人生波乱万丈! | ナノ
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  まったく気にしてマセンヨー!


雷蔵と会った次の日。
お昼を食べた終わった私は、部屋へ戻るため廊下をひとり歩いていた。

「(結局、雷蔵は何が言いたかったんだろうな…)」

歩きながら考える。
昨日は詳細を聞くほどではないと思ったけど、やっぱり気にはなっていた。
雷蔵は望愛ちゃん派だけど、私に敵意を向けてこない珍しいタイプだ。
普通に会話が出来たから余計に気になってるのかもしれない。
でも、私に対して攻撃的じゃなくても委員会には出てないし…不用意に近付くのもまだ怖いんだよなぁ。
雷蔵の一声で、そこかしこからアンチ私派の連中が飛び出してきて襲ってくるかもしれないし。
うん、やはり迂闊に近付くべきではないね!

「(あーくわばらくわばら)」

何か行動を起こさないといけないのは分かってるけど、自ら敵陣中に突っ込んでいくほど私は無鉄砲じゃないからな!
自分の命あってこそ行動出来るんだから。いのちだいじ。
と、角を曲がった途端。

「あっ、和花さん!」
「え?ウワッ」

やべ、反射的にウワッて言っちゃった。
廊下を曲がった先から、ちょうどこっちへ向かってくる五年生の集団がいたからだ。
ひとりひとりで会うならまだ(心の余裕が出来て)いいかも知れないけど、こうやって1対大勢だと怯む。
五年生は仲仔☆学年だから集団でいるのは仕方ないかもだけどさ!
その中で真っ先に私に気付いたのは豆腐小僧こと久々知くんで、久々知くんが私の名前を呼ぶ声で気付いた。
ほとんど角を曲がった瞬間に呼ばれたから、久々知くんの瞬発力?観察力?はエグいようだ。

「あれ、もしかして食堂帰りですか?」

そう聞いてきたのは尾浜くん。
あと居るのは竹谷くんと三郎、合計4人だ。
雷蔵じゃなくて三郎だってのは間違いないと思う。
範囲はだいぶ小さくなっているけど、まだ頬に貼り薬が付いてるからね。
そしてここに雷蔵の姿はない。

「は、はい。昼ご飯済ませてきたところで…」
「なーんだ、残念。まだでしたらご一緒したかったのに」
「はは…」

尾浜くんは冗談なのか本気なのかよく分からない口調で言う。
このうどん髪はいっつも人をからかってくるから、言うこと全部を疑ってかからないとヒドい目に遭いそうなんだよな…。

「兵助も三郎も和花さんと一緒の方が良かったよね?」
「えっ?」
「…」

なぜその話をその2人にする?
ほら2人とも返事に困ってるじゃん!
あと竹谷くんをハブってやるなよ可哀想じゃないか!

「あれ、そんなことなかった?」
「い、いや…俺はその」
「別に」

おおっと、久々知くんが何か言うより先に三郎がぴしゃっと言い放ってきた。

「別にって、何だよ三郎。素っ気ないなぁ」
「何だって良いじゃないか」

そう言って三郎はフンとそっぽを向く。
うぅむ、どうやら今日も今日とて機嫌が良くないらしい。
困ったもんだな!

「何だか三郎がすみません、和花さん」

愛想の良くない三郎の代わりに尾浜くんが申し訳なさそうに謝ってくれた。

「ああ…いえ。では、私はこれで」

いいタイミングと言ったらいいのか分からないけど、上手く話が切り上げられそうだったからここいらで逃げようじゃないか。
良かった、今日は早めにご飯食べといて!

「あ、そうだ和花さん」
「へっ?は、あ、はい?」

私が尾浜くん達の横を抜けたところで呼び止められた。
声の主は竹谷くんだ。

「な、なんでしょう?」
「雷蔵がどこに居るかって知ってますか?」
「え?」

雷蔵?いや何故それを私に聞く?
…とこっちが問うより前に、三郎が「なっ」と驚いたような声を発した。

「な、なんでそれを和花に聞くんだ!」
「なんでって、聞いちゃ悪いのか?」
「いや…悪いとかじゃなくて」

キョトンとした竹谷くんに聞かれても、歯切れ悪くはっきり答えられない三郎。
なんなんだ、一体。

「和花さん、雷蔵ともお知り合いなんですか?」
「え?えーと、知り合いというか…この間、ほんの少しだけ話したくらいで」
「それって昨日の中庭でですよね?」
「え…あぁ、そうです。でも、どうしてそれを…?」
「俺もその時中庭に居たんです。少し離れたところから、和花さんが雷蔵と話しているのを偶然見掛けて」

