忠犬彼氏と飼い主彼女 | ナノ
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今夜は眠れそうにない


「それじゃあね、ハチ」
「はい!」

朝方の忍たま長屋の入口で、竹谷は泉美を笑顔で見送った。
昨晩は泉美を部屋に泊めて一晩中共に過ごしたのだ。
そのおかげで竹谷の機嫌はすこぶる良い。
ほわほわと周りに花とハートが乱れ舞っている、それくらいの満面の笑みだ。

「…朝から見せ付けてくれるな」

竹谷が振り返ると、そこには腕を組んだ鉢屋が立っていた。
横には苦笑気味の不破もいる。

「三郎、雷蔵。悪いな、声でかかったか?」
「いや、そんな事ないよ」
「ああ、気になる程じゃない。第一、八左ヱ門がそんな幸せそうな顔をしていたら文句があっても言えないだろ?」

鉢屋は半分嫌味が混じった言葉を口にした。
不破が「三郎、言い方」と横から小突く。
毎日惚気全開な竹谷に、聞かされる側がうんざりとした気持ちになってしまうのは良くあることだ。
特に同じクラスの鉢屋と不破はその被害を最も被る役どころなのだ。
言い方が多少悪くなってしまうのも致し方ない。
しかし言われた側の竹谷は気に止める様子はなく、むしろ嬉しそうにへらぁと表情を緩ませた。

「いやぁ〜なんか悪いなぁ!俺ばっか幸せで!」
「あ、ああ…そうだな…」

微塵も動じていない竹谷に、鉢屋は顔を引き攣らせるだけだった。
嫌味すらスルー出来る、というより嫌味に気付くこともないくらい幸せに浸っているようだ。
これは何を言っても無駄だな…と理解した鉢屋は諦めた顔でため息をつく。

「まあ、八左ヱ門が幸せって言うならそれでいいじゃないか」

ね、と不破が鉢屋の肩に手を置いた。
不破も自分と同じくらい惚気を聞かされているのに、なぜそんなにおおらかになれるのかと鉢屋は常々不思議に思う。

「八左ヱ門は本当に西浜先輩のことが好きだよね」
「あっ、おい雷蔵!」
「え?」

鉢屋が声を上げたが、一足遅かった。
ぱあっと竹谷の顔が光り輝く。

そっりゃあ当然だろー!!好きだよ、すっげー好きだよ大好きだよ!むしろどこを嫌いになれる?なれるわけねーよなぁ!あんなに可愛くて優しくて何もかも最高な泉美先輩だぞ!?あぁそうそう何が可愛いってこの間もな!」
「え、ちょ、八左ヱ門?」
「一緒に甘味屋行ったんだけど、その時の餡蜜食べてた泉美先輩の顔!こう、こうな、ふわ〜って笑うんだよー!泉美先輩ってくの一教室じゃリーダーしててもおかしくないくらいしっかりしてんだけど、甘いもん食べてる時とかたまーに子供っぽい無邪気な笑顔するんだよなぁ!それが可愛いのなんのって!あと優しいっていうのも昨日な!」

聞いてもいないのに竹谷はぺらぺらと饒舌に語りだす。その勢いは半端ない。
途中で不破が口を挟もうとしたが、一言も入る隙は無さそうだ。

「…雷蔵……」

鉢屋はジト目で不破を睨んだ。
竹谷が泉美が好きなんて言わずとも知っているし、こう言えば竹谷の惚気が爆発してしまうなんて分かりきっていただろう、と言いたげな目だ。
こうなってしまったからには竹谷は簡単には止められないだろう。

「ご、ごめん…そこまで考えてなかった」

不破は申し訳なさげに肩を竦める。

「授業後に生物委員会の手伝いしてくれて、終わった後も後輩たちの宿題も見てくれてたんだ。泉美先輩だって実技授業があって疲れてるだろうに、それでも「困ってるみんなを放っとけないでしょ?」ってさぁ…!優しすぎると思わないか!?優しすぎるよな!優しいって泉美先輩の為にあるような言葉だよなー!」

