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「ん、いい感じ」

名無し先輩が嬉しそうな声で言った。
見ると、大きなクリスマスツリーがとても綺麗に装飾されている。

「おほー!流石名無し先輩、本当に器用ですね!」

思った事を素直に伝えれば、先輩は照れたように「そんな事ないよ」と笑った。

「というか…すみません、先輩に全部1人でやらせてしまって」
「気にしないで。買ったツリーを部屋まで運んでくれたのはハチだし。これくらいさせて」

そう言って先輩は優しく微笑んでくれる。

このツリーはさっき先輩と一緒に買いに行ったものだ。
2人で選んだこのツリーは俺の背よりも高くそこそこの値がした。
大きいツリーに加えて装飾品もかなりあった。
それを先輩に持たせるわけにはいかなくて全部俺が部屋まで運んだ。
で、そのお礼って事で先輩がツリーの装飾をしてくれたんだ。
俺がした所でセンスも何もねぇし、先輩に頼んだからこそ綺麗に飾り付けてくれたんだけど…。
だからって先輩に全てを任せてしまったのは偲びない。

「よいしょ」

すると先輩が背伸びを始めた。
手にはツリーのてっぺんに付ける星。
つま先立ちになり手を伸ばす先輩だが…全然届きそうもない。

「うーん…」
「(必死に背伸びしてる先輩やべえ可愛い)」

…いや、見蕩れてる場合じゃねぇし!
後ろから先輩に近付いて手から星を取りツリーの先に付けた。
見おろして笑えば、一瞬驚いた顔をした先輩も笑ってくれた。

「ありがとう」
「どういたしまして」

返事をすると共に後ろから先輩を抱き締める。
…温けぇ。
外は真冬で身を切るような寒さだというのに今は寒さなんて一切感じない。
そりゃあ室内だし暖房があるせいでもあるけど、何より先輩と一緒に居られることで俺の体も心も温かくなる。
幸せだなぁ、なんてしみじみ思ってしまう。

「あ、そうだ。ハチに聞きたことあるんだ」
「何ですか?先輩になら何でも答えますよ、身長でも体重でも口座番号でも!」
「それはいいから」

先輩に制されるけど、先輩にだったら俺の全てを教えたって構わない。
と言うよりも全てを知ってもらいたいくらいだ。
すると先輩は首を傾げて俺の方を見た。
あ、この角度ヤバイ。キスしたい。

「クリスマスプレゼント、何欲しい?」
「え?」

顔を近付けようとしたらそう言われ、動きを止めた。

「プレゼント…ですか?」
「うん。あれが欲しいとか、何かある?…ごめんね、私サプライズとか苦手だから。その代わり、欲しい物出来る限り用意するし」
「そんな、プレゼントだなんて…!気持ちだけで嬉しいです!」
「遠慮しなくていいのに」
「俺は先輩が居てくれるだけで充分……あっ、先輩が欲しいです!」
「う、うーん…私以外では無いの?」
「俺、先輩が居れば何もいらないですから!」
「もう」

呆れ混じりで困った顔になる名無し先輩。
だからって先輩は本気で呆れて俺を突き放そう、なんて思っていない。
誰よりも先輩の一番近くにいる俺だからわかる事。
…なんかいいな、この以心伝心…!
これからも俺は先輩の近くに…というより先輩が俺を側に置いてくれたらいいのに。

…あ、そうだ。

「先輩以外だったらあれが欲しいです!」
「なに?」
「首輪!」
「…え?」
「首輪ですよ!」
「……それはまた、なんで」
「俺が先輩に繋がっている物理的な証になりますよね!」
「…リードで私に繋がれてたいの?」
「はい!一生先輩に繋がれてたいです!」
「それじゃあ犬じゃない」

再び困ったように言った名無し先輩は俺の腕を潜るようにして抜けた。
くるりと俺の方に向きを変えてから先輩は言った。

「流石に首輪で彼氏を繋ぐわけにはいかないから首輪は却下ね」
「ええー」
「ええー、じゃないでしょ」

繋がれてても俺は全然構わないのに。
…でも先輩が嫌なら俺が引き下がるべきだよなぁ、残念だけど。

「他にはない?」
「うーん…そうですね、さっきも言いましたけど先輩が居てくれればそれで良いんで!」
「…そっか」
「それより先輩は何か欲しい物ありますか?」
「私?」

代わりにそう聞くと先輩は「うーん」と考え込むように口元に手を当てた。
ちらっと俺の方を見ては直ぐに視線を伏せてしまう。
…何か言いにくい物でも欲しいのか?
首を傾げていると、決心したのか先輩は上目で俺を見上げた。
えっ、なんだその顔…!?

