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※もしも比嘉長編の夢主と木手が付き合っていたら




「うぐぐぅ……今回テスト範囲広くないすかぁ…」

机に突っ伏して呻く。
目の前にはおぞましく広いテスト範囲が書いてある紙に、教科書にノートに問題集、そんでもって呆れた顔してうちを見据えている木手くん。
今日は定期テストが近いから2人で勉強会をしている。

「これくらい普通でしょう」
「木手くんの普通の定義が分からん……ヤダーもうイヤだー漢字も数式も日本の歴史もどれも頭入らんんん〜」
「泣き言言ってないでさっさと問題集進めなさいよ。泣いたところでテストは無くなりませんよ」
「それはそうだけどぉぉ〜…」

至極当然のことを言われるもんだから口答えできない。

「あーあー、いいよねー木手くんは。苦手科目ないんでしょ?ずるいわー…」
「狡いも何も日々の勉強を怠らなければ当然です」

またもや当たり前なことを。
反論できないじゃないか!
くそー、テストの時だけその頭交換して欲しいわ!
…いや、やっぱそのコロネ頭になるのは勘弁だから止めとこう。

「…なにか失礼なこと考えてるようですが、そんな暇があるなら問題のひとつでも解けば貴女の力になるんですよ。もう少し頭を働かせたらどうです」
「すみませんね!」

きー!もー本当に口が悪い!
さらっと毒を吐かないで欲しい!
そう心の中で文句をつけている間にもため息ついてるし!

「…俺がこうして付き合ってあげているんですから真面目に取り組んでください。他の部員と違って、貴女はちゃんと取り組めばそれだけ結果を出せるんですから」
「うぅ……うん?…それは褒めてるの?」
「まあ、褒めてないつもりはないですかね」
「分かりにくいな…」

褒めてますよ、くらい言ったらいいのに。
本当素直じゃないんだから!
まあ素直だったところで気持ち悪いけどね!

「……」
「あっ、ウッソでーすなんでもありませーん!」

木手くんがまた「視線で人射抜けるんじゃね?」ってくらいの怖い顔になるもんだから慌てて誤魔化す。
もう怖いこの人いつになっても怖い。
でも考えてみれば、前はうちが何かしら調子に乗ったら叩かれたり頭握り潰されそうになってたりしてたのに、それがなくなったのはすごい進歩だよね。
怖いに違いはないけど。

「……まったく」

またため息つかれた。
それを見てうちも渋々と勉強に戻る。
さっきまで向き合っていた問題集をぺらぺら捲るけど、あーあー先が長い。
愚痴をひとしきり言ってもやる気は戻ってこないよ…。
急募・やる気。
なんつってね。





「……名無しクン?」

それから暫くした後、ふとその静けさに気付いて木手が呼び掛けた。
さっきまでページを捲ってはため息をつき、答え合わせをする度に蛙がひしゃげたような声を出していた名無しが急にだんまりになったからだ。
顔を上げてみればそれは静かなはず、名無しは頭は上げているものの、前へ後ろへとうつらうつらとしている。

「……はあ」

木手は幾度目かのため息をついた。

「名無しクン。…名無しクン、起きなさいよ」
「…んー……?」
「…何、眠いんですか」
「んおぉ……あー、お腹膨れたし…たぶんそのせい……?」
「……確かに沢山食べていましたが……」

昼食が済んだこの時間帯に眠くなるのは分からないでもないが、如何せんテストまであまり時間がない。
寝てしまえば今日こなす予定の課題が終わらせられないだろう。
だからと言って眠気と戦いながら勉強など、名無しに出来るはずはない。
ならば少し仮眠を取るべきだと思い木手は再び声をかける。

「…少し休んだらどうですか」
「えー……いや…ここで寝たら、たぶんもー起きれない……」
「少ししたら起こしてあげますから」
「……うーんん…?」

名無しは半目で木手の後ろにあるベッドを眺める。

「……いいやぁ…がんばる」
「頑張る、と言ったってね……」

その受け答えで何をどう頑張るのか、と木手は呆れる。
名無しは目を擦ってから問題集に向き直るが、ものの数秒で船を漕ぎ始める。

「…名無しクン。起きなさい、よ」

べし

「うぐぅ」

木手が頭を叩くと名無しは呻く。
何すんのさぁと普段の勢いもなく返しつつも、目を開けて木手を見上げる。

「そんな状態で何が出来るんですか。一旦仮眠を取ってください」
「えー……いいや…」
「いいや、じゃないですよ。これは命令です。寝なさい」
「えええ〜…」

ぴしゃりと言われ不満そうな顔をするものの、木手に敵わないことは名無しが一番理解している。
一度寝てしまったらそのまま夜まで寝てしまう気がしていたが、言われたのならそうする他ない。

