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「… いっこ聞いてもええっスか」
「え?」

そう声をかけられ振り向くと、さっきまでベッドの上で雑誌を読んでいた財前がいつの間にか縁まで移動して来ていた。
名無しはそのベッドにもたれ掛かるように携帯をいじっていたのだが、横に来た財前を見上げるようにして首を傾げた。

「なに?」
「…名無しさん、最近爪伸ばしてます? 」
「は?」

突拍子もない質問に名無しはつい間の抜けた声を出してしまう。

「爪、って」

これ?と言って自分の手を示す。
それに頷く財前。

「えー、よく気付いたね。 ほら私バイト変えたじゃん?今まで喫茶店だったから爪とか伸ばせなかったけど、今雑貨屋だし。今まで伸ばせなかった分伸ばしたくてね」

心なしか嬉しそうにしながら名無しは手をかざす。
そこまで伸びてはいないものの、掌側からでも爪がはっきり確認出来るほどだった。

「…やっぱそこそこ伸びとるんスね」

名無しの手を取り爪をなぞる。

「そんな長くはないしケアしてないからそんなキレイじゃないけどね。…ていうかほんとよくわかったね」
「まあ、そら痛い程感じてますから」
「は?」

財前の言葉に名無しは目を丸くさせる。

「…どう言う意味?それ」
「そのまんまの意味っスわ。最近俺の背中生傷絶えないんスよ。名無しさんが毎晩ヤっとる時に爪立てるから」
「はあっ!?」

思ってもいない返事に目を剥く。
驚きと共に恥ずかしさが込み上げ名無しは顔を赤くさせた。

「ちょっ…いきなりなに!?え、そういうことで爪伸びたって分かったの!?」
「ええまあ。こないだ着替えとる時に気ぃ付いたんスけどね」
「〜っ」

照れることもせず肯定する財前に名無しは声にならない呻き声を漏らす。

「…その……なんかごめん。…分かんなかった…痛かったよね…」
「いや、ホンマに痛いわけやないっスから気にせんでもええっスわ。痕付けられてるっちゅー事はそれだけ名無しさんが俺の事求めとったっちゅー事やし」
「求っ……いや、別にそーじゃ…!というか毎日毎日盛ってるそっちが悪いんだからね!?」
「人を発情期の猫みたく言うの止めてもらえます?そら毎日ヤっとるんは事実やけど誘っとんのはそっちやないですか」
「誘!?私そんな事した覚えないけど!?」

首を大袈裟に振って否定する名無しを見て癪に障ったのか、財前は名無しの横に降りる。
ぐいっと顔を近づけてベッドにもたれ掛かっていた名無しを追い詰める。

「…よう言うわ。いっつもそんなうっすい短い服で近くうろちょろされるこっちの身にもなって欲しいわ」
「え、い、いやただタンクトップとショーパンなだけじゃ……ひぁっ」

露になっている首筋に舌を這わされ、思わず嬌声が漏れる。

「…そー言うエロい声も余計その気にさせるだけやのに」

それだけ言い、逃がさないとばかりに財前は名無しを跨ぎ動きを封じる。
そして当然とばかりに自分のシャツを脱ぎ始める財前を見て名無しは慌てる。

「ちょ、ちょっと待って今から!?」
「おん」
「そ、そんな当たり前みたく…い、いやそろそろ私危ない時期だから!」
「そのへん抜かり無いから安心しぃ。ちゃんとゴムあるし避妊すれば大丈夫や」
「さらっと言わないでそう言う事…と、というかまだ爪長いしまた痕付くよ…」
「名無しにならどんだけ痕付けられてもええわ」

上半身裸になった財前は名無しに覆い被さるようにして耳元で囁く。
名無しは擽ったそうに身を竦める。

「…こういう時だけ呼び捨てしてくるとかほんと卑怯だよね…」
「何とでも言い」

そう言って笑った財前は名無しの首元に顔を埋めた。








「うーわ…ほんとだ、結構付くもんだね…」

シーツを身体に巻いたまま、名無しは財前の背中を見て呟く。
その背中には先程名無しが付けたであろう爪痕がしっかりと残っていた。

「…痛かった?」
「名無しさん今日も激しかったから痛いもなにも感じへんかったし大丈夫っスよ」

あっけらかんと答える財前に反し名無しは顔を赤くさせた。

「だ…誰も激しくなんかないけど!?」
「隣近所から苦情来そうな勢いで喘いどった癖に…」
「〜っ、うるさい!」

名無しはベシ、と財前の額を平手ではたく。
「痛っ。ちょ、張り手とかもっと他の叩き方あるやないですか」
「張り手じゃないし!それ以上余計なこと言ったら次は爪ガッツリ尖らせてやるからね!?」
「怖。流血プレイっスか。まあ名無しさんとなら何でも来いっスけど。…今度やってみます?」
「誰がするかぁ!!」

ベシ、と再び名無しの平手が財前に入った。