忠犬彼氏と飼い主彼女 | ナノ
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女々しいと分かっていても


「兵助!勘右衛門!なあなあなあ、これ見てくれよー!」

昼時。
久々知と尾浜の姿を見付けた竹谷が満面の笑みで駆け寄って来た。

「八左ヱ門?どうした?」
「見るって何を?」
「これだよ、これ!」

振り返った2人の目の前に立つと、竹谷は懐から何かを取り出す。
それは掌くらいの大きさで、とても大事そうに布に包まれていた。
ぱさ、と竹谷が布を避けると、そこには新品の櫛があった。

「櫛?」

それは何の変哲もないシンプルな茶色の櫛。
2人にはなぜ竹谷が呼び止めてまでしてこれを見せてきたのか理解出来ていないようで、首を傾げている。

「これがどうしたんだ?」

久々知が聞くと、竹谷はより一層破顔した。

「これな!昨日泉美先輩に貰ったんだ!貰ったと言うか、一緒に選んで、買って貰ったんだけどなー!?」

幸せそうに語る竹谷を見て、久々知も尾浜も合点がいく。
それがたとえ何の変哲もない普通の櫛でも、竹谷にとっては泉美から貰ったというだけで何物にも代えられない大切な櫛になる。
どうやら竹谷はその貰ったという櫛を2人に見せに来たようだ。
いや、見せびらかしに来たようだ。

「良かったじゃないか」
「ああ!」

竹谷は大きく頷く。
…しかし。

「良かったとしても、限度っていうものがあると思うよ…」
「え?」

尾浜が顔を上げると、そこには不破と鉢屋の姿があった。
揃って肩を落としていて、どことなく元気が無いように見える。

「雷蔵、それに三郎も」
「限度ってどういう事だ?」
「八左ヱ門、朝からしつこいんだ…。休み時間になる度に何度もその櫛を見せてくるもんだから…」

はあ、と鉢屋はため息をひとつ吐いた。
2人が肩を落とすのも仕方がない。
竹谷は隙あらば何度も櫛を見せ付けてくるのだ。
一度や二度ならず、不破も鉢屋も今朝から数えてゆうに5回は見せられていた。
初めは久々知や尾浜と同じように「良かったな」と声をかけていたが、後半に至っては呆れ顔でから返事しかしなくなっていた。

「しつこくなんかないだろ!?雷蔵にも三郎にも、まだ6回しか見せてねーよ!」
「6回『も』、だから」
「…まあ、それだけ嬉しいってことだよね?」

不満を滲ませる竹谷と疲れた顔になっている不破と鉢屋の間を取りなすようにして、尾浜が言う。
すると竹谷はすぐさま顔をぱぁっと輝かせた。

「嬉しい!すっげー嬉しい!そこら辺の櫛とは全っ然違うんだ!もうこれ、一生使わず大切に取っておく!」
「櫛なんだから使わないと意味が無いんじゃ…」
「いやいやいや、勿体なくて使えねーだろ!?泉美先輩が俺にくれたんだ!肌身離さず、何があってもずっと持ってる!言わばお守りみたいなもんだからな!」
「…なんか女々しいな」
「いいだろ別にっ!?」

呟いた鉢屋の言葉を耳聡く竹谷は聞き取り、声を荒らげた。
ふんっと鼻息も荒く、櫛を元あったように布で丁寧に包み懐へしまう。
しかし不思議なもので、竹谷はその櫛が懐にあるというだけで胸が暖かくなる気がした。

「俺も櫛なんだから使うべきだと思うけどなあ」
「西浜先輩だって、八左ヱ門に使って欲しくて渡したんじゃない?」
「う…」

尾浜と不破の冷静な意見につい言葉を詰まらせた。
竹谷も心の奥では分かっている。
分かっているが…泉美に貰ったものを汚したくないという気持ちが勝っていた。
何より竹谷の髪はひどく傷んでぼさぼさだ。
そんな状態の髪に無理に通したら、下手をしたら新品のものでも歯が折れてしまうかもしれない。
せっかく泉美と選んで、せっかく泉美が竹谷のために買って渡してくれた櫛なのだ。
壊してしまうなんて絶対に嫌だった。

