を泉美は目を細めて見詰める。
自分と一緒にいる時は散々甘えてくる竹谷も、下級生達の前では先輩としてテキパキと振る舞っている。
委員長代理である竹谷は、下級生にとって頼り甲斐のある良い先輩だ。
その姿がやけに眩しくて、泉美は暫く竹谷に見蕩れていたのだった。


おわり