小説 | ナノ





デスクワークを最後にアポロンメディアから自宅へと帰る為愛用の車に乗り込む。出動さえ掛からなければ今日の仕事は終わり。帰りに何かつまめる物と…そうだな、ワインのロゼでも買おうか。
仕事柄少ないプライベートの時間をどう過ごそうか考えながらエンジンをつけ、車内のこもりきった匂いが鼻につき窓を開けた。

必然、ふわりと入り込む少し冷たくなった風の香りに意識が移る。

「…秋の香りがするな…」
一人きりの車内に勿論返事なんてある筈もなく、その呟きは僕の独り言として終わったのだけれど…不意、なまえの顔が浮かぶ。

なまえは気付いているだろうか。僕等が何度と過ごしたこの季節がまた訪れている事を。
暦の上ではとうに立秋を過ぎ気温でいえば日中はまだ暑い。けれど、意識してみればじわりといつの間にか秋は僕等を迎えていた。

早いな、と更に一つ小さな独り言をもらす。
数週間前の夏に今年の秋は何をしようと言い合っていたっけ。

確か蒸し暑い中なまえは僕の腕におさまっていて、二人で素足をじゃれ合わせながらシーツに裸でくるまっていた時子供の様に笑って話した…

「嗚呼、思い出した」

短い記憶を辿りまたポツリ独り言。
と、同時にアクセルを強めに踏んで車を発進させる。

行き先は今頃就寝の準備をしているであろうなまえの家。
連絡もなく行く事はめったにないけれど、携帯を弄る時間すら惜しいんだ。今日は許して貰おう。

行き掛けに何かつまめる物と、なまえも飲める様にとびきり甘いワインのピンクロゼを買おうか。
彼女の柔らかな身体を抱き締めた後、明日の出社を午後からに出来ないか頼む事を忘れないようにしなければ。

車の窓を全開にして、馬鹿みたいに浮かれた僕はまたアクセルを踏む足に力を込める。
早く、なまえに伝えたい。

『バーナビー、もう直ぐ秋だね。今年の秋も…ずっと一緒にいようね?』

そう約束したなまえに秋が来た事と、もう一つ大事な言葉を

「今年の冬も、ずっと一緒にいてくださいね」

伝えて、頷いたら、次は春の約束をしようか。

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