「ああ、そう言えば明日実技授業があるじゃないか。そこで使ったらどうだ?」
「実技?…って、なんかあったか?」
「ほら『女装実技授業』だよ」
「げ…」

ワスレテタ、と呟いた竹谷の顔が引きつる。
櫛を使う機会があったから、だけではない。
元から竹谷はその実技授業が苦手だった。
女々しいなどと鉢屋には言われたが、見た目で言えば竹谷はこの五年生の中で最も男らしい。
男らしいと言えば聞こえが良いが、実際は手入れをしていない髪に太眉、その上開けっぴろげな性格だから「男らしい」と言うより「男臭い」が正しい。
だから全てが真反対である女子に化けなければならない女装授業は、竹谷にとって苦手科目なのだ。

「忘れてたら駄目じゃないか。及第点を超えなかったら追試だって先生に言われただろ?」
「…そうだけどよー…」

竹谷は肩を落として項垂れる。

「でも送った櫛を使ったお陰で八左ヱ門が苦手科目をクリア出来たなんて聞いたら、西浜先輩も喜ぶんじゃないか?」
「……そう…、かなあ…」
「そうだって。だから明日、それ使って授業頑張れよ」

「な?」と鉢屋に言われる。
半ば皆に強引に誘導されたような気もあるが、それで泉美が喜んでくれるのなら…と、竹谷に小さくやる気が生まれる。
懐にしまった櫛に、装束の上から触れる。

「………分かった…頑張ってみる」

竹谷はしばしの沈黙の後に首を縦に振ったのだった。



翌日。
昼食後、午後の実技授業に向けて、五年生一同は着替えと化粧を済まし集まっていた。

「…これは…」
「いや…うん。八左ヱ門にしては頑張ったと思うよ」
「ぼ、僕も今までの中で一番だと思うな」
「…」

竹谷の正面に立つ久々知、尾浜、そして不破は、揃ってなんともわざとらしい取り繕った顔で口々に言う。
竹谷は何も言わず、ただ仏頂面で押し黙っていた。

「ぷっ。不っ細工だな、八左ヱ門!」
「!」
「なっ!」
「ちょ、ちょっと三郎!?」

周りの気遣いも気にせず、ずばり本心を言って吹き出す鉢屋。
久々知達は慌てるが、鉢屋は反省する様子はない。

「お前達もそう思ってるだろ?本当のことを言って何が悪い?」
「だからって何もそんな真っ向から言わなくても…!」
「いや…いい……良いんだ雷蔵。俺分かってるから…」
「は、八左ヱ門…」

竹谷は弱々しく首を振った。
その顔はなんとも生気がない。
竹谷の顔は、鉢屋が「不細工」と称しても仕方がないくらいの出来上がりだった。
眉は手入れも何もせずそのまま、白粉は白く付け過ぎで、頬紅はお多福かのように丸く赤く、口元の紅も相手を笑わせたいのかと言うくらい大袈裟に塗りたくられている。
簡潔に言えば「酷い」。そんな出来栄だ。

「途中からもう何が何だか分からなくなってきちまって…」
「そ、そうだったのか…」

今回の授業では人の手助けは受けてはならないという決まりがある。
化粧も着替えも1人の力でやらなくてはならないため、竹谷はこのよつに酷い有様になっているのだ。

「…というか!なんでお前らはそんな上手いんだよ!?」
「え?」
「そう?」
「そうだよ!」

竹谷が声を荒らげると、周りは首を傾げる。
しかしそれは傍から見てもすぐ分かる程で、竹谷を除く4人は見事に女性になりきっていた。
体格こそしっかりしているが、顔を見れば4人とも女と見紛えるほどに化けている。

