忠犬彼氏と飼い主彼女 | ナノ
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風になりたくて走り出した


「西浜先輩は良く生物委員会の手伝いをしてくださいますよね」

三治郎が泉美に聞いた。
今は委員会の時間で、課外演習授業でいない孫兵を除いた生物委員会は総出で飼育小屋の掃除をしていた。
そして此処には手伝いで来ている泉美と、三治郎と孫次郎が居る。
声を掛けられ、小さな小屋に移した動物達の世話をしている泉美は顔を上げる。

「ん、そうだね。…必要ないかな?」
「い、いいえぇ…!生物委員会は只でさえぼくたち下級生ばかりで人手が少ないですから…西浜先輩に手伝って頂けるととても助かりますぅ」

孫次郎も、使い古した落ち葉を飼育小屋から掻き出しながら言う。

「そっか、なら良かった。でも急にどうして?」

泉美が聞けば、三治郎と孫次郎は顔を見合わせ再び泉美を見た。

「西浜先輩はくの一教室の六年生ですよね?だったら委員長になってもおかしくないじゃないですか!」
「このまま委員長になって頂けたらいいなぁって、ぼくたちよく話しているんですよ〜」
「そうなの?」
「はいっ!ぼくたち一年生はもちろん、伊賀崎先輩も仰ってましたよ!」

三治郎も孫次郎も意気揚々と続ける。
泉美は前から手伝いとしてよく生物委員会に参加していた。
しかしそれはあくまで「手伝い」であり、正式に生物委員会に所属している訳では無い。
くの一教室の生徒が忍たまだけで構成されている委員会に属することはほぼ無いからだ。
泉美もやはりその気ではないらしく、眉を下げる。

「でも、くのたまは委員会に属してないからね。忍たまが頑張ってる中に、ただの手伝いしかしてなかった私がいきなり委員長になる訳もいかないよ」

ごめんね、と泉美が謝れば三治郎と孫次郎は悲しそうな顔になった。

「…そんなに委員長にはなりたくないんですか?」

そんな顔を向けられ、泉美は困ったように笑った。

「なりたくないと言うか…生物委員会にはハチがいるでしょ?」
「竹谷先輩は飽くまで委員長代理ですし…西浜先輩が委員長になってくださればぼくたちも、それに何より竹谷先輩が喜んで下さると思います!」
「うーん…」

力説する三治郎と孫次郎だが、やはり泉美は頷く様子はない。

「やっぱり生物委員会をまとめるのはハチじゃなきゃ」
「……どうしても、委員長になるのは嫌なんですかぁ…?」

孫次郎に縋るような目で言われ泉美は苦笑するが、三治郎も掃除する手を止め泉美の方をじっと見つめていた。

「…私が委員長になりたくないと言うより、ハチに委員会をまとめてて貰いたいのが本音かな」
「え?」
「…それってどういう…?」

泉美の言葉に三治郎も孫次郎も目を丸くさせた。
泉美は動物達が入っている小屋の戸をそっと締め、立ち上がる。
言葉を考えるように宙に視線をやった。

「なんと言うか…うん、委員長代理としてみんなを引っ張って頑張ってるハチ、頼り甲斐があって、凄く格好良くて好きなんだ」

そう言う泉美は珍しく歯切れ悪く、そして照れた様に微笑んでいた。

「だから私が委員会をまとめるより、ハチの頑張ってる姿を近くで見ていたくて」

それが理由かな、と泉美が答えると、三治郎と孫次郎は驚いた様にくりくりとした目で泉美を見つめた。

「…なんて、ただの私の我儘なんだけどね。…ごめんね」

謝られ、黙って話を聞いていた三治郎も孫次郎もはっと我に返る。
泉美につられて顔を赤くさせ、慌てて首を振った。

「そ、そんな!西浜先輩に謝って頂かなくてもっ!」
「た、確かに委員長代理としてぼくたちをまとめて下さる竹谷先輩、格好良いですよねぇ…」
「ふふ、だよね。でもこれはハチには内緒ね?」

指を唇に当て、悪戯っぽく泉美は笑った。

「委員長にはなれないけど、手伝いは出来る限りするから。何でも言って」
「はいっ」
「お願いしますぅ」
「よし、じゃあ掃除の続きしよう。ハチ達が戻って来るまでに終わらせようか」

泉美が言えば、三治郎も孫次郎も揃って「はーい」と返事をしたのだった。





「…」

そんなやり取りの一部始終を、少し離れた建物の影から竹谷、虎若、一平が見ていた。
3人とも飼育小屋で新しく使う木の葉や牧草を運んで来た途中だったが、泉美たちの会話を聞いてしまい出るに出られない状況だった。

「…ですって、竹谷先輩」
「お、おう…」

にやにやと笑う虎若と一平に両脇から見上げられていた竹谷の顔は真っ赤に染まっていた。

「お…俺、もう少し牧草取って来るから!お前らはこれ持って先に先輩達の所戻っててくれ!」
「え?わぁっ!?」
「た、竹谷せんぱい!?ええっ、これ前見えないですっ!」
「頼んだぞ!」

竹谷は慌てた様に持っていた葉と草の山を虎若と一平に押し付けた。
2人の声がまるで聞こえていないように、竹谷は来た道を走って戻って行ってしまった。
その余りの速さにぽかんとしていた2人だが、耳まで赤くさせて動揺していた竹谷を思い出し揃って吹き出した。

「…竹谷先輩、すっごく照れてたね」
「だね」

前が見えなくなるほどの木の葉を持たされたにも関わらず、虎若と一平はまた笑った。



…その後、竹谷に押し付けられ覚束無い足取りで荷物を運ぶ二人を見た泉美により竹谷が注意されたのは言うまでもない。


おわり