南蛮には「ばれんたいん」という風習があるらしい。 聞けば、それは女から男に、そして恋仲又は意中の人、気になる相手に甘い物を贈るそうだ。 その甘い物が何なのかは分からないが…兎に角、そんな行事があるという。
「…という面白い行事があるらしいんですよ」
昼時、名無し先輩の向かいの席を勝手に陣取り一緒にランチを取りながら話す。 それなのに名無し先輩ときたら怪訝そうな顔で俺の顔を見ていた。
「…それが何なのよ?」
どうやら俺の言いたいことが分からないようだ。 でも只の雑談ではないのは何となく理解しているみたいで、箸を持つ手を机に置いている。 少し口調は厳しめでも、ちゃんと俺の話は聞いてくれる姿勢だ。 女にしては切れ長な目に漆黒と言える程に手入れが完璧で艶すら見える髪からキツめな性格と捉われがちな先輩だけど、根は優しいし蓋を返せば何より乙女だ。 そんな差異の塊な先輩だからこそ、好きになっちゃったんだけど。
「んー、特に何も。そんな話を聞いたってだけです」 「……」
あ、眉間に皺が出来た。 綺麗な顔なのに勿体無い。 そう思い「あれ、怒っちゃいました?」なんて笑いながら聞くとより一層皺が濃くなってしまった。 怒った顔も綺麗なんだけどね。
「…別に、怒っちゃいないけど。あんたが急に変な話振るから」
先輩はつんと横を向いて言った。
「ちなみに俺、団子が好きです」
何気無しにそう言えば、顔を横に向けたまま横目で俺を見た。
「…何、催促でもしてるわけ?」 「いえ?先輩には俺のこと、何でも知ってて貰いたいだけです」
俺の本心と違わないことをさらりと伝えれば、幾分先輩の表情が和らいだ…気がする。 今俺が先輩に求めていることとは違うけど、本当に先輩には俺の全部を知っていて貰いたい。 包み隠さずの俺を見てもらって、その上で好きでいて貰いたいから。 すると先輩はため息をついて箸を持つ手を上げ、静かに食事を再開させた。 その姿を見ていると、ああ、また冗談と取られちゃったかと少しだけ寂しくなる。 …どうも俺は名無し先輩を前にすると素直に物が言えないらしい。 南蛮文化の話をしたのも、安直に先輩から「ばれんたいん」の贈り物が欲しいからなのに。 だけど俺の中の小さな自尊心で、先輩に「ください!」なんて言えなかった。 先輩から見れば、ただ俺が茶化しているだけに見えるんだろう。
結局その後も、南蛮の事には一切触れずに別れそれぞれ午後の授業へと向かった。
その日の午後の授業は裏山で実技実習だった。 とりあえず裏山までは行ったけど…やる気が湧いてこない。
「はあ…」
手甲鉤を手に付けたまま、自然にため息が漏れた。 名無し先輩に上手く伝えられなかったことが思ったより尾を引いているみたいだ。 あーあ、失敗したなぁ。
「どうだった勘右衛門。名無し先輩に「ばれんたいん」のこと伝えられたのか?」
そう言いながら近付いてきたのは兵助だった。 後ろには他の五年の顔触れもいる。
「その様子だと、満足のいく答えは返ってきてないようだな」
どこか楽しんでいるように言ってくる三郎に若干苛立つけど、事実だから仕方がない。 そうなんだ、と肩を落として答える。
「伝えるには伝えたけどさ。それが何?って顔されちゃった」 「ああ、あの先輩ならそうなりそうだね」 「確かにな。そんなもの私には関係ない、って言い退けそうだ」
雷蔵をはじめ皆が口々に言う。 でも実際の名無し先輩はそんなに冷淡に突き放すような言い方なんてしない。 やっぱり見た目で判断してしまう生徒は多くて、名無し先輩は近寄り難い人だなんて思われているけど、本当は自分に自信が無くて自分を上手く表現出来ないだけなんだ。 あまり親しくない相手だと口数も少ないし、それに加えて目付きも少しキツめだから勘違いされてしまう。 俺だって、毎日熱心に話し掛けて毎日しつこいくらいに付きまとって、それでようやく恋仲にまでなれたんだ。 まあ、名無し先輩のことを理解出来ているのは俺だけで良い、なんて思ったりもするんだけどね。