ああ、そういうことか。納得した。

「その雷蔵が今朝から見当たらないんです。顔を知っているなら、何処かで見ていないかと思ったんですよ」
「そうなんですね。…でも、すみません。見てないですね」
「そうですか…いえ、和花さんが謝らないでください!」

竹谷くんはそう言って笑った。
なんだよこの子、いい子か。

「…もう良いだろ。そんなこと和花に聞いたって意味がない」
「意味無いって」

三郎の言葉、いちいちトゲがある気がする。
一段と機嫌がよろしくないんだろうなぁ。
そう思ったのは私だけじゃなかったようだ。

「…本当どうしたんだよ、三郎」
「何かあったのか?」
「様子が変だよ」
「…別に。何もおかしなことは言ってないじゃないか。和花は…余所者だろう。この忍術学園になんの関係もない。なのにそんなこと聞いてどうするんだ」
「え」
「三郎!?なんてこと言うんだ!」

聞いた私よりも久々知くんが驚いて声を上げてくれた。
尾浜くんも竹谷くんも目を丸くして三郎を見ている。

「和花さんが余所者だなんて、そんな…!」
「事実だろう」
「だからってそんな言い方するなよ!」
「あ、あー!すみません、あの、私は大丈夫ですから!」

私にしては珍しく声を大にして言った。
止めに入らないと久々知くんが今にも三郎に掴みかかりそうだったから。

「和花さん…」
「…」

声を大きくしたせいで、三郎や久々知くんだけでなく尾浜くんも竹谷くんもこっちを見てきた。
うわ、慣れないことするんじゃなかった!
視線が集まると緊張する!

「え、えーと、はい、余所者なのは事実ですから。気にしてませんよ」
「…でも」
「こちらこそ、何もお役に立てなくてすみません。…では、私はこれで」

わざとらしく笑顔を作って見せた。
まったく気にしてマセンヨー!とアピールするためだ。
作り笑顔がどこまで通用するかは分からないけど、ここは早めに退散した方が良さそうだからね!
私がここに居ることで、仲良ピッピ☆な五年生達が仲違いしてバラバラになったら大変だ。
誰かになにかこれ以上言われるより先に、さっさと歩き出す。
まぁ三郎に面と向かって「余所者」と言われたのはビックリしたけど、ショックというより「そうだよなぁ」程度だったしさ。
自覚してるからね!



鉢屋達は誰も何も言わず、和花が歩いてゆく姿を見送った。
角を曲がり、恐らく声が届かないであろうところまで離れたの見計らった久々知が責めるような目で鉢屋を見た。

「…なんであんなこと言ったんだ。見ただろ、和花さんのあの顔。笑ってくれてはいたけど、傷付けたんじゃないか」
「…」

答えるつもりがないのか、はたまた返す言葉が見付からないのか鉢屋は黙ったままだ。

「和花さんが余所者なんて、三郎だって本当は思ってないんじゃないの?」
「…なあ、何か訳があるんだろ?」
「…」

尾浜も竹谷も口々に聞く。
しばらく視線を落としていた鉢屋だったが、ゆるりと頭を上げてそれぞれの顔を順に見返してゆく。
やおら顔の貼り薬に手を伸ばした。

「……それが」

一呼吸の間の後、鉢屋はその重い口を開く。



「あ、やっべ」

あと少しで部屋に着くってところで、食堂に忘れ物をしたことに気付いた。
急須と湯のみだ。
部屋で飲むようにおばちゃんが用意してくれてわざわざお盆にまで乗せてくれてあったのに、あろうことか持ってくるのを忘れてしまった。
うわぁバカにも程がある。
食堂に行ったらまた五年生達と顔を合わせることになるし、さっきあんなふうに気まずかったから本当は会いたくはないんだけどなぁ…。
でもおばちゃんの優しさを無下には出来ない。
仕方ない、戻ろう。
戻って風のようにお盆をかっさらって部屋に戻るとしよう。

「…ん?」

急ぎ足で来た道を戻ったら、なぜか五年生達がまだ廊下でたむろしていた。
慌てて角に身を潜める。
えぇ、なんでまだいるんだよアイツら!邪魔だなぁ!
話が弾んでんのか知らないけど、さっさと飯食いに行けよなぁ!

