10月31日、ハロウィン。
面白そうなことが大好きな学園長先生がそのイベントを見逃すはずが無く、学園を挙げて夜に盛大なハロウィンパーティが催される事になっていた。 そしてそれと共にもう一つ。 小さなイベントも用意されている。 それは初等部限定で、各委員会を周りお菓子を貰う…そんなベタな企画だった。 各委員会にはそれぞれ委員会の上級生が居て、訪ねてくる下級生にお菓子をあげるだけのものだったが、楽しそうにしている下級生を見て上級生も結構楽しんでいた。
「いっやー!可愛い下級生にお菓子を配れて且つ笑顔でお礼を言われるなんてなんという素晴らしい企画っ!ビバ学園長先生!」
作法委員会の教室でガッツポーズを決める。 これでも私は一応作法委員会の副委員長を務めているからお菓子を配る立場にあるのだ。なんと素晴らしい!
「こんなんならお菓子はもっとグレードの高いやつにすれば良かったよー!」 「そんな事できる訳が無かろう」
呆れた顔の作法委員会委員長の立花仙蔵が言った。
「何でー!けっちぃなぁ仙蔵は!可愛いエンジェル達をもっと笑顔にさせたくないの!?」 「させたいさせたくない以前にこの催し物の出費も委員会の予算から出すように言われているのを忘れたのか」 「あー…そーだっけ」 「それに我が作法委員会の用意したものは他の委員会よりか大分グレードは高い。それは他ならぬ私が予算をまとめ上手く遣り繰りしたおかげだ」 「わぁドヤ顔ムカつく。でもそれエンジェル達も言ってた!作法委員会のお菓子ちょー凄いって!たしかに美味しそーだよねこれ」
用意した袋には、そこらのコンビニやスーパーで買ったものとは違うちょっとお高そうな、それでいて美味しそうなお菓子が詰められてる。 ずっとエンジェル達に配ってたけどこれは私も食べたい。
「ねー、余ったら私も貰っていい?」 「余りなどある筈が無いだろう。欲しければ自分で買え」 「げー、ケチー!仙蔵なんてハゲてしまえ!むしろ私がその髪抜いてやる!そんでカツラ作って裏ルートを伝って高額で売ってやる!!」 「ほう。出来るならばやってみろ。お前が私に手を触れる前に倒し裏ルートでその臓器を高値で売り捌いてやる」 「やめて」
勝てる気しねぇよ! なんでそっちは髪を抜かれるだけなのに私は臓器を抜かれにゃならんのだ! まだ生きていたいです!!
「そしてその金を作法委員会の予算にするのも良いだろうな。この教室も使い古されている物が多いからそれらを買い換えるのも悪くない」 「やめて」
淡々と使い道を考えるのはやめろ! 臓器を売る前提で話進めるのをやめろ!
と、その時ガラッと教室のドアが開いた。
「失礼しまーす!」 「はっ!これはこれは!は組のエンジェル達いらっさーい!!」
元気よく挨拶をしたのは可愛い可愛い初等部の兵太夫、三治郎、団蔵、虎若の4人だった。 もう!下級生は本当に皆エンジェル!そこに存在してるだけでエンジェル!
「こんにちは、立花先輩!」 「ああ、よく来たな」 「…えっ、兵太夫私に挨拶は!?」 「あ、名無し先輩いらっしゃったんですか?」 「えええヒドイ!仙蔵なんかにはあんな笑顔向けてたのに!」 「なんかとは何だ、なんかとは」 「大丈夫ですよ、兵太夫が先輩に厳しいのは今に始まったことじゃないですから!」 「団蔵それフォローになってない!」
顔はなんとも可愛いのに兵太夫は何かしらにつけて私にひどい! 仙蔵のことはすごく尊敬してるのに私の事先輩とすら思ってないんじゃね?とたまに思う。 我先輩ぞ!?
「まあいいじゃないですかそんなこと」 「そんなこと!?ちょ、兵太夫それは聞き捨てならんぞ!」 「えー、いいじゃないですかぁ。せっかくのハロウィンなんですから!ね?」 「…もう!仕方ないなぁ!」
ね?とエンジェルに首を傾げられたら怒れるわけないじゃないか! なんか小声で「チョロい」って聞こえたけど空耳だよね!!うん!