「なら、貰えそうもないのか」 「たぶんね」 「ちゃんと欲しいってことは伝えたのか?勘右衛門」 「え?」
八左ヱ門の言葉に一瞬戸惑った。 欲しいなんて言えていないからだ。
「…言ってはないよ。だけど、それは面と向かって言えないって」 「それもそうだ。勘右衛門も男の意地ってものがあるだろうし」 「まあね」 「そういうもんか?俺だったら言うけどな」
けろっとした顔で、さも当然とばかりに言う八左ヱ門には俺だけでなく周りも驚いた顔になった。 でも直ぐに八左ヱ門ならそうだろうな、と納得する。 八左ヱ門も俺と同じで、ひとつ上のくの一教室の先輩と恋仲だ。 普段の様子からはあまり想像出来ないけど、八左ヱ門はその先輩が大好きで、思ったことやして欲しいことをはっきり口にする。 そんな八左ヱ門にとっては、自分の思いを口にしない俺が不思議なんだろう。 でも、皆が皆、素直になれる訳じゃないんだ。
「八左ヱ門のその性格、羨ましいよ」 「そうか?」
俺がまたため息をつき、八左ヱ門が首を傾げたところで木下先生の怒り混じりの声が飛んで来た。 授業中だと言うのに5人揃って無駄話をしていたんだから当然だ。 俺達は二つ返事で授業に戻った。
だけど、やっぱり最後までやる気は出なかった。
☆
名無し先輩に「ばれんたいん」の話をしてから数日が経った。 兵助達はもうその話題に触れないし、俺自身も忘れ掛けていた。 いや、忘れようとしていた。 可能性が無いことに意固地になるのは情けないと思ったから。
…だから、今こうやって昼下がりに名無し先輩に呼び止められても、普段と何も変わらない顔で受け答えが出来ている。
「どうしたんですか?名無し先輩から俺に声を掛けてくださるなんて珍しい」
にこやかに答えたつもりだけど、名無し先輩には嫌味の篭もった言葉に聞こえたようだ。 口を少しむっとさせているのが分かる。 嫌味のつもりなんかないけど、名無し先輩から俺に話し掛けてくることが少ないのは事実だ。 だからつい嬉しくなって破顔してしまっただけなのに。
「…別に、大した用じゃないんだけど」
大した用もないのに名無し先輩から話し掛けてくるなんて有り得ないのは分かってる。 なのにわざわざそんな断りを入れるのは、素直になれない名無し先輩だから。 そんな所が何ともいじらしい。 …そう言う俺も素直に言えないんだけど。
「じゃあ、どんな用ですか?」
聞くと、名無し先輩はその切れ長だけれど澄んだ瞳で俺を見上げてきた。 でも、視線が交わったと思ったら直ぐにふいっと逸らされる。 そのまま先輩は視線を泳がせている。 なにか逡巡しているように。 これは何か言いたくても言い出せない、恥ずかしくて言えない時の先輩の癖みたいなものだ。 少しして、意を決して俺と目を合わせても慌てて逸らす。 何やら葛藤している姿が可愛らしくて、もっと困らせたくて、「用が無いなら、俺行きますよ?」なんて意地悪を口にしてしまう。 案の定、それを聞いた先輩ははっと顔を上げた。 忙しなく視線を動かしつつ、でもようやく決心したようで、俺に何かを突き付けてきた。
「これ!」 「……え?」
押し付けられる形でその何かを受け取る。 見てみたら、淡い桃色の布で包まれた、両手で丁度持てるくらいの大きさの箱。
「…これは?」
手の中の包と先輩の顔を交互に見る。
「…お団子!三神堂の!」 「お団子?」