「ずりぃ…こんなんじゃ俺だけ補習なの確実だろ…!」
「ま、まだ分からないじゃないか」
「分かるだろッ!」
「…あれ、そう言えば八左ヱ門、櫛はどうしたの」

尾浜が竹谷の髪に気付き、聞く。
竹谷の髪は普段と何も変わらずぼさぼさで、櫛が通った形跡は無い。
櫛は愚か、手櫛すら通してないように見える。

「あー…つ、使ってない」
「使ってないのか…」

罰が悪そうに視線を逸らしなが竹谷が答えるが、周りはむしろ「やっぱりな」程度にしか思っていないようだ。

「し、仕方ないだろ!もし使って歯が折れたりでもしたら俺の心も折れちまうし!」
「…八左ヱ門ならそうだろうね…」
「でもそんな状態じゃあ授業が上手くいくとは思えないぞ。せめて髪くらいまとめないと」
「まとめた所で補習に変わりねえから!良いんだよもう!どーでも!」
「…あれ、ハチ?」
「!」

竹谷が投げやりに腕を振ったところに、運悪く…と言うべきか、泉美がやって来てしまった。
どうやら声で気付いたらしい。
呼ばれた竹谷は反射的に泉美の方を見たが、自分が恐ろしい化粧をしていたことを思い出し慌てて顔を背ける。

「…え?もしかして尾浜君達?」

竹谷の周りに居るのが他の五年生と今気付いたようで、泉美は目を丸くさせて近付いてきた。

「はい。そうですよ」
「うわ、分からなかった。これから授業か何か?」
「午後から実技の授業なんです」
「そうなんだ。みんなすごいね。化粧も着付けもすごく上手」

泉美が何の気なしに褒めていると、竹谷は黙って不破の後ろに回って俯く。
他の4人が褒められている中、鉢屋にも笑われた顔を見せる訳にはいかなかった。

「…ハチ?どうしたの」

隠れた竹谷に泉美が気付かない訳がなく、そう聞いた。

「す、すみません泉美先輩…見ないでください…」
「え?」
「八左ヱ門、上手く出来なかったらしくて」

顔を手で覆ってしまっている竹谷の代わりに不破が答える。
そうなの?と泉美は竹谷の方を見るが、竹谷は一向に出てこようとも顔をあげようともしない。
頬に手を当て、何か考える素振りを見せた泉美だったが、ふと顔を上げた。

「ハチ、ちょっとおいで?」
「えっ」

おいで、と言われて竹谷はつい反射的にぴくりと反応する。

「い、いえ、でも…」

そう言われても、やはり出ていくことは躊躇われた。
泉美が人の失敗を見て笑うような人では無いと分かっている。
けれど、五年生にもなって課題をちゃんとこなせていない情けない所は見られたくなかったし、何より恋仲として女装という姿を見られたくなかった。

「…来られない?」
「う……」

竹谷の葛藤も泉美を前にしては意味をなさない。
おずおずとだが、竹谷は前に出た。
出来るだけ視線を、顔を泉美に向けないように伏せたまま。

「…ちょっといい?」
「!」

泉美は竹谷の顔を包むよう触れ、くい、と落ちた視線を自分に向けた。
はっと竹谷は目を見開く。

「え、あ、あのっ…?」
「うーん…」

初めは酷い有様の顔を見られてしまった、と焦っていたが、真っ直ぐに見詰めてくる泉美に、焦りより恥ずかしさがじわじわと込み上げてきた。
頬紅で元から赤くなっていた頬が、より赤くなる。

「泉美先輩…?」

頬に触れていた泉美の手に、自分も触れようと手を伸ばした時。
おもむろに泉美は頷いた。

「うん…少し濃いかな」
「へっ?」

泉美の手に触れる直前に、竹谷は動きを止めた。

「濃い…ですか?」
「白粉も頬紅も、全体的に。つけすぎじゃないかな」

そう言った泉美は優しく竹谷の頬を撫でる。
それだけで、泉美の手には頬紅の赤がしっかりとつく。
ね、と苦笑いしてそれを竹谷に見せた。

「…あれは少し濃いどころじゃないと思うけどな…」
「はは…」

鉢屋達が苦笑しているのを他所に、泉美は竹谷から手を離した。

「…俺、こういうの苦手で…」
「大丈夫だよ、誰だって苦手なことはあるから。…少し直していい?ハチが良ければだけど」
「あ、はいっ!ぜひ!」
「え?」
「いや、八左ヱ門…」

