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「では、今日の授業はここまで!」
「「「ありがとうございました!」」」

晴れた青空の元、一年は組の元気の良い声が響いた。
たった今、午前の実技授業が終わったところだった。

「あーあ、今日もまた手裏剣当たんなかったなー」

きり丸が頭の後ろで手を組んで言った。
それを聞いていた乱太郎も、諦めたようなむしろどこか清々しい顔で笑う。

「全部、山田先生に向かって飛んで行っちゃったもんねぇ」
「でもそれがぼくたち一年は組だから!」
「しんベヱ、それは胸を張って言うことじゃないって」

威張るように言うしんベヱに、隣に立っていた金吾が苦笑している。

「もっと練習しないとだよね。今日だって途中で雨が降ってほとんど打てなかったし」
「確かにすごい雨だったよな!」
「通り雨だったのかな?今はすっごくいい天気になったけどねぇ」

皆が話している通り、授業の終わりがけにざっと激しい雨が降った。
降っていたのは僅かな時間であったが、その間は授業が中断され全員が木の下で雨宿りをしなければならなかった。
しかし今はその雨も雨雲もどこへやら、すっきりとした青空になっている。

「…あっ、虹!」

そう声を上げたのは乱太郎で、空を指さす。
他の3人は揃って空を見上げた。

「うわぁー!」
「すっげー!」

晴れた青空には、確かに大きな虹がかかっていた。
色と色の境目がはっきりと分かるほどで、皆それぞれ感嘆の声を上げ虹に見入っていた。
と…急に何かを思い付いたらしく、金吾が「あっ!」と声を上げる。

「どうしたの、金吾?」
「ちょっと行ってくる!」
「行ってくる?って、どこに?」
「先輩のところ!」

それだけ言い残し、金吾は駆けて行ってしまった。

「…先輩って?」

しんベヱが不思議そうに首を傾げる。
すると乱太郎ときり丸が笑った。

「たぶん、くの一教室の先輩のことだと思うよ」
「くの一教室の?」
「金吾のヤツ、その先輩のことすっげー好きだからなぁ」
「そうなんだ。ぼく、初めて聞いたよ」
「ま、あいつ自分じゃ言わないからな〜」
「でも見てたらすぐ分かるんだよねえ。金吾って結構分かりやすいから」
「へえ〜。…でも、なんで今その先輩のところに行くんだろ?」
「え?」
「…さあ?」

しんベヱの問いかけに、今度は乱太郎ときり丸が首を傾げる番だった。





「(ええと、名無し先輩は…)」

食堂へ続く廊下の途中で、金吾はキョロキョロと辺りを見渡していた。
午前の授業が終わった時刻のため食堂へ向かう忍たまやくのたまが行き来している。
しかし目当ての名無しの姿はない。

「(こうしてるうちに消えちゃったらどうしよう)」

そう焦りを感じ始めた時、ようやく廊下の向こうから1人のくのたまがやって来るのが見えた。
その姿を捉えた途端、金吾はぱあっと表情を輝かせた。

「名無し先輩っ!」

名無しの元へ駆け寄る。
声を掛けられた名無しは目を丸くさせたが、声の主が金吾と分かるとすぐに笑って足を止めた。

「おー金吾くん。どうした?慌ててるね」
「あのっ、少し急いでいて!」
「そうなの?」
「はい!あの、名無し先輩、一緒に来てください!」
「え?うん、いいよ」

理由も伝えないまま言われたものの、名無しはすぐ了承した。
頷いたところを見て金吾は再びぱっと笑い、「こっちです!」と名無しを連れ立って早足で歩き出す。

「で、どこ行くの?」

歩きながら、今更ながらに名無しが数歩前を歩く金吾に問う。

「えっとですね……あ、この辺りなら!」

外が見える長廊下で金吾が足を止めた。
覗き込むように身を乗り出して空を見上げる。
両端が薄くなりつつあるが、大きな虹はまだ悠々と空にかかっている。
金吾はよし、と頷き、くるりと名無しの方を振り返って笑顔で空を指さした。