鉢屋も不破も聞く耳を持っていないのだが、その間も竹谷の泉美語りは続いている。
竹谷は誰かに聞いて貰いたいというより、ただただ泉美のことを語りたいだけのようだ。

「でなぁ、そんな可愛くて優しい泉美先輩が俺のこと好きでいてくれるんだよなぁ!俺って本っ当幸せ者だよな〜!」
「…かなり八左ヱ門の一方通行にも見えるけどな…」
「は!?そんなことねーよ!」

鉢屋がぼそっと呟いた言葉に竹谷は機敏に反応した。

「確かに俺ばっか好き好き言ってるけどな!泉美先輩も好きだって言ってくれんだよ!まあ俺の方が5倍は言ってるけど!そうだよ、夜だって泉美先輩はいっつも俺のこと欲しがって」
「あー、うん分かった。分かったから。それ以上言わなくていいよ」

夜事情まで語り出そうとしたところで不破が止めに入った。
む、と竹谷は不満げに口を噤む。

「それより八左ヱ門、そろそろ部屋に戻ったらどうだ?」
「え?」

竹谷の歯止めのきかない泉美話が一時中断したところを見て、チャンスだとばかりに鉢屋が話を逸らした。

「そうだよ。今日は休みじゃないんだから、支度しないと」
「あー、そうだったな…そうする」

畳み掛けるように不破に言われ、竹谷は頷く。
やっと竹谷の惚気地獄から抜け出せたと鉢屋と不破は安堵顔になった。
じゃあ戻るか、と誰が言うでもなく揃って長屋の方へ戻る。

「(…ん?)」

しかし、数歩歩いたところで竹谷はピタリと動きを止めた。
疑問が頭の中を過った。

「(…先輩が欲しがるなんて言ったけど……あれ?俺、泉美先輩から求められたことあったか…?)」

勢いで大口を叩いたけれど、考えてみればいつも欲しがっているのは竹谷の方だった。
泉美が好きと言ってくれたことは勿論何度もある。
だが、竹谷を欲しがるなんてことがあったかどうか。
ぐるぐる必死に頭を巡らせたが…残念ながらそんな記憶は見当たらない。

「(え?あれ…は、はは…いやいや、そんなはず…!)」

そう自分に言い聞かせるが、とても平静ではいられないようで視線は忙しなく揺れていた。

「八左ヱ門?どうしたー?」

立ち止まっている竹谷の方を振り返り、鉢屋が声をかけた。

「えっ!?な、なんでもない!」

わざと声を大きく出して、鉢屋たちに追いつく。
2人に不思議そうな顔をされるが、竹谷は何事も無かったように顔には笑みを貼り付けて見せる。
だが、その心はまったく穏やかではなかった。



その後も竹谷は、座学中も実技中も昼食時でもずっと考えていた。
残念ながらいくら考えても泉美から求められたという記憶はない。
欲しがってるのは自分だけなのか…?と力なく肩を落としたが、それも束の間、竹谷はピーンとひとつの考えにたどり着く。

「(…そうだ、仕方ないんだよ!そういう雰囲気になったらいっつも俺が我慢できなくなってすぐ泉美先輩にがっついちまうもんな!そんなだから先輩が欲しがる間もないんだ!仕方ねーよな!うん、そうだ!仕方ねーんだ!)」

つまり今まで泉美が欲しがらなかったのではなく、欲しがるより先に竹谷が手を出してしまっていたせいだと導き出したのだった。
そして都合よく、自分が少し我慢していれば泉美から求められるはず!と結論づけ、再び泉美を部屋に呼ぶことにした。

そして、その日の晩。

「すみません、泉美先輩。また我儘言ってしまって」

寝間着に着替えた竹谷が泉美に謝った。
泉美も竹谷と同じく髪を下ろし、寝間着姿だ。
思えば昨日も竹谷が頼み込んで自分の部屋に泊まらせたのだ。
泉美はゆるりと首を振る。

