最近、くのたま長屋が破壊される事件が立て続けに起きている。 それは朝昼夜問わず、しかし有る一定の部屋を中心に部屋が壊されるという迷惑極まりないことであった。 そして今日も。
どごぉぉん!!
「ひぃっ!!?」
1日の授業が終わり、予定も無かったから長屋でゴーロゴロしてたら急に轟音と共に障子と床がぶっ壊された! うわあ最悪だ、何度目だよ…!と頭を抱えたくなる。
「名無しー!会いに来たぞ!」 「……小平太…」
もうもうと上がる土煙から出て来たのはやっぱりクソ力の七松小平太だった。 その足元には、床板にめり込むようにバレーボールがある。 どうやらいつものいけどんアタックを打ち込んできたせいで部屋がぶっ壊されたらしい。 もう!バレーボールで部屋を壊せるってどんな力だよ!
「あんたね…「会いに来たぞ!」じゃねえよ!この野郎!!こんちくしょう!何回目だよ私の部屋壊すのぉぉ!!」 「これで12回目だ!」 「壊しすぎだろ!!」
訳が分からないが、こいつはココ最近くのたま長屋に忍び込んでは私の部屋を壊してきやがる! 訳分からん!
「なんで怒ってるんだ?名無しに会うためにわざわざ罠を全部壊して来てるんだぞ?」 「なんで壊す必要がある…!」 「罠を抜けるより壊した方が手っ取り早いからな!」 「あっけらかんと言うなよこの暴君…!」
くのたま長屋にはそこかしこに罠が張られている。 大きい物から小さい物ととにかく山ほどあるのに、それを!こいつは!毎回毎回壊して!! しかもその挙句私の部屋を壊すしね!! なんでかなー憎まれてるのかなぁ!!あっはっは!(錯乱)
「どうした?なんで震えてるんだ?」 「ハッハッハ、怒りで体も震え「そうか私に会えたのが震える程嬉しいのか!私も嬉しいぞ!」
ぎゅううううう
「ぐええぇ!ちょ、ぐるし…首絞めんな!」 「首なんか絞めてない!抱き締めてる!」 「く、首も締まっとるわぁ!とにかく離せぇ!」 「嫌だ!」 「なんでや!!」
もーホントこいつは自分勝手だなあクソぉ!
「なあ名無し、部屋も壊れてなくなった事だし私の部屋に行かないか?というか私の部屋で暮らせばいい!」 「なんでそうなる!?いや、壊れてなくなったというか壊したのあんただよね!?」 「だって壊せば名無しの寝床はなくなるだろ?そしたら私の部屋に来るじゃないか」 「いやなんであんたの部屋になる!…というか、長屋を壊してたのはそんな理由…!?」 「そうだ!」
胸張って頷くなよ…! つーかなんなんだ、ただ私の部屋を移動させたいだけに長屋壊してたってことか!?
「おまっ…あ、あのさぁ!小平太がどんどん部屋壊すから私居場所なくなりかけてんだけど!?」 「だから私の部屋に来ればいい!」 「いやそーじゃなくて!…私の部屋が毎回壊されんのは皆承知のことだから、直して壊されて繰り返してたらいい加減鬱陶しく思われるんだよ!?ヘタしたら周りの子の部屋も壊されるし!」
私だって本当は二人部屋だったのに、あまりに壊され過ぎて同室の子は別部屋に移っちゃったしね!!
「そのうち友達居なくなって居場所が無くなったらどーしてくれんの!!」 「それがいいんじゃないか!」 「は!?」 「名無しには私が居るだろ。むしろ居場所が無くなった方が嬉しいぞ!」 「なんでやねん!」
あっけらかんとまあ恐ろしいことをいいやがる! だけどなんとか隙を見て小平太の腕から逃げられた。 クソ力め!
「あー…もう訳分からん。とにかく!私はあんたの部屋行かないからね!」 「えー」 「えーじゃないよこういう時だけ可愛い顔すんな」 「名無しのが可愛いぞ?」 「黙れ天然タラシ」 「私はタラシじゃない!こんな事言うのは名無しだけだ!」 「あーそっスか」 「冷たいぞ名無し!」 「そりゃすんませんね。…とにかくあんたは帰るか片付けるの手伝うかして」 「片付け?そんなものくの一教室の奴らに任せればいいじゃないか」 「いや私もくの一教室の生徒だからね!?まあこんな大破されてたら全部は片付けられないから、また留三郎にお願いすることになるだろーけど…」 「…留三郎?」 「(えっ何怖い真顔になった)…う、うん、その、腐っても用具委員長だから…、これだけ壊されたらくのたまだけじゃ直せないし…」 「…今までも留三郎が直してたのか?」 「え?あ、ああ…まあ」 「じゃあその間留三郎と一緒にいたってことか」 「そ、そりゃー私の部屋だし、やって貰ってるから何かしら手伝わないと……だし」 「ふーん……」
ふーん、じゃないよ何その反応!? 急にテンション落ちたから怖いんですけど!
「…じゃあもう部屋を壊すのは止める」 「え?」 「だって部屋を壊せば留三郎が直しに来るんだろ?名無しと2人っきりにさせるのは癪だからな!それに幾ら言っても名無しは私の部屋に来ないしなー」 「い、いやいやそんな理由で…」 「だから別の手段考えないとだな!」
なんだよ手段って! 何をしでかすつもりだよ! しかもなんかブツブツ言ってるし! 「名無しをくの一教室のみならず忍術学園から孤立させるには…」とか聞こえて気がしたけど知らない知らない。気のせいですよね!
