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今日は生憎の雨で、久し振りになまえと出掛けているだけに少し残念ではあったけれど大した問題じゃない。そもそも車で移動すればなんら関係はない。
だけど

「ねぇ、バーナビー。雨の日って、ドライブ楽しくないね」
雨の湿気と車内との気温差ですっかり曇った窓ガラスに人差し指を立てその小さな指先を結露で濡らしながら犬とも猫とも判断し難い絵を書く彼女を横目で一度眺めた。危ないと怒られてしまうから、直ぐに前へと向き直し跡が付くから止めなさいと何度注意しても治らない彼女の癖に少し眉間に皺が寄る。

「嫌でしたら、帰りますか。」
…自分でも吃驚してしまう程声は低く、しまったと口を閉ざした時にはもう遅い。もう少し考慮した言い方があっただろう。完璧に僕の失態だ、久し振りのデートで喧嘩なんか御免だって謂うのに。恐る恐る、隣へ視線を流すと

「じゃあ、帰る」

嗚呼、やってしまった。少しも僕を見ない前だけを向いた彼女の瞳からその言葉を覆す要素なんて無くて、こうなっては意地でも意思を曲げようとはしない。

本当は、つまらなそうに俯いてばかりのなまえに少し腹が立っていて…否、正確に言えば寂しかったんだろう。僕を見ないなまえ、笑ってくれないなまえ、触れられないこの僅かな距離も煩わしくて。
けれどそれが理由にならない事も分かってる。なまえにあたって良いと謂う事にはならないだろう。どうしようか、素直に言えば許してもらえるだろうか。

謝ろうかと口を開きかけた瞬間、濡れた地面がタイヤの音を吸収しては妙に静かな車内に辿々しく響く声

「帰って、バーナビーと一緒にごろごろする…ドライブつまんないよ、折角一緒に居れるのに…バーナビーが触るの…ハンドル、ばっかりなんだもん……」

聞き、間違いか?と一瞬思ってしまったけれど、自分の聴覚にはそこそこ自信がある。何より、横目でもはっきりと分かる程赤く染まっているなまえの顔が聞き間違いではない事を物語っていて。

生憎の雨だと残念に思っていたこの天気さえも今では輝かしいと感じてはワイパーで飛んでいく雨水がやけにキラキラと綺麗だなんて、嗚呼哀しきかな惚れた弱味と謂うやつです。

安全運転でお送り致します。その後、安全は保証致しませんので悪しからず。

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