「我儘なんかじゃないよ。私はハチと一緒に居たいから。誘ってくれて嬉しいよ」
「先輩ぃ」

優しく微笑みを向けられた竹谷はでれっと表情を緩めた。

「俺もっ!もっとずっと、泉美先輩と一緒に居たいで…あっ」

竹谷は腕を広げて抱きつこうとしたが、既のところで踏み止まる。

「(あ、あっぶねー、またいつもと同じことするとこだった…!)」

竹谷は広げた腕を引っ込めた。
1度泉美に抱きついてしまったら後はもう目に見えている。
竹谷から口吸いを求め、それを執拗に繰り返した後に竹谷が布団に誘う。
結局また竹谷が一方的に求めるだけで終わってしまうだろう。
泉美は宙ぶらりんになっている竹谷の手を眺め、首を傾げた。

「どうしたの?」
「えっ!?あ、いえ!な、なんでもないです。…布団、敷きますね!」

笑って誤魔化し、竹谷は布団を引っ張り出して部屋の真ん中に敷く。
敷布団を捲れば、自然な流れで泉美が布団の上に腰を下ろした。
柔らかい泉美の髪が竹谷の目の前でふわりと揺れる。

「…っ」

風呂上がりの泉美の香りが鼻先を擽るように掠めて、竹谷は息を呑む。
どきどき胸は高鳴るし、頭はぼうっとしてくる。
風呂上がりの泉美からは催淫薬が放たれているのではないか?と疑いたくなるくらいに竹谷の心を乱す。
本当ならば今すぐにでも抱き締めて、押し倒して、口吸いがしたい。
だが今日は…今は、堪えなければならないのだ。
泉美が自分を求めてくるまで。

「じゃあ…泉美先輩」

そう言って、竹谷も布団に座った。
真正面から泉美を見詰めれば、2人の視線が交わる。

「…寝ましょう!」
「…え?」

本心を押し込めて押し殺して、竹谷は笑顔を繕った。
竹谷が部屋に誘って、何もせずただ寝るなんてことは少ない。
これから何をするのかなんて泉美は分かっていたはずだ。
心も体も受け入れる準備はしていただろう。
それなのに、竹谷のまさかの発言でさすがの泉美も驚いた顔になっている。
竹谷は気付かれないようほくそ笑んだ。

「(よし、予定通り…!泉美先輩だってもうその気になってるはずだしな…!)」

こうなれば否が応でも求めてくるに違いない、と竹谷は確信する。
泉美を試すような行動に少し良心が痛むが、それ以上にわくわくした気持ちを抑えられない。
やっぱり泉美先輩だって俺を欲しいんだもんな!と、謎の自信が湧いてきている。

「おやすみなさい!」

最後のひと押しとばかりに声高に言い、竹谷は布団に潜り込んだ。

「…」

泉美から視線が注がれていると分かっていながら、竹谷は敢えて気付かない振りで寝返りをうち、背中を向けた。

「(泉美先輩、なんて言うんだろうなぁ…!いや、何言われたって受け入れるけどな!)」

泉美からほぼ初めて貰えるであろうお誘いの言葉を想像し、竹谷は顔をニヤケさせる。

「(声掛けられたらまずわざとこんな態度とったこと謝んねーと!で、すぐに抱き締める!泉美先輩だから、困った顔しても笑って許してくれるよな!そしたら沢山口吸いして、朝までめちゃくちゃ優しく抱く!そうしよう!)」

しかし。

「…ん。おやすみ」

胸を躍らせている竹谷の思いとは裏腹に、泉美からはそんな素っ気ない返答がきた。
背中越しに、静かに泉美が布団を被る音がする。

「…」
「…」

そこで2人の会話はなくなった。
後は、部屋に置かれた虫かごからりんりんと羽虫たちの音が虚しく響くだけだった。
静かに夜は更けていくーー…

「ってぇ!何でですかぁ!!

