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「ごちそうさまでしたぁー」
「はーい」

朝ご飯のお盆をおばちゃんに返してから食堂を出た。
いやー、やっぱりおばちゃんのご飯は天下一品だ。
朝なのにしっかり食べちゃうよね。
うん、デブの元。

「ま、まあ今日は裏山で実技演習あるし!?動けば食べた分くらい消費できる、」
「せんぱぁーい!」
「…うん?」

自分に言い聞かせるように独り言を呟いていたら、可愛い声に呼ばれた。
顔を上げると向こうから可愛い可愛い伏木蔵が駆けて来るのが見える。
なんだあれ、走ってるだけで可愛い。

「おはよう、伏木ぞ「おはようございまぁ〜す」うぐっふぅ!!

ズドン!と言う勢いで伏木蔵が腹に突っ込んできた
えっ、なにその勢い!?
石火矢でぶっ放されて来たんじゃね?ってくらいの勢いだ。
あ、やべ、朝ご飯の卵焼きが戻ってきそう。

「も、もー伏木蔵!勢い半端ないな!」
「えへへ、そうですか?」
「〜〜〜もぉぉぉ!」

褒めたつもりはないのに伏木蔵がへにゃーと笑うもんだから文句も言えない。
可愛い伏木蔵に対して文句なんか持ったことないけれど。
もう、ほんとカワイイ子って得だ。
何しても許されるんだから!
何でも許してるのは私だけど!

わちゃわちゃと伏木蔵の頭を撫でていると、加減を間違えてしまったらしく伏木蔵がふにゃふにゃと訴えてきた。

「せんぱぁい、め、目が回ります〜」
「えっあっ、ごめん!」

慌てて手を離すと伏木蔵は怒ることも無く「すっごいスリル〜」と言っていた。
くそー!もう可愛いなお前は!!
しかもその間、一切私から離れてない。
ぎゅーっと抱きついたままでなにこれ可愛い。
その可愛さにちょっと耐えられなくなってぷにぷになほっぺたをぶに、と引っ張ってみる。

「…ん?っていうか伏木蔵」
「なんですかー?」
「前までこんなにほっぺたぷにぷにじゃなかったよね?なんか最近ぷにぷに感増してるよねぇ」
「そうですか?」
「可愛いから全然良いんだけども」

やーらかいことはまったく悪いことではないけどね!
まるでおまんじゅうのようだ。かわいい。

「うーん…あっ、先輩がいっつも引っ張るからですかねー」
え゛っ!?あっ、ご、ごめん!ごめんね!?」

ばっと慌てて手を離す。
私が限度も関係なく伏木蔵に会ったらほっぺたもちもちしてたからこんなおまんじゅうみたいになっちゃったのか!
大変申し訳ないことをしていた!

…なのに伏木蔵は笑った。

「先輩にならずっと引っ張られてもいいですよー」
「ふっ…しきぞう……!君はホントにもー……!」

エンジェル過ぎてとてもつらい。
可愛いとかいうレベルをとっくに通り過ぎてただただつらい。

「もおぉ、ぎゅーしてやる!」

伏木蔵のエンジェルさに我慢出来ず抱き締め返す。
しかも伏木蔵は嫌がるどころか「えへへ」と嬉しそうに笑ってくれた。
やべーマジで何この子可愛さで人殺せる。

「あれっ、名無し先輩。それに伏木蔵も。おはようございます」

顔を上げたらそこには乱太郎がいた。
隣にはきり丸としんベヱもいる。

「あ、乱太郎きり丸しんベヱ!おはよう」

伏木蔵から腕を離してひらひら手を振るときり丸もしんベヱも「おはようございます」と言ってくれた。
うん、一年生はみんないい子。

「伏木蔵、お前まーた先輩にくっ付いてんのかよ?」
「先輩に会う度そうだよねー」
「悪い?」

きり丸としんベヱに言われると、私によりぎゅっと抱き着く伏木蔵。
ひえええー、可愛いぃ!

