小説 | ナノ





『雨、だねぇ』
「…んー…」

『暇、だねぇ』
「………」

『もー!聞いてるの?イワン!』

さっきから何度同じセリフを聞いただろう。
外は雨でつまらなそうに口を尖らせては溜め息を吐いて繰り返してる。僕は元々インドア派だし、家でゆっくり過ごす事が好きだから梅雨なんてそれを大義名分もって堂々と行える絶好のチャンスだ。けれど、どうにも彼女には違うらしい。

「聞いてるよ。だから、暇なら本でも読んだらって言ってるじゃないか」
ジャパニーズの本に目を向けたままそう告げる、これも何度目の事だろう。

『やーだ!つまんない!』
「………はあ」

不毛な会話にいい加減疲れて、大きな溜め息を吐き出す。
僕の感情を汲み取ったのかピクリと彼女の肩が跳ねる。…どう言おうが雨は雨なんだ、少し位反省して大人しくなればいい。

ジメジメとした空気にいつまでも仏頂面の愛しい彼女、それらに少しばかり苛立っていた僕は普段より強気に構えていた、のだけれど…

『…だって…だって、折角一緒にいられるのに…別々の事なんて、したくないんだもっ…』

嗚呼、もうダメだ。

彼女の瞳から今にも外の雨と同じ位大きな水滴が零れ落ちそうで、強気なんてどこへやら、僕は本を閉じた。

そうして、かわりに彼女の頬に手を添えて。文字の羅列ばかり追っていた目は戸惑いと恥じらいと期待と、ぐるぐる回る感情を浮かべる顔で占めて。

鼓膜は煩い心音しか聞こえない。
僕と彼女、どちらのか明白ではないそれを、抱き締めて重ね合う。

ほら、やっぱり大義名分もって堂々と家にいられる梅雨は、僕にとって絶好のチャンスなんだ。


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