呼び出された内容は予想したものと何ら変わらず、防犯を呼びかけの為回る学校の資料だった。嗚呼、そういえば今週末だったなと封筒に記入された日にちを眺め上の空で考える。
目下、僕の頭を悩ませる要因はそれじゃなくて
「折紙くん」
封筒を眺め下を向いて歩いていたから突然目の前に現れ声をかけてきたスカイハイさんに、思わず肩を震わせ小さな奇声を発してしまった。
「済まない、驚かせてしまったようだ」
「…あ、いえ。僕の前方不注意ですから」
眉を下げる彼に緩く首を振って見せ、わざわざトレーニングルームを出た僕を追って迄声をかけてきた意図を促すように視線を向ける。
なんだろう…
「君に、聞きたい事があってね。その…なまえの事なんだが…」
心臓が、一瞬止まった。
ドキリ、と後ろめたい事実が頭を過る。今日会話を盗み聞きしていた限りなまえは僕との関係がバレるような言葉を発していなかった筈。…けれど、それが僕の慢心だったら…
ぐるぐると考え声が詰まる。黙っていては余計疑いを抱かれるだろうに、僕の声帯は震えてくれない。
漸く静かな廊下に響いた声は、スカイハイさんのものだった。
「いや、大した事ではないのだけれどね…さっき、なまえと何を話していたのだろうと気になってしまったんだよ」
恥ずかしながらね、とはにかんだように笑う顔を僕に向けてくる。
嗚呼、なんだ…。
所謂、嫉妬心だとか独占欲ってものか。スカイハイさんにもそんな感情を剥き出しにする時があるんだなと安堵の息を吐き出しながら、自分で仕掛けた罠に脅えてしまった事に激しく呆れた。
どこ迄も考えが浅い自分にヘドが出る。
「…ヘリペリデスファイナンスの方が来ているのを教えてくれただけですよ、スカイハイさんが心配するような会話は何もありませんから。安心してください」
嘘は言ってない。
いつもの笑顔を顔に張り付けながらそう説明すると、安心したようにほっと一息吐き出して
つくづく僕は考えが浅いのだと思い知らされる一言を突き付けられる
「そうか、良かった。いや、なに…君が私に擬態してなまえと関係を持っている事を、言ってしまったのかと思ってね」
杞憂のようだね、済まない。
いつもと変わらない笑顔を向けてそう告げるスカイハイさんを、僕はただ目を見開いて眺める事しか出来ず
バサリ、手にしていた封筒が床に落ちる音だけが妙にリアルだった。