がばあ!と勢いよく竹谷が飛び起きた。
布団が思い切り吹っ飛び、部屋の隅々置かれていた虫かごにバサッとかかる。
虫たちが何事かとガサガサ暴れる。
だが驚いたのは虫たちだけではなく、隣に寝ていた泉美も同じだった。
半身を起こした泉美は目を丸くさせて竹谷を見やる。

「ど、どうしたの?」
「どうしたの、じゃないですよ泉美先輩ぃ!なんで!なんで!?寝ちゃうんですかぁ!」

竹谷は泉美の両肩をがっしと掴んで詰め寄る。
そのあまりの必死さに泉美は困惑した顔になってしまう。

「だ、だってハチが寝ようって」
「言いました!確かに言いましたけどぉ!泉美先輩はそれでいいんですか!?俺のこと欲しくないんですか!?なんでですか!?どうしてっ!」
「ほ、ほら、ハチ?もう遅いから。1回落ち着こう?」

泉美がぽんぽんと腕に触れる。
夜も遅く、他の部屋から物音が聞こえない中で大きく声をあげれば長屋の隅から隅まで響き渡ってしまう。
竹谷ははっとして動きを止めた。

「す、すみません…」

一気に声色が小さくなる。泉美の肩から手を離してしゅんと俯いた。
竹谷が落ち着いたところを見て、泉美が優しく声を掛ける。

「どうしたの?急に。寝たらダメだった?」

竹谷はちら、と上目に泉美を見て口を尖らせた。

「…ダメ…と言うか…先輩が何も仰らないから…」
「私が?」

竹谷はこくりと頷く。

「…今日ふと思ったんです。いつも俺が泉美先輩を欲しがってばっかりだから…先輩は俺のこと欲しくならないのかなって…。だから今日は、俺が何も言わなければ先輩から言ってくれるって思ってて…」

ぽつぽつと竹谷が語る。
それを聞いてやっと意味が分かったらしい泉美は苦笑を浮かべた。

「そうだったの。すぐ寝るなんて珍しいなとは思ったけど、今日はしたくないんだと思った」
「し、したくない時なんてないですよ!?今だって必死に我慢してるんですから!」
「そ、そうなんだ」
「そうです!泉美先輩は!?したいとか思わないんですか!?したくないんですか!?や、やっぱりそう思ってるのは俺だけなんですか!!?」

再びヒートアップしてきた竹谷が、今度は泉美の二の腕を掴む。

「したくないんじゃないよ。ただ…その、そういうこと私から言うのは恥ずかしいし…それに、ハチがしたくないって時もあるでしょ?そんな時に言ったら迷惑なんじゃ、」
ないです!したくない時なんかないです!いつでも先輩としたいですし、泉美先輩に言われたら朝でも昼でも夜でも授業中でもいつでも喜んで受け入れます!だから迷惑じゃないです!」
「さ、さすがに授業中には言わないけど…ハチ、また声が大きくなっちゃってる」
「すみません!」

今度の竹谷はしょげる様子もない。
ぎゅう、と腕を掴んでいる手に力を込める。無論泉美が痛くない程度に。

「ね、ほら!俺ぜーったい否定しませんし、迷惑だとも思いませんから!だから今日は泉美先輩から!誘ってください!!」
「う、うーん…」
「どんな言葉でも構いませんから!俺、1回先輩から誘われてみたいんですよぉ!!」

いつの間にか泉美が竹谷を欲しいと思っているか否かという問題から論点がズレてきていた。
今は泉美からのお誘いの言葉が欲しいだけの駄々っ子になっている。
考えてもみれば結局欲しがっているのは竹谷なのだが、そこに当の本人はまったく気付いていない。
それに気付いている泉美もわざわざ言及もせず、ただ苦笑いを浮かべていた。
竹谷が言う通り、誘えば拒まれはしないということは泉美も分かっているが…それでもやはり、床へのお誘いなんて恥ずかしくて簡単には口に出せないのだ。