「…と、と言うかさぁ小平太?」 「ん?なんだ?」 「あんたはなんで私に付きまとうの…なんか恨みでもあんの?」
部屋を壊すわ孤立させようとするわ。 力はあるのに一撃で殺さずじわじわと殺していく方法かしら? まあ地獄ー!
「…お前それ本気で言ってるのか?」 「は?いや、まあ本気ですけど…なんで呆れた顔してる?」 「はー…あれだけはっきり態度に出してるのに気付かないなんてさすが鈍感だな」 「鈍感って」
言われたこと無いけどそんなこと! でも結局なんなんだ。 ただの気分で部屋を壊したり居場所を壊そうとしたりして欲しくないんだが!
「うーん…」
な、なんだ、急に唸って。 なんだ頭をわしわし掻いて。 ただでさえわさわさな髪の毛してるのもっと酷くな…あーあーボッサボサ。うける。
「お前、思った以上にアホだな!」 「ア…!?アホっていうな!」
特に小平太には言われたくないんですが!!
「何で私がお前の部屋を壊すか分かってるのか?」 「え、嫌がらせ?」 「私の部屋に居て欲しいからだ!なんでか分かるか?」 「え?人目につかないところでボコるため?」 「…留三郎と2人っきりにするのは癪だって言っただろ?それは?」 「あ、2人っきりだと留三郎に私がボコられるかもしれないからか!自分の獲物だと思ってるとか?」 「……はぁー」 「えっなんでそんな深いため息!?」
ちゃんと考えて言ったのに!
「じゃあなんで会う度にお前を抱き締めてるのかも分かってないのか」 「抱き締め……いやあれは首を絞めてるっていうか命を搾り取ろうとしてるしか思えないけれども」 「……」
ぎゅううううう
「あだだだだ!ま、またかい!」
またぎゅうぎゅう締められる! なんだ、ついにここで殺る気か!
「待って待ってギブギブ!死ぬ死ぬ落ち「私は名無しのことが好きだ」……は?」
な、なんかとんでもない事を言われた気がする。 好き?好きってなにが?誰を?
「好きだから名無しを近くに置きたいし、他の男と居て欲しくない。名無しが孤立すれば頼るのは私しか居なくなるし私のことしか見なくなるだろ?」 「お……おぉ…」
なんか若干重い気がするが、黙って聞いていよう。 あと首を絞めてる腕を緩めろ。
「こうして毎回抱き締めてるし分かりやすく行動にしてたんだが、鈍い名無しには伝わらなかったんだなー。さすがの私でも弱冠イラついたぞ!」 「いや…その、スンマセン……」
あ、いかんつい謝ってしまった。 と思ったら肩をつかまれてぐいっと体が離れた。 まって掴む手も強い。
「まあ良い。これで私の想いは伝わっただろ?」 「まあ……はい」 「じゃあ良しとしよう!」 「お、おお…」
にかっと、まあ太陽のごとく明るい顔で笑う。 …とか思ってたら視界が一転した!
「……えっ、ちょ、なに!?」 「よし!思いは通じたしこのまま私の部屋に行こう!」 「えっ、いやなんで!?ちょ、担ぐのやめて下ろして!?」 「駄目だ!」 「言うと思いましたけどね!」 「じゃあ行くぞ!いけいけどんどーん!」 「ぎえぁっ!」
私を担いだまま小平太が走り出した! 走るっていうか飛んだり登ったり、くのたま敷地と忍たま敷地の塀もやすやすと飛び越えるもんだから衝撃が半端ない!!
「ちょ…待って部屋行ってどーすんの!?」 「一緒に暮らす!」 「いやいやいや!?暮らすって!第一あんた長次と同室でしょうに!」 「追い出す!」 「ひでぇ」
なにサラリと言ってんだこいつ! そんなん長次かわいそ過ぎるだろ!
「つーか忍たま長屋で過ごすなんて言ったら必然的に忍たまに囲まれることになりますけど!?」 「あ、それもそうだな。うーん…ならお前の両足を折って部屋に閉じ込めておけばいい!」 「折っ!?」 「そうすれば誰にも会わない!おお、いい案じゃないか!」 「よくねぇよ!?」 「細かい事は気にするな!」 「細かくないよ!!?」
もう何言ってんだこいつはーもおおぉ!
「名無しー!」 「な、なにー!?」 「好きだー!」 「ぐっ…」
く、くそう、そんなはっきり言われたら困るじゃないか!
「名無しは私のこと好きか!?」 「はっ!?え、いや、ど、どう…どうでしょう……?」 「なんだー、直ぐには答えられないのか?」 「そ、そりゃあ…!」 「ま、いいか。これからずーーーーーー〜〜〜っっ……と!一緒だからな!!」 「えっ、ちょっとなにその長い「ずっと」は!?怖いんだけど!?」 「これから朝も昼も夜も晴れの日も雨の日も風が吹こうが槍が降ろうが私たちはずっと一緒だ!!」 「重い!なんか重い!!」 「そうだ、足枷手枷を使うのもありだな!」 「何の話!!?」 「ははは!細かい事は気にするな!」 「いやだから細かくないって!!!」 「いけいけどんどーん!」 「だっ、だぁぁからああああぁ!!」
私が叫んでも聞く耳持ってやしない!
「〜〜〜っ、もおおおおぉぉ…!」
半ば諦めて反抗するのも止める。 どうせ力じゃ敵いっこないもんな。
…でもこうして諦めてる時点で、心のどっかで受け入れようともしてんのかなぁ。 とか思ってたりして、ね。
「おっ、大人しくなったな!じゃあ逃げないように足を切り落とすのは先延ばしにするか!」 「前言撤回やっぱ無理助けて」
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