ピシャリと強く言われてしまい包を改めて見ると、布の端に見覚えのある印があった。 先輩が言う「三神堂」の印。 三神堂は町でもこの忍術学園内でも人気のある甘味処だ。 俺が贔屓にしている店でもある。
「これ、俺に?」
驚いて見返すと、先輩はさっきよりも強く口を引き結んで大きく頷いた。
「今日、たまたま近くに行く用事があったから。それだけよ!」 「たまたま?でも、このお店結構遠いですよね?」
三神堂の品はどれも絶品だけれど、忍術学園から距離がある。 俺も、いくら気に入っている店だからって頻繁には行けない。 それに三神堂は孤立した所にあるから、先輩の「近くに行く用事」というものが何なのか想像も出来ない。 俺が口答えしてしまったものだから、先輩はきっと目付きを鋭くさせて睨んできた。
「うるさいわね!本当に用があったんだからいいじゃない!」
声高に言われてしまったけど、その先輩の顔は赤い。 それは怒ったから…じゃなく、照れを隠している時の顔だ。 証拠にそう言った瞬間また俺から視線を逸らした。 こうなったら理由はどうであれ、これ以上の追及は止めておこう。 下手に揚げ足を取ってしまったら本当に怒ってしまうかもしれないからね。
「…じゃあ、有難く頂きます。ありがとうございます」
引き下がって笑い掛ければ、先輩も一拍の後、小さく頷いてくれた。
「これ、開けても?」 「…好きにしたら」 「じゃ、お言葉に甘えて」
包を解いて、箱を開ける。 その中身を見て驚いた。 ずらりと並ぶ、シンプルな白団子。 それは三神堂の多数ある団子の中で俺が特に気に入っているものだったから。 店の一番人気ではないけど、ほのかな甘さと丁度いい柔らかさで、俺が店に行く時は必ず買っていた品だ。
「これ、俺が一番好きなものです。うわぁ、すごい偶然だなぁ」
箱を閉じ、包を元に戻しながら言う。
「偶然じゃないわよ。ちゃんと調べて買った…」 「えっ?」
そう言った瞬間、先輩が大きく「あ!」と声を出して口を押さえた。 でも、その言葉はしっかり俺に届いていた。 ちゃんと調べて、って言った?
「…名無し先輩、俺の好きなものを調べてわざわざ買ってきてくださったんですか?」 「ち、違っ!そんなつもりなんか!」 「違うんですか?」
首を振る先輩を真っ直ぐ見つめる。 いつもみたく笑顔で聞いたら、またふざけて意地悪を言っていると思われてしまうだろうから真剣な顔で。 先輩が一歩たじろいだ。 さすがの名無し先輩でも、こうやって真面目に聞かれてたら答えざるを得ないだろう。
「ち……違……わ、ない…けど」
俺の予想は当たった。 消え入りそうな小さな声だったけど、それでも先輩は認めて俯く。 それと同時に、俺の中で、言葉では上手く言い表せないような暖かい気持ちが湧き出る。 恥ずかしがって口では「たまたま」なんて言いのけたけど、本当はわざわざ好みを調べて、遠出してまで買ってきてくれたんだ。 俺の為に。 …ああ駄目だ、顔が緩む。
「…な、何よ、その顔」 「あ、いや。すみません。先輩が俺の為にしてくれたんだって思ったら、嬉しくて」 「そ、そう…」 「でも、祝いごとも何も無いのに買って頂いたなんてなんだか申し訳ないです。またいつかお礼させてください」
物を貰って喜んで終わり、なんて浅はかな考えは持っていないつもりだ。 相手が名無し先輩で、それが恋仲であるなら尚更。 が、先輩は「え」と短く言って俺を見上げた。 つり気味の目が丸くなっている。
「「ばれんたいん」はお礼をしなきゃいけないものなの?」 「……え?」 「え?」
お互い、きょとんとした顔になってしまう。 先輩の言った意味がよく分からない。 ばれんたいん? ばれんたいんってこの間俺が話した行事のこと、だよね? ばれんたいんは、恋仲や意中の人に何か甘味を送る南蛮の文化で…。 そこまで考えて、ハッと手元の包を見る。