「悪かないけどさ…」
「…あー、きり丸羨ましいんだ?」
「はあ?」
「そう言いたそうな顔してる」
「いやいやいや!してねーよ!?」
「本当?でも駄目だからね、先輩に抱き着いていいのはぼくだけだから」
「伏木蔵、先輩は伏木蔵のものじゃないでしょ?」
「何言ってるの乱太郎。名無し先輩はぼくだけの先輩だよ」

ですよねー、と言って見あげてくる伏木蔵はひたすら可愛い。

「いやそれおかしいって」
「あーやっぱりきり丸はぼくが先輩と仲良くしてると気に食わないんだ」
「だぁから!そんな事思ってねーって!」
「ホントに?」
「ホントに!」
「絶対?」
「絶対!」
「ホントにホントにホントにホント?」
「ホントにホン……って、あー!しつこいぞ伏木蔵っ!乱太郎、しんベヱ、もう食堂行こうぜ!」
「ええっ、ちょっと待ってよきり丸!」

引き下がらない伏木蔵に嫌気が差したのかきり丸はぷいっと食堂の中へ入っていった。
乱太郎としんベヱも慌ててその後をついて行った。
…それを見送った伏木蔵は私の方を見上げた。

「本当かなぁ…先輩、気を付けてくださいね」
「え?なにを?」
「きり丸が先輩のこと狙ってるみたいですから」
「えぇー?いやあそんなことは無いと思うけど…」
「そんなことあります!」
「お、おおゴメン」

勢いに押され謝ってしまった。
いや本当にそんなことは無いと思うんだけどなぁ。
にしてもむーっとしてほっぺた膨らませてる伏木蔵もかわいい。

「名無し先輩」
「え?な、なに?」

急に呼ばれて吃ってしまう。
どうした?と伏木蔵を見ると、相変わらず私に抱きついたまま、じっと私の目を見詰めてきた。

「今はぼくの方が小さいですけど、いつか先輩を追い抜いてぎゅーってしますから」
「え?」
「だからそれまで他の人を近付けさせちゃだめですよ?」
「お、おぉ…」

なんと可愛いことを言うんだこの子は。
あー懐かれてるって幸せ極まりない…!

「どーせ近付く人なんて居ないだろうけどねぇ。ふふふー、楽しみにしてるよ伏木蔵ー」

そう頭をぽんぽんしてたら、急にがばっと伏木蔵が私から離れた。

「えっ、ど、どうした?」
「……先輩、ぼくが何を言いたいか分かってませんよね?」
「え!?い、言いたいこと!?」

な、何を言いんたいんだろう!?

「ぼく、先輩のことが好きです」
「え?お、おお、そう?ありが、」
「先輩としてじゃないです。女の人として好きなんです」
「え?…えっ!?」

な、なんか凄いことを言われた気がする!
えっちょっと待って。何言ってるの伏木蔵!?
じゅ、10歳だよね?一年生だよね?
一年生って異性として好きとか思える年頃だっけ!?
私が一年生の時なんてセミを追い掛け回してた毎日だったのに!

…とかなんとか私がテンパっていると、伏木蔵は言葉を続けた。

「今はまだ小さいし先輩よりも力も無いです。だけど何年かすれば絶対先輩よりも大きくなりますよね?」
「え、ああ…そりゃ、伏木蔵だって男の子だし」
「そしたら先輩をぎゅーってして、それで改めて好きだって言います!」
「えっ、あ、ええ…!?」
「だからそれまでは他の人から好きだって言われても断ってくださいね?」
「え、えええー…」

屈託のない笑顔で言われて私の頭の中は完全パニックです!

「先輩に群がる男の人を次々に倒すぼく…すっごいスリル〜」

私の脳内パニックなんて知らないでか、伏木蔵はそのもちもちなほっぺたを両手で覆いながら楽しそうにしている。
…いやまず私に群がる男なんていないと思うけどね。
返す言葉が見当たらずまごまごしていたらぱちっと伏木蔵と目が合う。

「先輩、約束ですよ?」

そう言って伏木蔵は手を出して小指を立てた。
ゆびきりげんまん、らしい。

「……お、おお…」

にこにこしている伏木蔵を拒むことなんて出来るだろうか。
つられて私も指を出し伏木蔵と繋いだ。

「えへへ〜」

そしたら伏木蔵は嬉しそうに笑った。

あああもう、可愛いなあこの子!
もう本当に伏木蔵を待ってよーかなぁ、とか揺らぎ始める自分が少し怖くなった、そんな朝だった。


おわり