「…じゃあ、三郎のその怪我は立花先輩に負わされたってことなのか?」
「(え?)」

ここで久々知くんの声が聞こえた。
敢えて声の大きさを抑えているのか、集中しないと内容がハッキリ聞こえない。
でも確かに三郎の怪我って言ったよね?
顔とか腕とかの、この前医務室で手当してもらってたあの怪我のことか?
それの原因が、サラスト野郎?
えっなにそれこわっ。
喧嘩でもしたのだろうか。
サラスト野郎相手になんと無謀な!
その間も五年生達は話を続けているようだ。
たぶん、私が居るってことに気付いてないっぽい。

「…立花先輩に反抗的な態度を取ってしまったからな。あの人は…あの天女様を贔屓されているからな」
「あぁ…」
「(あー…ナルホドね…)」

原因は望愛ちゃんらしい。
サラスト野郎は群を抜いて望愛ちゃん贔屓だもんなぁ。
そんなサラスト野郎相手に三郎は、望愛ちゃんを貶すほどでは無いにしろなにか気分を害するようなことを言ったんだろう。
で、怪我を負わされたと。
聞いてると三郎の自業自得とも言えそうだけど、あれだけの怪我をさせるサラスト野郎もどうかしてるぜ。
もぉー、もっと忍たま同士仲良くしてくれよ!
平和であれ!

「だが…おそらくそれ以外にも理由がありそうなんだ」
「理由?」

理由?
尾浜くんの声と私の心の声が合わさった。
ちらっと見付からない程度に角から顔を覗かせ、様子を伺う。

「…立花先輩にはその時「情報を漏らした」と咎められたんだ。私には心当たりがなかったんだが…それが、余計に気に障ったらしい」
「情報を漏らした?誰に、何の情報を?」
「…さあな」
「話の流れ的に、あの天女様が関わってそうだよなぁ。三郎があの天女様に関することを悪い所に流したとか?」
「いや…私はあの人とほぼ関わっていないから、他人に漏らす情報なんて得ていないぞ」
「それもそうか。うーん、じゃあ何なんだろうな…」

4人は頭を突き合わせて悩んでいる。
情報かぁ…なんか気になるな。
サラスト野郎が攻撃してくるほどのことだから、相当大切な情報とかなんじゃないだろうか?
知らんけど。
あーあ、なんか私が知らないだけでめんどくさいことになってそうな気がするよ…。
まずは現状把握しなきゃとは思ってるけど、それすら大変そうだ。

「(…こんな調子で忍術学園を平和に戻せるんかねぇ…)」

一抹の不安が過ぎってため息が出た。
とりあえず、食堂に行くのはもう少し後にしよ。
五年生達の話もまだ終わりそうにないし。
そう思って静かに向きを変えた。

っっ!!!?

向きを変えた瞬間、そこに人がいた!
びびびびっビックリしたあぁ!!
まっっったく気付かなかったんですけど!?
よく声上げなかった自分!褒めてやりたい!

「…」

って、ら、雷蔵?
心臓がまだバックバクしてる中何とか冷静になって顔を見ると、雷蔵だと気付いた。
うん、あっちにいるのが三郎だからね。消去法で分かったぞ。
というかまたあんたかい!
この間も同じように驚かされた気がする!
いやそれ以前にこんなところにいたのか!
みんなが探してましたよー!
…と言ってやろうと思ったけど、なんでか躊躇われた。
雷蔵が昨日と変わらない暗い表情をしてたからだと思う。
変わらないっていうか、昨日にも増して暗い顔してる、気がする。

「……僕の」
「えっ?」

蚊の鳴くような小さい声で、雷蔵は言った。

「僕の…せいです…。僕のせいなんです」
「…え?」

雷蔵のせい?
ちょ、ちょっと何言っているか分からない。
いきなり現れていきなりよく分からないこと言わないでもらいたい!