この授業は手助け禁止と言われていたのだが、その事はすっかり頭から抜けてしまったらしく、竹谷は元気よく頷いた。
周りが声を出すより先に泉美は手拭を取り出した。
目を閉じた竹谷の顔に優しく触れ、濃過ぎの化粧を落としていく。

「ハチは目鼻立ちがしっかりしてるし、化粧が濃過ぎると両方が目立っちゃうから…バランスを考えないといけないから難しいよね」
「す、すみません…」
「謝らなくてもいいよ。私は好きだよ、ハチの顔。格好良いじゃない」
「せ…先輩ぃ…!お、俺も、俺も泉美先輩が好きです!顔も!もちろん中身も全部!」
「ふふ、ありがとう。それじゃあまた目を閉じてくれる?」
「はいっ!」

泉美に微笑まれて竹谷は嬉しそうに目を瞑った。
惚気全開の2人に、他の五年生達はまるきり蚊帳の外状態だ。

「…私達、何を見せられているんだろうな…」
「まあまあ。今に始まったことじゃないだろ?」

苦笑気味に尾浜が返した。



「…ん、こんな所かな」

それから泉美の手持ちの化粧用具により、竹谷の自由奔放だった化粧からは一転、自然な仕上がりになった。
白粉も頬紅も控えめだが、それでいて女性らしさを感じる化粧だ。
10人が全員…とは難しいだろうが、それでも女性と見紛う人もいるだろう。
完成されたその化粧を見た他の五年生達は一様に目を見張る。

「うわ、凄っ」
「アレがこうなるのか…同じ人間が化粧しているとは思えないな…」
「だろ!凄いだろっ泉美先輩は!」
「まだ自分で見てないのになんで八左ヱ門が自慢げなんだ…」
「はい、ハチ。鏡」
「ありがとうございます!…!」

泉美は苦笑しつつ、小さな鏡を竹谷に手渡した。
竹谷はそれを覗き込んで…他の五年生同様、目を見張った。
その様子を見ていた泉美は心配そうに竹谷の顔を覗き込む。

「…どう?」
「す…ごい、です…凄いです…!さすが泉美先輩です!俺じゃこんなの絶対に出来ません!!」

それはそうだろうな…と、五年生は誰しも心の中でそう思う。
そう思われているとも知らず、竹谷は息巻いて泉美に礼を繰り返していた。
泉美も安心したように笑い返した。

「髪もまとめる?」
「はい!お願いします!」
「ん、じゃあ…」

そう言って泉美は櫛を取り出そうとしたが、「あ」と声を小さく漏らした。

「どうしました?」
「…ごめん。櫛、長屋に置いて来ちゃったみたい…。誰か櫛持ってないかな」

周りを見て泉美は聞いた。
そこですかさず尾浜が竹谷を指さした。

「それでしたら、八左ヱ門が持っていると思いますよ」
「えっ」
「西浜先輩から頂いたもので大切だから肌身離さず持っているって言っていましたからね」
「この間買った櫛のこと?そうなの?」
「え、あっ…はい。持ってます…」

竹谷は懐から包を取り出して見せた。
布に包まれているところを見て、泉美は驚きつつも微笑んだ。
そこまで大切に扱ってくれていることが嬉しかったようだ。

「そんなに大事にしてくれなくてもいいのに」
「いえ!本当に大切なんです!泉美先輩が選んでくださって、俺にくださったんですから!傷一つだって付けたくないんです!」
「傷一つって、大袈裟だなあ」
「大袈裟なんかじゃないですよ!」
「八左ヱ門、昨日からこんな調子で。せっかく貰った櫛なら使った方が良いんじゃないかって言ってるんですけど」
「で、でも壊したくも汚したくもなくて…」
「いくら八左ヱ門の髪がボサボサで傷んでたとしても、新品の櫛なんだからそう簡単に壊れやしないだろ?」
「分からねぇだろそんなこと!」
「西浜先輩もそう思いません?」
「うーん……そうだね」
「え…」

