きっかけはいつだって修哉君の言葉から始まる。

今日だってそうだった。
お気に入り窓辺で静かに外を見ていたと思ったら、いきなり散歩に行こうとか言い出し始めて。
修哉君の癖っ毛が雨のせいでくるくるになっているのも気にしていないのか、ただ天然なだけか。

「雨、降ってるね」

「そうだね。…髪の毛どうにかしたら?」

私がそう言うと、やっと自分の髪の毛の悲惨さに気づいたのかわしゃわしゃと触り出す。
そんな事しても直らないのに。

「まぁ、いいや。名前行こっか」

正直雨が降っているから外になんか出たくないんだけどな。
私の意見なんか端から聞く気もないんだろう。

暖房が効いた部屋を抜けると、外は当たり前のように寒くてもう少し厚着をしてくればよかったと後悔。
冬の寒さって言うのも有るんだろうけど、雨が降っている事でなお寒さが増している気がする。


「名前寒い?」

「大丈夫」

「ふふ、鼻が赤いからトナカイさんみたい」

「私から見たら修哉君だってトナカイみたいだよ」

私がそう言うとまたけらけら楽しそうに笑う修哉君。
そんなに笑ってると身体が暖かくなりそうなのに。


「ね、手繋ご」

「いいけど、私の手すごく冷たいよ?」

「大丈夫大丈夫、僕あったかいから」

そっと手を出すと、傘を持ってない方の手でゆっくりと握ってくれる。
背はやたらと低い癖に、手だけはやたらと大きくて男の子だってことを再認識させられる。
あと、修哉君の言う通り手が暖かい。


「…ホッカイロ持ってたでしょう」

「あはは、ばれた?」

名前があんまりにも寒そうだったからおすそ分けね、と笑顔で言ってくれるけど修哉君だって寒いの苦手なくせに。
優しいんだかそうで無いんだか。

お互い黙ると雨音だけが残って、他の音を全て消してしまっている。


「名前」

急に握っている手に力が入る。
少しびっくりして横を見ると、いつもと違う顔。

何を言うかきっと私は知っている。
知らないふりをしているだけ。

「ごめんね」

その謝罪の意味もその顔の意味も。
全部全部。

「僕ずっと名前のそばに居るって言ったのに」

うん。

「ちゃんと愛してるって言いたいのに、」

きっかけはいつも修哉君の言葉から始まるよね。
それに私は従うだけ。
大丈夫だよ。私は強いからね。
でも、最後くらいいつもみたいに笑ってて欲しかった。

修哉君が居なくたって私幸せになれるよ。
修哉君だって、私が居なくても幸せになれるよ。

大丈夫。
物語は全てハッピーエンドで終わるから。


なんて無理矢理なハッピーエンド


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