「……じゃあ…寝る……少しだけ」

諦め、名無しはのそのそとベッドの方に這って行く。

「ベッドだと寝易く寝過ぎてしまうかも知れませんね。…まだこちらの方が寝難いと思いますが」
「んん……?」
「ほら」

適当な理論を口にし、木手は腕を開く。
初めは怪訝そうに眉を寄せた名無しだったが大人しく木手の元に寄り、その腕の中に納まった。

「むーん……」

木手の胸板に頭を預けた名無しは既に寝る体勢に入っているようだった。

「(普段からこれだけ素直だったら良いんですがね)」

寝ぼけている名無しは、普段ならば恥ずかしがってしないようなことを普通にしてしまう。
理解した上でそれを上手く利用するのが木手なのだが。

「うぅ〜ん…」

いい体勢が見付からないのか、名無しは少し身を捩る。

「…流石にここでは寝られませんかね。矢張りベッドに移りますか?」

それを見兼ねた木手は提案するが名無しは「んーん」と拒んだ。

「ここでいー…」
「…しかし」
「…ここがいい……永四郎の匂いがする…おちつく……」
「……っ」

それだけ言うと、名無しは手足を丸めた状態で寝息を立て出した。
名無しの一定の寝息だけが静かに聞こえている。

「…………はぁ……」

木手の今日一番深いため息が響く。

「…どうしてこんな時だけ、名前で呼ぶのか…」

名無しが今発する言葉はどれも寝言に近い無自覚なものだろう。
それに動揺してしまうとは情けない、と内心で自嘲しながら木手は眼鏡を上げる。
既に夢の中に旅立っている名無しの腰に腕を回し、起こさない程度の力で引き寄せる。
そのまま机にあるテキストを手に取り音を立てないよう捲り始めた。






「…うぐぐぅ……」

…それから、目を覚ました時は外は真っ暗だった。
それに気付いた時のうちの目の前もそりゃー真っ暗だった。
半分寝ぼけてたせいでベッドじゃなくて何でか木手くんの腕の中で寝てしまってたんだけど、その恥ずかしさより何より寝すぎたことがショックだった。

「もー無理ぃぃ頭パンクするうぅあ」

今は寝過ぎたことによって出来た遅れを取り戻すために、必死になって問題集に向かっている。
はっきり言って地獄。

「泣き言言わないでさっさと解きなさいよ。今日中にこれ終わらせないと課題が片付かないでしょ」
「だからって〜……時間に対して課題のバランスがおかし過ぎない…!?時間が足らないぃ」
「夜まで呑気に寝てる貴女が悪いんですよ」
「いや起こしてくれるって言ったよね?なんでガッツリ寝かせてんの?後々泣くのはうちなのに!」

起こしてくれるって聞いたぞ!
だから悠々と寝たってのにこれじゃ嘘つきじゃないか!

「余りにも気持ち良さそうに大口開けて寝ていましたからね。起こすのもどうかと思ったんです」
「大口……フンっ、どーせあれでしょ?うちの寝顔がカワイーもんだからつい甘く見ちゃったんでしょ!ははは!木手くん、ほんとごくたまにそーいう所あるもんね!」
「馬鹿ですか。馬鹿なんですか
「に、2回言われた……」

ヒッドイ。
軽い冗談なのに。

「自意識過剰も度が過ぎるんですよ。ほら、とっとと終わらせてください」
「くっそー…ほんっと木手くんて鬼ですよね…」
は?俺ほど優しい人間も珍しいと思いますが」
「(その「は?」が一々怖いんだよ)」
「文句なら面と向かって言ってください」
「うぅう、すいまひぇんもんふ(文句)ないえふぅぅ」

片手で頬をがっしと掴まれる。

「……まったく」
「うぐぐ…」

直ぐに離してくれたけど、掴む力が強いのなんの。
ほっぺたジンジンする。
木手くんを怖くないってんなら、世界中の鬼教師だとか鬼コーチだとかはみんなエンジェルになるっつーの!

「…ほら、先は見えてきているじゃないですか。あと少し頑張ったらどうです。ここまで来たのなら最後まで付き合いますから」
「えぇ…うちには先が見えてないけど……というか、木手くんは自分の方はいいの?」
「キミ如きに心配されなくても、俺は既に課題も終わらせていますし今回の範囲も一通りは勉強し終わっています」
「如きって!というか早っ!えっマジで!?」
「普段から復習をしていれば当然でしょ」

木手くんの当たり前をうちの当たり前にして欲しくない。

「あとの俺の仕事はキミの頭に勉強を叩き込む事です。俺は優しいですからね、キミの軟弱な頭でも理解しやすく説明して差し上げますよ」
「散々な言われ方だ」

もう少しでも優しい物言いがあるだろうに!
つまりは後はうちのテス勉に最後まで付き合ってくれて、分からないところは教えてくれるってことだよね?
…回りくどっ!

「…はー……なんかもう、本当に木手くん素直じゃないよね」
「キミには負けますがね」
「いやいやいや」

うちなんか超絶素直だからね?
素直に思ってること顔に出すもんだから、木手くんにいっつも怒られてんのに。
…とか思ってたら、べしっと教科書で頭を叩かれた。

「あだっ!」
「無駄話はここまでです。早くその課題終わらせてくださいよ」
「へいへい……」
「返事は1回」
「は、ハイ……」

こっわ。やっぱり怖い。
というかお母さんか。

…でもまあ、本当に理解しやすく説明してはくれた。
その合間合間に挟まれる言葉はキビシーんだけど。
木手くんとなら今回のテストも、乗り切れそうかな。




「これだけ俺が教えたというのに万が一点数が酷ければお仕置きですからね。覚悟してくださいよ」
「ガンバリマス」




おわり