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「落としたよ、折紙くん」

僕の手から滑り落ちた封筒を拾い上げ差し出してくる。
チクリと角が腕に刺されば、まるでジャックナイフでも突き刺されたような感覚に陥る程、今の状況が判断出来ない。

知っていた?
いつから?
どうして?

纏まらない僕の思考なんてお構い無しに腕を掴まれ無理矢理封筒を手渡される。
それを力任せに握り締めいつもと何ら変わらず笑みを浮かべるスカイハイさんを見上げ、僕一人理解が出来ていないらしい現状に血の気が引いたまま戻らない。

「あ、の…僕が擬態、って…スカイハイさんに…で…だから」
とりあえずとしらばっくれようにも、上手く言葉が出て来ない。こうした僕の言動はスカイハイさんに対してその通りだと告げているようなものなのに、舌が全然回ってはくれないんだ。

「…随分と顔色が悪いけれど大丈夫かい?」

きっと心配してくれているのだろうと頭の隅では分かっていても、伸びて来る手に恐怖を感じて思い切り払い退けてしまった。
乾いた音が廊下に響く。

「あ、…す、すみません!」
「……いや、大丈夫だよ」

払われた手を行き場なく宙に浮かせた後それをゆっくりと下げ小さく息を吐き出す姿をただ眺め、確実な答えを彼が告げる迄途方もない程時間が長く思えた。

「少し前からなまえは私の知らない話しをよくするようになった。それも…"私"と何をしたかを実に楽しそうに話すんだよ。まるで、実際に起きた出来事みたいにね。…それで、君だと思ったんだ」

いつも眩しい彼の目が僕を射抜く。
嗚呼、本当に、なんて愚かで浅はかな自分。グシャグシャに握り潰してしまった封筒から力が抜け、緩くそれを掴んだまま冷静さを取り戻し始めた頭で考える。

「いつ…から知っていたんですか」
「二ヶ月程前、だろうか。その後君となまえが五回の会瀬を重ねたと思っているんだが…間違っているかい?」

自嘲気味に小さく笑みがこぼれ、首を左右に振る。
間違ってなんかない、大正解だ。

…さっきから、一度も動揺等に揺らぐ事のない瞳を見つめ、一番引っ掛かっていた疑問を告げた。

「知っていたなら何故…何故、何もしなかったんですか。何も言わなかったんですか。どうして、僕を止めないんですかっ…」

殴られたって、ヒーロー辞めさせられたって構わないんだ。僕はそれ相応の事をしているんだから。
なのに、どうして

「なまえが悲しむじゃないか」

「事実が公になった場合、一番傷付くのはなまえだろう。そんな想い、私はさせたくない。それに…」

「"中身"は違えど、なまえは間違いなく"私"と愛し合っているのだから」

ゆっくり、丁寧に話してくれたスカイハイさんの言葉を全て理解する迄に時間がかかった。何を、言われているんだろう…と。
そして理解した瞬間に、これ以上ない程の怒りが湧いたのと共に惨めで堪らなくなったんだ。

"僕"は所詮、彼の身代わりでしかないのだと。

必要とされているのは、愛されているのは、共に過ごした僅かな時間向けられた表情感情残さずそれら全ては

"僕"ではなく、自分に宛てられているのだと。

そう告げる彼の顔はやはり、いつもの笑顔だった。

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