「それよりお前達の目的はこれではないのか?」
仙蔵がお菓子の入った袋を示すと4人ともぱぁっと顔が明るくなる。 えー何その顔かわいい!
「そうでした!」 「では立花先輩!トリックオアトリート!」 「お菓子くれなきゃイタズラしちゃいますよ!」 「うああああ何その言い方ちょーかわいいぃ!」 「黙れ」
べしっ
「あいた!」
あざと可愛いは組に歓喜の声を上げたら仙蔵にはたかれた。ひどい。 痛がる私を傍目に仙蔵はお菓子を手渡してる。
「ずるいー私もお菓子渡したかった!」
エンジェルにお菓子あげて笑顔でお礼言われたかったのに!
「仕方ないですね先輩、ぼくまだ貰ってないですから先輩から貰ってあげてもいいですよ!」 「わー上から目線ねぇ兵ちゃん!でもいいや!」 「いいのか…」 「呆れた顔するな仙蔵!じゃあ決まり文句どうぞ!」 「はい!」
笑顔でいい返事してくれた! 何この子かわいい。 お菓子どころか私の財産すらあげてもいい。
「トリックオアトリート!先輩はお菓子くれてもイタズラします!!」 「なんでっ!!?」
はっきりきっぱり決まり文句を覆して来たよこの子! しかもいい笑顔で!!
「ちょ、それじゃあお菓子あげる意味が無くならない!?そんなこと言うとあげないよ!?」 「お菓子くれなかったらもっと酷いことしちゃいますよ!」 「なにそれ怖い!」
ひどいって何する気なの!? 確かに兵太夫はエンジェルだけど流石作法委員会というかお腹の中は黒いもの! 考えただけで怖くなる!
「えー、先輩お菓子くれないんですか?」 「いや、あげる…あげるけど…!イタズラって何!?何する気!?」 「そんな身構えなくたっていいですよ!ぼくの作ったカラクリの実験台になって頂けたらいいだけですから」 「実験台ぃぃ!?えええ、それ前にもやらされたけどバネで飛ばされて屋上からウォータースライダー的な滑り台に乗せられて中庭の池にダイブさせられてから軽くトラウマなんだけど!」 「大丈夫ですよ、今回はそれより格段にパワーアップしてますもん!」 「全然大丈夫くない!!」
もうホントこの子は私を先輩として扱ってないなぁ! 可愛いからいいんだけどねー!
「前は三治郎にも手伝ってもらってましたけど、今度はぼくだけで作った超大作です!まだ誰にも試したことがなくて、どんな結果になるか知りたいんです!!」 「えっ、ヘタしたら死ぬとかないよね!?」 「…あははっ!」 「あはは、って!可愛い顔で笑って誤魔化さないで!!さすがに命が関わるんなら私やらな」 「ダメですか…?」 「よし任しとけ」
くっそそのあざとい上目遣いやめろ! 何でも許しちゃうじゃないか!!
「やった!じゃあそうと決まれば行きましょう!」 「えっ、今から!?」
いきなりだな!
「はい!ほら、早く早く!」 「うわわわそんな手ぇ引っ張らんといて!」 「あっ、お菓子もちゃんと持って来てくださいよ!」 「抜かりねぇなぁ!」
とか言いつつ兵太夫に手を引かれ教室を出た。
2人分の足音が遠ざかるのを聞いて立花はため息をついた。
「…騒がしかったな」 「あはは、そうですね」 「兵太夫、名無し先輩のことになるとやけに突っかかるよなー。口では結構ひどい事言うのに」 「今回のカラクリだって本当はぼくも手伝いたかったけど、兵太夫が『名無し先輩に試してもらいたいからひとりで作る!』って張り切っちゃってたんだ」 「…なんやかんやで兵太夫、名無し先輩のこと大好きだよね」
虎若がそう言うと、「確かに」と皆笑った。
…2人が部屋を出てから「ぎぃやああぅああおおあうあ〜〜!」という名無しの断末魔が響いてきたのは約5分後のことだった。
おわり
|