「ね!ねっ!?泉美先輩っ!」

竹谷はそう簡単に引き下がりそうもない。
真正面から泉美を見詰める両目は懇願を通り越して鬼気迫っている。

「わ…分かった、分かったから」
「本当ですかっ!?」

竹谷の迫力についに根負けしてしまい、観念した泉美がそう答える。竹谷は分かりやすくパァっと破顔する。

「…でも、そんな期待されても大したこと言えないよ?」

泉美は申し訳なさそうに眉を下げる。
この上なく嬉しそうにしている竹谷に気圧されてしまっていたが、竹谷は大袈裟なくらいに首を振った。

「泉美先輩が仰る言葉は俺にとってすべてが大したことで特別なんです!どんな言葉でも嬉しいです!!」
「…そう?」
「そうですよ!だから、はい!お願いします!」

泉美から手を離して掌を前に向けた。
竹谷の顔は眩しいくらいに輝き、笑顔で溢れている。
竹谷はいつも自分の気持ちを包み隠さずはっきりと泉美に向ける。
恥ずかしいようなむず痒さを感じながら、真っ直ぐに好きという想いをぶつけられれば泉美もそれに応えたくなる。
泉美は視線を少し下に落として考える素振りを見せた。
そんな動作ひとつひとつを、竹谷は期待を込めて食い入るように見詰めている。

「…じゃあ…」

泉美が再び顔を上げると竹谷はぴしっと背筋を正す。
月夜が差し込み薄暗がりの部屋に、泉美のはにかんだ笑みが浮かんだ。

「…今日もいっぱい、しよ?」
「!」

途端、ふひゅっと間の抜けた音が竹谷の口から発せらた。
どうやら息を瞬間的に思い切り吸い込んだ音らしい。
そのまま竹谷は勢いよく顔を横に背ける。

「え?ど、どうしたの?」

不安げな顔で泉美が竹谷に1歩近づく。
絶対否定をしないと言ったのに、竹谷の態度はまるで拒んでいるようにも見える。

「ご、ごめんね…やっぱり上手く言えなくて」

泉美は謝り、1歩引いて元いた所に戻った。
落ち込んだ泉美の声を聞いた竹谷は顔を逸らした状態で再びぶんぶんと首を振った。

「違、上手くなくなんかっ…!」
「そうなの?…でも、その反応…」
「そ、それは!」

そこでようやく竹谷は泉美と目を合わせた。

「それ、はっ…」

泉美と視線がぶつかり、竹谷の声は尻すぼみに小さくなっていく。
それは?と泉美が反芻する。
竹谷はぎゅ、と眉を寄せた。

「…ずるいんですよ…」
「え?」
「だからぁ!ずるいんですよ、そんな言い方!」
「…え?」

ぱちくりと泉美は目を瞬かせた。
どうやら拒まれたわけではないらしい…が、泉美には「ずるい」と言われた意味は分からなかった。
不思議そうな顔で泉美に見上げられた竹谷は両手を握り拳を作り、力説し始める。

「だから、そういうふうに言われて!喜ばない男がいると思いますか!?ましてや大好きな泉美先輩に言われて!」
「え…っと、じゃあ…今の言い方で良かったの?」
「良かったです!良すぎですよ、もう大正解です!嬉しいです!ありがとうございます!」

大振りで頷く竹谷。
正解と言われて泉美はほっと息を吐いた。
強引なやり方ではあったが、やっと泉美からのお誘い言葉が聞けて竹谷は嬉しそうに笑っている。
…しかし急にぱっと顔を引きしめた。

「…泉美先輩…」
「ん?」
「…本当にいっぱいしちゃいますよ?いい…んですよね?」

泉美の表情を伺うように尋ねる。
泉美は柔らかく微笑み、「もちろん」と返した。

「言ったのは私だからね」

泉美は両手を開いた。

「…おいで?」
「…はいっ!」

竹谷は弾ける笑顔で泉美に飛びついた。
ぎゅう、と泉美を抱きしめたまま、勢いで2人揃って布団に倒れ込む。
泉美の頬や首に擦り寄っていると、ふわりとやわ髪の香りが竹谷の鼻を掠める。
やはり泉美からは、竹谷の心を乱すものが発されているようだ。
堪らず竹谷は泉美の唇を塞いだ。
目を閉じ、柔らかく甘い唇を食む。

今夜もまだまだ長くなりそうだ。


おわり