尾浜に話を振られた泉美は小さく笑った。
竹谷は困ったように眉を下げるが、泉美がそう言うのだから従う他なかった。

「…じゃあ、これ…」

布を避け、櫛を泉美に差し出す。
その声は消え入りそうなくらい小さかった。
しかし泉美は受け取る代わりに、櫛に再び布をかけた。

「いいよ、しまって。これは使わないから」
「……え?」

泉美の答えに竹谷だけでなく周りも驚いた顔になる。

「櫛は無くても、ある程度は出来るだろうから」
「い、いや西浜先輩?さっきそうだねって…」
「ああ。櫛はハチの物だし、持ち主の気持ちを優先させるべきかなって思ったから」

そう言いやんわりと笑う泉美に、「そっちか…」とその場にいた竹谷以外の五年生は苦笑するしかなかった。
一方の竹谷はと言うと、

「泉美先輩っ…!」

きらきらとした、感動で溢れんばかりの瞳で泉美を見詰めていた。

「ハチが使わないでおきたいならそうしておいて。大切にしたいって思ってくれてるなら、私も嬉しいよ」
「…はい!そうします!ずっと使わないで、ずっとずっと大切に持ってます!」

飛び切りの笑顔を竹谷から送られて、泉美もまた嬉しそうに微笑んだ。



「それじゃあ、授業頑張ってね」
「はいっ、ありがとうございました!」

ひらりと手を振り、泉美は長屋の方へと歩いて行った。
その姿が見えなくなるまで手を振ってた竹谷の髪は泉美によってひとつに結われている。
櫛を使わなかったために相変わらず髪はボサボサではあるが、それでも普段に比べれば断然綺麗にまとまっていた。

「…結局、何もかも西浜先輩にして貰っちゃったね…」

不破が言うと、竹谷は満足げに大きく頷く。

「おう!これで今からの授業は怖いもんナシだ!」
「そうじゃなくて。準備は1人でやらないと駄目だってこと忘れてるだろ」
「え?……あ゛」
「やっぱりな」

鉢屋は呆れ混じりに笑った。

「どうするんだ、八左ヱ門?まだ一応少しは時間あるけど…」

そう久々知が聞く。
言いたいのはつまり、泉美からしてもらった全てをリセットして、もう一度竹谷自身の手でやり直したらどうか、ということだ。
だが竹谷はぶんぶんと強く首を振る。

「い、いや、泉美先輩は手助け禁止ってこと知らなかったんだ。先輩は善意でしてくれたんだ!それを無下には出来ない!俺はこのまま授業受ける!」
「バレたらどうするんだ。それはそれで補習なんじゃ…」
「隠す!隠し通す!それで、授業に合格して先輩に褒めて貰う!…そうだ!それがいい!そうする!」

自分の中で考えを完結させた竹谷はやるぞー!と声を大きくし意気盛んに拳を空に突き上げた。

「…八左ヱ門がそうしたいなら止めないけどさ」

それを見ていた他の五年生達も、熱が入っている竹谷に水を差すことはせず、それぞれ苦笑いを浮かべたり肩を竦めたりするだけだった。

「…ま、頑張れよ?」

純粋に応援する気持ちに若干の冷やかしを混ぜた笑みで、鉢屋は言った。
それに竹谷は天真爛漫な笑顔を向けて大きく頷いた。

「ああ!」



…授業の結果から言えば、竹谷はいつにない好成績で合格点を貰う事ができた。
が、授業終わり間際で気を緩め、惚気混じりでうっかり泉美に全てやってもらったことを漏らしてしまい、結局補習を受ける羽目になるのだった。


おわり