小説 | ナノ





子供の頃夢視てた事は結局何一つ思い通りにはいかなかった。
それは周りがどうとかじゃなくて、僕自身の問題で、だからこそ憤りを感じてしまう。

僕自身の問題ならば変わればいい?そんな事はとっくに諦めた。
擬態なんて能力皮肉でしかなくて、だって誰かになったソイツが求められているだけで僕を求められている訳じゃあ無いんだって、それがこんなにも明白に知らされてしまうなんて。皮肉以外、何て言えばいいの。

夢視てたヒーローも、実績なんか上げられない。
好きな子に好きだと伝える平凡も、僕には青天の霹靂でもないと叶わない。

だから、って悲劇の主人公気取りに言い訳を述べれば許されるなんて思ってやしないけど…

それでもコレは僕にとって凄く大きな意味のある賭なんだ。

『おはよう、キース!』
「嗚呼、おはよう!そしておはようなまえ!」

相変わらず楽しそうにバカップルを見せつけてくる二人をぼんやりと眺めて、きっと見せつけている気なんか更々無いんだろうから手におえないと小さな溜め息を吐いた。
勿論ああいう光景を見て平気だとか思える筈ない。けど、少し恐怖混じりの期待を抱いて二人の会話を盗み聞きするには訳があって

昨夜の事だけじゃない。擬態をしてスカイハイさんを名乗りなまえと過ごした日の事を、今だかつて口止め等した事が無いんだ。

昨日は楽しかったね、だとか。パスタ美味しかったね、だとか。あわよくばセックスの話でも持ち出せばいい。

そうすれば、僕の能力に辿り着いて全て気付くんじゃないか。
そうすれば、なまえに好きだと言えるんじゃないか。

それはきっと最初で最後の君に贈る"僕"からの告白になるんだろうけど。


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