「もしかして…これって「ばれんたいん」の…?」
そう聞いたら、先輩は眉を顰めて俺の顔を見てきた。
「そうだけど…。なに、分かってなかったの?この間、自分から言ってきたっていうのに」 「……まさか、名無し先輩から頂けるなんて思ってもなかったので…というか、その話はもう忘れてしまっていたと思ってました」 「なんでよ。催促してきたのはそっちじゃない」 「いや…」
催促したつもりなんかなかったんだけど…いや、欲しいなぁとは思っていたから、結果的に催促しているふうになってしまったんだろう。 催促したから買った…なんて、男として情けないような気もする。 先輩が俺の為に買ってきてくれたのは紛うことなき事実なんだから、嬉しいには違いない。 なのに、なんだか少し複雑な気持ちだ。
「……でも、とりあえずは…」 「え?」
先輩の声に反応してその顔を見ると、みるみる先輩の白い肌が赤く染っていくのが分かった。
「その、一応、恋仲…だから」
ぼそり、と呟くように言った先輩の言葉が耳に届いた。 耳に届く、というより、その言葉は心臓に直接刺さる。
「ばれんたいんは恋仲の相手に贈るものでしょ?……私なんかと一緒に居てくれる…そのお礼…の、つもり」 「せ、んぱ…」
上手く言葉が出てこない。出せなかった。 そう思ってくれていたなんて。 恥ずかしがりながらも本音をぶつけてくれた先輩に、驚きと感激とがぐるぐると入り交じってしまって、何も気の利いた事が言えなかった。 俺が何も話せないでいると、名無し先輩はこっちを見ずにくるりと背を向けてしまう。 それだけだから!と言い放って逃げるように駆け出す。
「あ、待って!」
名無し先輩の手を取り、それを咄嗟に止める。 驚いて振り向いた先輩の顔は誰が見ても分かるくらい焦っていた。 必死に俺の手を振りほどこうとするけど、力で俺に敵うはずがない。
「な、何!?離して!」 「嫌です!」 「なんで!」 「あの、えーっと……とりあえず、抱き締めさせて欲しいです!」 「なんでよ!?」
思いのままを伝えたら先輩は目を剥いて驚いてしまった。 いや、でも本当にそう思ってしまったんだから仕方がない。 目の前の名無し先輩が可愛らしくて愛しくて愛しくて、とにかく今すぐ触れたくて堪らなかった。
「駄目ですか?」 「だ、駄目に決まってるでしょ!?」 「分かりました。じゃあ聞くのは止めます。今から抱き締めます」 「何それ!?」
お願いして断られてしまうなら断言してしまえばいい。 なんて勝手な言い分で、名無し先輩の手を引いた。 その力に抗えなかった先輩から「きゃ」という短い声を受け止めるようにして、体を抱きとめた。 ちょっと!という声が先輩からきたけど聞こえない振りで強く抱き締める。 先輩はびくっと体を震わせたけど、すぐに大人しくなった。 抱き締めた名無し先輩の体は細い。 そして鼻先を掠める先輩の甘い匂い。 作られた香ではない自然の匂いなのに、甘い香りを感じるのはそれだけ俺が先輩に魅入られているからなんだろうな。
「…すみません。ちょっと強引でしたね」 「…どこが、ちょっとなのよ…」
先輩から発せられた声は弱々しかった。
「すみません。…でも、こうでもしていないと本音が伝えられない気がして」 「……本音?」
抱き締めているせいで、先輩の声が近い。 ということは先輩に届く俺の声も近いということだ。 それを承知の上で、一呼吸置いてから、いつもよりゆっくり出来るだけ優しい声で話す。 本心を話そうと思ったら自然と声が柔らかくなったのかもしれない。
「俺…先輩を前にしたら素直に言えなくなるんです。つい憎まれ口みたいなことばかり言って…からかってしまって」