「…誰かいるのか?」
「!」

げ、やっべ!
雷蔵の登場と言葉に焦っている間にこっちの気配に気付かれたっぽい!
あの声は久々知くんだな。
ど、どうしようどうしよう。
私がいるのは言い訳出来ても、雷蔵と一緒って言うのがヤバそうだ。
余所者が何してるんだってなりそうだし!
そういう雷蔵も焦った顔をしてるだけで動こうとしない。
動こうとしないというより、どうしたらいいか迷ってるって感じだ。
もー!大事なとこで迷うな忍者のたまご!
え、ええい!こうなったら!

「む、向こう、行きましょう」
「え?」

そう雷蔵に話しかける。

「ここに居たら見付かっちゃいますから」

考えたら、朝から他の五年生が雷蔵を見掛けていないっていうのは、雷蔵の方が敢えて会うのを避けているとも考えられないか?
理由は分からないけど、避けてるんだとしたら雷蔵だってここで見付かりたくないはず。
だったらさっさと立ち去らなければ!
出来るだけ足音を立てないように歩き出した。
数歩行ったところで振り返ると、雷蔵はまだおろおろとしながらその場に突っ立っている。

「…ほら!」

見付かりたくないなら早よしろやぁ!って言ってやりたいのを抑えて出来るだけ小さい声で言えば、戸惑いながらも雷蔵は、

「あ……は、はい」

と、頷き慌てたように私について歩き出した。



和花が雷蔵と共に奥の角を曲がったとほぼ同時に、久々知が顔を覗かせた。
もちろんそこにはもう誰もいない。

「誰かいたか?」
「…いや」

竹谷の問いかけに、久々知は軽く肩を竦めて答える。

「俺の気のせいだったみたいだ」
「…そうか」
「まあでも、気にするに越したことはないからね。こんな会話、先輩方に聞かれてたら後が怖いよ」
「あー、確かに。今の先輩方、やけにピリピリしてるもんなぁ」
「下手に関わったら、それこそ三郎みたいになって…」

そこまで言った尾浜が「あ」と短く声をあげた。
そして鉢屋に目を向ける。

「三郎、だから和花さんにあんな言い方を?」
「えっ?」

久々知が目を丸くさせて鉢屋の方を見ると、鉢屋はきまりが悪そうに目を逸らした。

「どういうことだ?勘右衛門」
「ほら、関わったら和花さんにも被害があるかもしれないから、わざときつい言い方したんじゃない?和花さんは忍術学園に関係ないなんて言って」
「…」

尾浜の言葉に、鉢屋は肯定こそしないが口を閉ざしている。
どうやら尾浜の考えは当たっているようだ。
それを聞いた竹谷は呆れ顔になる。

「なんと言うか…三郎、やり方が不器用だなぁ」
「う、うるさいな!」

そう突っ込まれ、ここで鉢屋はやっと声を大きくさせた。
不器用なやり方だと自覚があるから、機敏に反応したのだけれど。
和花を巻き込ませたくないと思っていても素直に伝えられず、その結果きつい言葉を浴びせてしまうことになったのだ。
見ぬふりをしていたが、去り際の和花の弱い笑みはしっかりと鉢屋の胸に突き刺さっていた。

「…悪かったとは思っている。…だが、雷蔵は…先輩方と同じなんだ」

六年生と同じあの天女様の味方だと、鉢屋は悔しそうに唇を噛んだ。

「…だから、和花が雷蔵と知り合っていたことには驚いた。出来れば…関わらせたくないんだ」
「そうだったのか…悪い。俺、あの時何の気なしに和花さんに雷蔵のこと聞いちまってた」
「俺も…三郎につい厳しい言い方してた…悪かった」
「いや、謝らないでくれ。私の言葉が足らなかったんだ」

真意を知った竹谷と久々知が口々に謝り頭を下げると、鉢屋はゆるりと首を振った。
それを見ていた尾浜が「よし」と改めたように言い、ぱん、と手を打つ。

「三郎の真意も分かったことだしさ。ランチが済んだら長屋で集まって、改めて話してみないか?」
「話すって、何を?」
「先輩達の事とか、これからの事とか」

そして、不破のことも。
それは言葉にしなかったけれど、3人は尾浜の言いたいことを汲み取り頷き合った。

「ああ…」
「そうだな」
「そうしようか」
「じゃあ、決まりだね」

満場一致となり、4人は揃って食堂へ向かい歩き出したのだった。


つづく