×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


「さあ先輩!どうぞ食べて下さい!」
「お、おぉう……」

とある朝の食堂。
普段ならおばちゃんの作る朝ごはんを食べるはずが、なんでか今日は忍たま五年生の久々知兵助が目の前の席に座っている。
そんでもって私の前にはえげつない量の皿。
そして皿の上にはこれでもかってくらい豆腐料理が乗せられている。
今までに見たことのないくらいの量だ。

「…ねえ久々知」
「何ですか?」
「なんでこんな豆腐料理があるの」
「俺が作ったんです!」
「いやそりゃ知ってるよ。豆腐料理と言ったら久々知だしね」
「いやぁ…」
「(嬉しそうだななんだコイツ)…そうじゃなくて、なんでこんな大量に」
「だって今日は暦上では豆腐の日なんですよ!そりゃあ俺だって腕を奮います!」
「(知らんよ)」

とても意気揚々と話す豆腐小僧…久々知を前にして私は引き攣った表情になる。
今朝方くのたま長屋から出て、さあ朝ごはん食べに行こうと思ったら目の前に久々知がいた。
忍たまの敷地とくのたまの敷地の境目で、私が来るのをずっと待っていたらしい。
で、食堂に連れて来られたかと思ったら大量の豆腐料理の前に座らせられた。
そして今に至る。

「先ずこれは麻婆豆腐で、冷奴、高野豆腐、豆腐ステーキに肉豆腐炒り豆腐豆腐ハンバーグ豆腐の照り焼き豆腐と豆の白和え湯豆腐…あとデザートには杏仁豆腐もありますよ!」
「あ、ハイ…」

ひとつひとつ皿を示しながら教えてくれる。
豆腐豆腐豆腐、聞いてるこっちがおかしくなりそうだ。

「…というか、他の五年生たちには食べさせないの?それか火薬委員会の面子とか」
「ああ、他の皆にはランチの時に振る舞います」
「(振る舞うんか)」

豆腐の日かなんだか知らないけど、今日の久々知はやけにやる気に満ち溢れてる。
それを忍術の勉強の方に役立てて欲しいもんだ。
頑張りなさいよ忍者のたまご。
まあ久々知は頭良いけどさ。

「俺の話は良いですから、どうぞ召し上がってください」
「あ、ハーイ…」

急かされて箸を持つ。
久々知はにこにこしながら私の行動を見ている。
とても食べにくい。
…でもとりあえず手近にあった肉豆腐を摘み口に運んでみる。

「…どうですか?」
「……ん、美味ひい」
「良かった!」

私の顔色を伺うかのようにしていた久々知だが、美味しいと答えたらぱぁっと表情が一転した。
分かりやすい。
でも久々知の豆腐料理は美味しいもんな。
私はあんまり「美味し〜!」とかはしゃいで言えるタイプではないけど、なんかこう、久々知の作るもの食べたら幸せーという気持ちにはなれる。
作る量とか、何かしら限度がおかしいけど。

「これ全部、名無し先輩の為に作ったんです。全て食べて下さって構いませんよ!」
ぶふっ!ぜ、全部!?」
「はい!」
「い、いやー……ちょっと多い、かな…」

ちょっとどころか凄絶に多いけどね!
というかこれ一人前なの!?
やっぱり限度がおかしいよ!

「そうでしたか?昨日から寝ずに下拵えしていたんですけど、名無し先輩に食べて貰おうと思ったら手が止まらなくて」
「ハンパねえな。…っていうか、え?寝ずに作ってたの!?」
「はい」
「はいってあんたそんないい笑顔で…」

私の前の席で笑う久々知に呆れを通り越して感心すらした。
そこまで集中出来るのは凄いことではあるけどさ。
いかんせん鍛錬とか勉学じゃなく豆腐なのがアレだけどね。

「というかそんな大作、私なんかが食べさせてもらっていいの?私、久々知が望むようないい感想聞かせられないよ…」
「そんな、俺は料理の感想が聞きたくて作っている訳じゃないです。名無し先輩に食べて頂きたかっただけですから」
「そう…なの?…いや、でもなんで私?仲良い友達とか可愛い後輩とか、私より大事な人なんて久々知には沢山いるじゃん」
「それは、俺にとって先輩が大事な人だか、あっ」
「え?」

久々知は何かを言いかけ、焦ったように止めた。
口を手で押えてるけど言葉は大半聞こえた。

「大事?って、私が?」
「い、いやその!そんな深い意味とかなくて…!」
「意味?…私ってなんか大事なの?…え?ちょ何、それって」

そう聞くと久々知は「あー!」と私の言葉を遮って声を上げた。

「あ、杏仁豆腐は勝手口の方で冷やしてあるんです!と、取ってきます!」
「え、ちょっ」

慌てた久々知は立ち上がり、お勝手の方に引っ込んでいった。
…顔を背けて逃げるように引っ込んだのに耳まで赤くなっていたのは見逃さなかった。

たぶん、あの調子じゃしばらく戻ってこない気がする。

「……大事……なのか、私が……え、ええー…?」

久々知の言った言葉と顔を赤くして慌てる久々知を思い返して、なぜかつられて私までも顔が熱くなってきた。

「……っ」

それを誤魔化すように食べかけの肉豆腐をまとめて口に掻き込む。

「(あー…やっぱり美味しいわ)」

ちょっと掻き込み過ぎたかと思うけど、心地よい旨味がじんわり口に広がって、さっきとはまた違う幸せな気持ちになれる。
ごくんと一気に飲み込み、一息つく。

さて、どんな顔で久々知を向かえようか。

…そう考えまた熱くなった顔を冷ますように、冷奴に手を伸ばした。


おわり


(10/2 豆腐の日)