小説 | ナノ





いつものさんざんな1日が終わり着替えを済ませて会社を出る。
もう見慣れたシルエット。派手なジャケットに月明かりを反射させ光る金髪、翡翠の瞳が私を見て細くなる。

「みょうじさん、お疲れさまです」
長い足で一歩一歩近づいて来ながらそう告げる姿は王子様のようで、そんな事を考えてしまう自分が嫌。

『…毎日毎日迎えに来ないでくださいって言ってるでしょうバーナビーさん』
「貴女に何かあると僕が困るんです、残念ながらそのお願いはきけません」
『残念だなんて思ってないくせに』
「フフ、バレましたか」
『笑い方が気持ち悪い!』

憎まれ口も気持ち悪い笑いで流されてしまって、何も言えなくなる自分が情けない。

許可してないけれど、大した拒否もしないまま同じ方向に歩き出す。
すると、彼の左手に着けた通信機が鳴り響いた。

素早く操作し確かヒーローTVのプロデューサーだったか、アニエスさんと繋がり細かく状況を聞く。
現場がどこなのかと問いどうやら今私達が居るこの場所とは遠いらしく、バーナビーさんは私をチラリと見た後少し安心したように息を吐いた。

プツリと通信を切り上げた左手は私の頭の上に。
せっかく纏めた髪が、その大きな掌で少し乱れてしまう。後は帰るだけなんだからそんな事はどうでもよくて、問題はそこじゃなくて

「すみません、お聞きの通り事件のようですので今日は送れません」
『だから、そもそも送らなくていいって言ってるでしょう…』
「はい。けれど、すみません。」
『…………』
「気をつけて帰ってください、ではまた」

頭がとたんに軽くなる。
走り去って行く後ろ姿はこのシュテルンビルト市民を背負う責任や覚悟を物語っているように、ヒーローという言葉が嫌みなくピッタリで、かっこよく見えて…そんな事で早く鼓動を打ち続ける心臓の治め方を私は知らない。

また、と告げる貴方のその言葉を信じて安全を願いながら、うるさい心音を気にしない振りをし家路へと足を踏み出した。

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