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クリスマスも近付いてきた、12月中旬。
今にも雪が降りそうな空を窓の外に、名無しは暖かい部屋で鼻歌を歌っていた。

「らーすくりすます、フフフフーン♪」
「…やけに陽気だな」
「フン?あ、おかえりー」

名無しが振り向くとマフラーにコートと防寒対策完璧な出で立ちの日吉が立っていた。

「寒かった?」
「寒いなんてもんじゃねぇよ。夕方雪降ってたぞ」

マフラーを外し、それを名無しの頭に乗せながら言う。

「えっ、マジか。こっちも降ってた?」

そのマフラーを手に取りながら名無しは目を丸くさせた。

「知るかよ。お前ずっと家居たんだろ?」

呆れたように日吉は答え、コートを脱ぐ。

「居たよ。けど寒くて一歩も出てないし。ずっとホットカーペットの上で毛布に包まってた」
「…休みだからってだらけ過ぎだろ」
「いいじゃん、久しぶりに授業休講だったんだし。若が寒がりながら学校行ってる間、この上なく暖まらせて頂きましたんで!」

ベシ

「あたっ!な、なんで叩く!」
「言い方がムカついた。…そういやお前、俺が朝出てく時もまだ寝てたよな」
「そーいえばそうだったっけ。いやー、朝もゆっくり出来て暖かくて幸せだったよ!」

ベシ

「あだっ!」

日吉は再び名無しの頭を小突く。

「お前一回外出てみろよ…」
「やだよ寒いし用も無いし!…って、違う。用ある。ねえ、今から買い物行かない?」
「はあ?」

名無しの言葉に日吉はあからさまに嫌そうな表情になる。

「この寒い中また外出ろって言うのか?無理だろ」
「いいじゃん、ほらまだ冷たいまんまだから外出ても変わらないって!」

名無しが日吉の頬に両手で触れながら訴える。

「ちょっ、やめろって!」

その手を慌てて振り解くが、日吉の顔は寒さとは別に赤くなっていた。

「なんでー。1人でじゃ決めにくいし、一緒に選びたいと思ってたから帰って来るの待ってたのに」
「…選ぶって、何買うつもりなんだよ」
「ツリーだよ、クリスマスツリー」
「ツリー?」
「うん。前から言ってたじゃん、新しいの買いたいって。無いでしょここには。買いに行くの楽しみに待ってたんだから!」
「だから帰って来た時テンション高かったのか……別に無くても困るもんじゃねぇだろ?」

日吉は溜息を吐くが、名無しは引かなかった。

「私が困んの。いいじゃん、行こうよ!お金は私出すし、ほら!」

渡されたマフラーを再び日吉の首に巻き、促す。

「………はあ。お前だけに金出させる訳にもいかねーだろ」
「いいよ別に。だって私が欲しいだけなんだから。…行かないっていうなら私勝手に買っちゃうからね。馬鹿でかいの買って来ても文句言わないでよ!」

呆れている日吉を見て名無しはようやく諦めが付いたのか、膨れ顔で財布を掴んだ。

「…でかいのは止めろよ、ただでさえ2人でスペース狭いんだから」
「選択肢は私にあるから無理。なんかもう横にも縦にもでっかい奴買って若を困らせてやるから覚悟しとけ!」

名無しは自分のコートを羽織りながら言った。
粋がっている名無しを見て、日吉はまた溜息を吐いた。

「……分かった。俺も行く。だからそんな無駄な事するなよ」
「え?来てくれるの?やった!」

脱いだばかりのコートを着直した日吉を見て名無しは隠す事なく喜ぶ。

「…お前、人を誘導するのだけは上手いよな」
「え?そう?そういう気は無かったけど。…まあでも若ならこう言えば折れてくれるかなーと思ってたし」
「それを誘導って言うんだよ。…ったく、俺も甘いよな」
「普段厳しいんだからたまに甘くなきゃ私が困るよ」
「甘やかしてばっかだとお前調子乗るだろ」
「飴と鞭の割合がおかしいんだよ、若は。私褒められて伸びるタイプなんだから!」
「調子に乗ると伸びるを勘違いされても困るんだけどな。…ほら、行くならさっさと行くぞ」
「え?あ、ちょっと待ってよ!」

名無しを置いてさっさと外へ向かう日吉。
それを慌てて名無しは追いかける。
そして日吉がドアを開けた瞬間、凍えるような風が吹き込んできた。

「うわっ、さぶっ!寒いっていうか冷たい、冷たいっていうか痛い!なにこれキッツ!また雪降りそうじゃない!?」
「言っただろ、寒いなんてもんじゃないって。特にさっきまで毛布に包まってたんじゃ余計だろ」
「ううぅ…ああ、もう家が、あったかい毛布が恋しい」

マフラーに顔を埋め、コートのポケットに手を突っ込んだまま名無しは呻く。

「なら戻るか?」
「…戻んない。せっかく若が一緒に来てくれるって言ったんだから買いに行く」

ふん、と息を吐いて歩き出す名無し。

「帰ったら俺が暖めてやるから良いだろ。それまで我慢してろよ」

追い付き、名無しの頭に手を置く。

「…なにそれ。…それはどういう風に捉えればいいの」

その日吉を上目で見上げながら聞く。

「さあな?お前の好きに解釈すれば良いだろ?」

意味ありげな笑みで返され、名無しは口を噤む。
照れ隠しのように目を伏せて顔も背ける。

「……知らんし!ほら、さっさと買いに行くよ!」
「…ああ」

先程よりもスピードを上げ歩き出した名無し。
その姿を見て笑い、日吉も後に続いた。



おわり