『美味しかったね、キース』
「嗚呼、そうだね。とても、美味しかった!」
約束したイタリアンを食べに出掛けた帰り道、感想を言い合いながら歩く公園。
人通りの少ないそこは"僕"達のようにカップルが疎らにいるだけで、古臭いドラマのような雰囲気を放ち妙にドラマチックに思える。これで彼女が呼ぶ名前が"僕"だったなら、どんなに素敵か。
『ねぇ、キース』
「…なんだい?」
『今日は突然待ち合わせ場所を変えたい、だなんてどうしたの?』
そう、彼女は僕がキースさんだと思い込んでいる。それも不思議ではないだろう、この能力を使えば。
二人がディナーの約束を交わした後、キースさんにはポセイドンラインから要請が出ていると告げ、それをなまえに伝えておくとことづけ役をかって出たのだ。そこ迄行けば後は容易に。キースさんに気付かれる事がないよう一応待ち合わせ場所を変更し、今に至る。
こうした事は今回が初めてではなくて、何度とデートをしては時に柔らかく官能的な身体を抱く事もある。あの時の至福といったら―…、いけない、思考が反れてしまった。
嗚呼、でも…考え出したら止まらない
「…駄目、だったかな?」
『駄目じゃないけど…ん…』
髪をすきながら頬に指先を滑らせると擽ったそうに身を捩る、その姿さえも煽られて自然と唇に吸い寄せられてしまう。
幾度と交わしても慣れないのか最初は眉間に皺を寄せているんだけど、啄むように柔らかく唇を噛んで緩んだ口へ舌を差し込めば段々と蕩けたような表情に変わって懸命に受け入れようとする。
「…可愛い」
背の小さななまえは首を上げているからかよく口の端から唾液を溢してしまう。それを舐め取るのが楽しみでもあるのだけれど。一連の流れとしてそうする最中告げた本音、が
『も…キースったら…』
当たり前、だとか思えない。本当はこんな顔僕しか見れない筈だったのに。本当は呼ばれる名は僕の筈だったのに。なのに、どうして。なんで。
なまえの潤んだ瞳に映る姿に、吐き気がした。