小説 | ナノ





「あ…」

ビチッ。無惨な音を立てて薄い紙は呆気なく破れた。
すい、と泳いで行く赤い金魚は尾を綺麗に揺らしていてまるでバーナビーを馬鹿にしているよう。

『あーあ…』
「済みません、もう一回お願いします」
『まだやるの?もう七回目よバーナビー』
「捕る迄やります、なまえは黙っててください」

はいはい、庶民的なお遊びに慣れてないお坊っちゃんは負けず嫌いと相場が決まってるのよね。
仕方なく言われた通り黙って彼の横に座り込み狭いビニールプールの中せめぎ泳ぐ金魚を眺める事にした。

二人で近所の夏祭りに遊びに来てみたは良いものの愛しの彼、バーナビー・ブルックスJr.様は金魚すくいに夢中。
どうやらこの中で一番小さく綺麗な赤色の金魚と、二番目に小さい金色の混じった金魚を狙っているらしい。二匹とも小さいだけあってまだ若いらしくピチピチと紙の上を跳ねては破き上手く逃げている。

「…もう一回、お願いします」

屋台のオジサンにそう告げて真新しい網を受け取る彼の瞳は真剣そのもの。
何がどうしてこの金魚がそんなに欲しいのかしら。

……………。いい加減飽きがきて欠伸を一つ洩らした頃、屋台のオジサンと珍しくバーナビーから歓喜の声があがった。

『なに?漸く捕れたの?』

すっかり興味が無くなってしまった事を隠す事なく声に出して告げると少しムッとしながら念願の金魚二匹が入ったビニール袋を受け取るバーナビーがジトリと睨み付けてくる。
仕方ないじゃない、暑さとつまんなさでテンション軽くローなんだから。

「さあ、帰りましょうか」
『うん…えっ!?』

目的は達したとばかりに立ち上がり帰路へ踵を返すバーナビー。
慌ててそれに続くけれど納得いかない!

『ちょっと!バーナビーが金魚すくい楽しんだだけじゃない!私まだ何もしてないよ!』
「早く帰ってきちんと水槽に移さないと金魚が弱ります、お祭りはまた今度」

な、なによ、なによ!
さっきまで子供みたいにムキになって金魚すくいしてたくせに!自分が楽しければそれでいいわけ!?

不機嫌にならいでか。
頬を膨らませ唇を尖らせてノロノロと彼に続いて歩く。

「なまえ、早く」

そんな言葉きくもんですか!
仏頂面のままの私を急かす様に手を握って引っ張る。その力にも抵抗しようと足を踏ん張ってゆるゆると歩く。負けないんだからね!

「なまえ、」
『………』

繋いだ手がなんだか熱い。

「こっちの小さな赤い金魚はなまえ、こっちの少し大きな金色がかった金魚はバーナビー、と名付けようと思うんです」

え?そう問いかける暇もなく話を続ける。
その間も手が熱くて、離せなくなっていた。

「大きな金魚を捕ってしまうと寿命が短いかと思いまして、同じ色でもどうしてもこの二匹が良かったんです」

じわり、手だけじゃなくて胸も熱くなる。
ああもう、どうしてバーナビーはそんな所だけ発想が子供っぽくて、こんなにも愛しい気持ちにさせるのよ!

『…っもう、早く帰ろ!』

今度は私がバーナビーの手を引いて足早に歩く。
水槽はどんなものにしようか、なんて少し浮かれ気分で考えていると

「なまえ、」
『今度はなに?』
「さっき、僕が金魚すくいに夢中で寂しかったんでしょう?」
『っ!この…性悪兎!』

可愛いな、なんて笑って手を強く握ってくるものだから、熱いそこからとけて一つになってしまいそう、だなんて馬鹿な考えが夏の夜に浮かんだの。

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