訥々と話す。 先輩も黙って…それでも時折小さく頷いて、聞き入ってくれていた。
「この間、ばれんたいんの話題を出した時も本当は先輩から貰いたかったんです。でも「ください」なんて言えなかった。…だから、さっきこれを貰えて凄く嬉しかったんです。名無し先輩に、俺の思いを汲み取って貰えてるんだって思えて」 「……そう」
話していると、自分の言葉の所々が弱く震えているのに気付いた。 捻くれていない俺のちゃんとした思いを伝えるのは、もしかしたら告白の時以来かもしれない。 久しぶりに口にする本当の気持ちに、緊張に近い感情が現れてしまったのか。 そのくらい、名無し先輩には素直になれていなかった。
それからしばらく、俺も名無し先輩も黙ったままだった。 沈黙の中、そうしている内に自分が言ったことの恥ずかしさがじわじわと込み上げてくる。 本音をぶつけるのはやはり、この上ないくらい恥ずかしい。
「でも、あれですね。本音が言えないなんて俺、名無し先輩みたいですよね。やっぱり一緒に居ると似てきちゃうんですね」
せっかく本音が出せたと言うのに、またいつもの調子に戻って言ってしまった。 今まで大人しく俺の腕の中におさまっていた名無し先輩も即座に顔を上げてきた。
「わ、私が本音を言えないみたいに言わないでよ!?」 「あれ、違いますか?じゃあ俺のこと好きだって今ここで言えます?」 「…っ」
わざとらしく聞けば先輩は俺の目から逃げるようにして視線を落とす。 照れ屋な名無し先輩が言えるはずがないのは分かっている。 それでも「俺のことが好き」が、先輩の「本音」であることは否定してこないことが、何とも愛おしい。 この人は本当に可愛くて、いつも、いつでも俺の心を捕まえて離してはくれないんだ。
「今なら、俺は何でも言える気がします」 「……え?」
名無し先輩の肩に手を置いて、体を離した。 先輩はほのかに朱がかかった頬で俺を見上げた。 それは周りが思い込んでいるきつい印象の名無し先輩とは真反対の、戸惑いと僅かな期待が含まれたような純真乙女の表情だ。 純粋な瞳で見詰められ、どきりと胸が跳ねてしまった。 どきどきと、でもどこか心地良い心音が体を伝って耳まで届く。 息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
「俺は、名無し先輩が好き。大好きです」
名無し先輩の目を見詰めて、はっきり俺の本音を伝える。 先輩は「あ…」と小さく、恐らく無意識に声を漏らした。 少しの間見開かれた目で俺を見ていたけど、ぱっと我に返って恥ずかしそうに顔を伏せてしまう。 それでも、伏せられたその顔が林檎のように真っ赤になっているんだろうと容易く想像出来た。 また抱き締めて、そして俺の部屋まで連れて行きたい衝動をぐっと押さえ込んで、先輩の手を握り歩き出す。 目的地は…そうだな、今なら中庭なんか日当たりがよさそうだ。
「ちょ、ちょっと?今度は何!?」
俺の行動に驚いた先輩が不安げな声を出す。 顔だけで振り返ったら、やっぱり先輩の顔は熟れた林檎のように真っ赤だった。 それを見てつい笑みが零れる。 歩みは止めずに、先輩に貰った包を示して提案する。
「これ、せっかく良いものを買ってきて頂いたんですから、今から2人で食べましょう?」 「…………うん」
小さな肯定の声と共に、先輩は俺の手をぎゅっと握ってくれた。 握られた左手から伝わる温かさを感じながら、俺って幸せ者なんだなぁと心底実感する。 この団子は今まで食べたものより、いや、どんな甘味よりも甘いんだろうな。
おわり
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