「あそこです!」
「あそこ?…おぉー!」

名無しも金吾に倣い空を見る。
その瞬間、色とりどりに輝く虹が目に写り、名無しは大きく声を出した。

「虹かぁ!すごいすごい、あんな大きいの初めて見たよ!」
「ぼくも初めてです!」
「そう言えばさっき雨降ってたもんねぇ。あ、金吾くん、これを教えに来てくれたんだ?」
「はい!」

名無しに聞かれ、金吾は笑顔で頷く。

「そっかそっか。確かにこれは誰かに教えたくなるねぇ〜」

そう言った名無しは顔を綻ばせる。

「ありがとうね、教えてくれて」
「あっ、い、いえ…」

屈託ない笑顔を金吾に向けた名無しはまた視線を空へ向けた。
心の底から嬉しそうに笑っている、そんな名無しの横顔を金吾はぼうっと眺める。

「(…いつからだったっけ、名無し先輩のこと好きになったのは)」

金吾はぼんやりと思い返す。
けれど、直ぐには答えが出て来なかった。
名無しのことを知ったのは、忍たまの先輩達と話しているところを見た時だった、気がする。
気付いたら名無しを目で追うようになっていて、いつの間にか話すようになっていて…ふと思うと…だったように思う。
いつからなのかは思い出せないが、明るくいつも笑っていて、それでいて金吾や他の後輩達に優しい、そんな名無しだから好きになったのは自然なことだったんだろう。
……恥ずかしくて名無し本人にはもちろん、他の誰にも、この秘めた想いは言えていないのだけれど。

ぐぅ〜

どこからともなく気の抜けた音が聞こえてきた。

「ありゃりゃ、ゴメン金吾くん。お腹鳴っちゃった」

恥ずかしー、と照れ笑いを浮かべた名無しだったが、そこで金吾は今が昼時だと思い出した。
食堂へ向かっていた名無しを呼び止め連れて来てしまったのは他でもない金吾だ。

「す、すみません!ぼくが来て欲しいなんて言ったから…!」
「あっはは、いいよいいよ!私にはご飯より金吾くんのお誘いの方が大事だからね」
「えっ」

名無しは何気なしに言った言葉なのだろうが、金吾が胸を弾ませるには充分過ぎた。

「どうした、金吾くん?」
「い、いえ……あ、ありがとうございます」
「お礼言われることなんかしてないよー」

名無しはからからと笑う。
その笑顔にもどぎまぎしてしまい金吾は顔を伏せた。

「そ、そろそろ食堂に戻りませんか?」

照れを隠すため、金吾は話を変えた。
特に気にする様子もなく名無しは頷く。
もう一度だけ空を眺めて、「行こうか」と廊下を歩き出した。
金吾は詮索されなかったことに内心安堵し、名無しの少し後ろをついていく。

「…あ、そう言えばさ」

金吾が呼び止めた廊下に差し掛かった時、名無しが思い出したように声を出した。

「なんですか?」

その時には並んで歩いていた金吾は首を少し傾げて聞いた。

「前に聞いたことがあるんだけどね。綺麗なものを見たり何かを見付けた時って人に教えたくなるでしょ?さっき金吾くんが虹を教えてくれたみたいに」
「はい」
「その時、真っ先に教えたいって思い浮かぶ人って好きな人なんだって」
「……へっ?」

金吾はつい足を止めて、目をぱちくりとさせた。
名無しを見上げていた顔が見る見るうちに赤くなっていく。

「金吾くんは、何番目に私のところに来てくれたの?」

そこで名無しは金吾に視線を向けた。
ぱちっと2人の視線が交わる。
…けれど今度は顔を伏せることも出来ず、金吾は赤面したまま名無しを見上げることになる。
名無しから視線を逸らせない。
いたずらっぽく笑っているその視線に捕まってしまったかのようだ。

「えっ…と……ひ、秘密…です」

たどたどしく返すのがやっとだった。

「そっかぁ」

真っ赤な林檎のような顔で言われたが、名無しはそう一言言うだけだ。
そして、それ以上言及もしなかった。
金吾の隠すことが出来なかった答えを読み取ったかどうかは分からないが…目を細め、名無しは嬉しそうに微笑んでいた。


おわり