「…欲しい物、というより……ちょっと、ワガママ聞いてほしいんだけど」

おずおず、と言ったような弱気な物言いだった。
わ、ワガママって!
なんなんだこれやばい可愛すぎる。
先輩可愛すぎる先輩の可愛さで俺殺せるんだけど!!

「なっ、何でも言ってください!先輩の頼みなら俺何だってします何だってやれます!!」
「そんな無理させてまでしてほしい事じゃないから」
「大丈夫です!!あ、もしかして高価な物なんですか?大丈夫ですよいざとなったら臓器売ってでも買います!!」
「ハチが臓器売ってまでして稼いだお金で買って貰っても私困るよ」

先輩に手で制されて口を閉じる。
先輩のためならマジで何でも出来るのに。
それにあの上目遣いにあんな言い方されたら断れるわけねぇよな!

「それで、そのワガママって何ですか?」
「…その、ペアリングが欲しくて」
「ペアリング?」

鸚鵡返すと先輩は頷いた。
先輩は指輪とか、なんというかアクセサリー系は興味が無いと思ってたから少し驚く。

「先輩がですか?」
「…らしくない、かな。ごめんね、忘れて」
「うわああああそうじゃないです!すみませんすみません!!」

先輩が目を伏せた…その顔がどこか寂しそうで、慌てて謝る。
先輩を傷付けるなんて最低じゃねーか俺!

「な、なんと言うか名無し先輩はそういうのに興味無いと思ってたんで!そんな、先輩を傷付けたかった訳じゃなかったんです!本当すみませんんん!」
「そんな謝らなくていいから」

頭を必死に下げる俺を見て先輩は困った様に笑ってくれた。

「興味が無いわけじゃないの。…ハチも普段付けてないでしょ?」
「え?ああ…はい、そうですね」
「アクセサリーとか付けてると邪魔、とか思ってると思って言い出せなくて」
「邪魔とか思ってはないですよ。ただ自ら付けようとは思わないだけで…。あ、先輩が付けてほしいって言うならずっと付けますよ!死ぬまで付けてますしむしろ墓場まで付けます!」
「墓場まで持って行ってとは言わないよ。…でも、そうなら良かった」

そう言った先輩は嬉しそうに微笑んだ。
うあああなんだその顔おおおお!
内心で悶えていると、先輩は俺を見て頭を下げた。

「ワガママになっちゃうけど、ペアリング買わない?というか…その、買わせて下さい」
「…っっ!!」

返事をするより先に先輩を抱き締める。
そんな可愛いワガママ、否定出来るわけねぇ!!

「…ハチ?」
「っ勿論です!!喜んで!」

ぎゅうと思い切り抱きしめれば、先輩も俺の背に腕を回してくれる。

「そっか、良かった」
「〜〜っ!」

顔を上げた先輩がそれはもう可愛く笑った。
あーだめだ可愛いなんだこの人!

「…先輩っ俺いつか先輩の為に指輪…婚約指輪買いますから!それまで待っててくださいね!」
「急だなぁ」
「待っててくださいねっ!!」
「…ふふ。はいはい」

俺の勢いに押されてかもしれないけど先輩は頷いてくれた。
ああもうこれ俺将来安泰じゃねーか!
あ、先輩と結婚して先輩と子供作って先輩とその子供の成長見て先輩と一緒に幸せな老後を過ごして先輩と同じ墓に入る所まで見えた。

「…じゃあ今度のクリスマス、一緒に見に行かない?」
「はい!先輩欲しい物あったら遠慮なく言ってくださいね!俺どんな物でも買いますからっ!」

そう言ったら先輩は目を丸くさせた。
それから首を小さく振る。

「買って貰いたいんじゃなくて。…これもワガママになるけど、ハチの分は私が払いたいの」
「え、そうなんですか?」
「…ハチが言った言葉を借りると、物理的な証になると思うし。その、ハチには私の分払ってもらって、互いに繋ぎ止めて置く証…って言ったら大袈裟かもだけど、そんな感じに」
「先、輩…っ!」
「…駄目?」
「じゃないですっ!」

首をこれでもかと横に振る。
駄目どころか最高に嬉しい…!
いつも俺は先輩に縛られたい繋がれたいと思っていたけど、先輩も思っていてくれたなんて!

「じゃ、決まりだね」
「はいっ!」

笑ってくれた先輩を見て、またぎゅうと抱き締めた。

先輩と一緒に居れるだけでも幸せなのに揃いで指輪も買えるなんて。
…またひとつ、先輩との思い出が出来る。
そう思うと自然と顔が緩んだ。

クリスマス、楽しみだ。






「先輩、もうそのペアリングを婚約指輪って事にして婚約しません?あ、もちろん結婚でもいいですよっ!!なんなら指輪買ったついてに役所行って婚姻届を…!」
「学校卒業して職に就いてからね」



おわり