▼△▼甘い物は苦手なのである。
食べ過ぎると気持ち悪くなるし、手とかにつくとやたらとベタベタするし。
なによりも太ってしまうから、甘い物は苦手だ。
「名前ちゃーん!」
「いい加減名前ちゃんというのはやめてもらいたいのですが」
「相変わらず冷たいなぁ、もう!」
「はぁ…高校生にもなって、頬を膨らますというのは恥ずかしくないのですか」
「ぜんぜーん?」
「そうですか。では、私は今本の整理で忙しいので」
「あー、ちょっと待ってよー」
去年までは風紀委員を務めていたのだが、人に注意をするという点であまり自分には向いてないと思い、元々本が好きだという事で今年は図書委員を選んだ。
だけどこの委員自体他の生徒にあまり知られていなく、私の他に委員の人達はいるものの実質私一人で仕事してるのとあまり変わりはない。
でも、仕事といっても本の整理だとか、本の貸出など、一人でやっていて大変という訳ではない。
むしろ毎日本に囲まれてて幸せだと思える。
一つの問題を除けば。
まぁ、問題と言ってもそんな大したことじゃない。
さっきから上級生の私にちゃん付けをしたり、本を読んでいるのに横からべちゃくちゃ喋りかけてくる後輩がいるってだけだ。
それは、毎日と言っていいほど、放課後図書室にまで来て私の横に座り満足するまで喋りかけてきては帰るという自由人過ぎる人間性を披露してくれている。
正直うるさいのでもう来ないで欲しい。
「てかさぁ、毎日偉いよねぇ。僕だったら絶対サボっちゃうのに!」
「あれ、鹿野さんまだいたんですか」
「ひどい!」
背が低いとはいえど、立派な高校生男子が手で顔を覆い隠して、えーんえーんと今時の子供でもやらなそうな泣き真似をしている姿はとても不思議な光景だ。
恥ずかしいという感情は彼には無いのだろうか。
私だったら死んでもやりたくはない。
「あれ、どしたの?そんなにじっと見つめちゃって。あ、僕に惚れちゃった?ふふ」
彼の頭はたくましい。
色々と。
「あっ」
前に探して欲しいと頼まれていた本を見つけたはいいものの、本棚の一番上にある為自分の背じゃ届かない。
精一杯背伸びをして手を伸ばしても、一向に取れる気配がない。
諦めて椅子を取ってこようとして後ろを振り向くと、気持ち悪いくらいに笑顔な鹿野さん。
ニヤニヤと効果音がつきそうなぐらい、意地の悪そうな笑顔をしている。
「名前ちゃんあれとってほしいの?」
「まぁ」
「取ってあげるよ」
「本当ですか?」
その言葉に少々びっくりする。
彼自らが手伝ってくれるなんて、明日には雪でも降るんじゃないだろうか。
「まぁ、その代わりお願いがあるんだけど」
言葉の続きを聞こうとして彼の方向に向いた瞬間、急に私の耳元に彼の顔が近づく。
驚いて後ろに下がろうとしても、本棚に挟まれて逃げる事も出来ない。
初めての出来事に頭が真っ白になるも、そんな事はお構い無しにと鹿野さんは楽しそうにふぅっと私の耳元に息を吹きかけている。
それに驚いてびくりと体を揺らす。
「っ、お願いって何んですか」
この甘ったるい空間に耐えられずおもわず声を出す。
「んー、名前ちゃんってさぁ、僕のこと後輩、としか見てないよね」
依然として、距離は近いまま、くすくすと楽しそうに私の髪を弄り出す。
今更、何を言ってるんだこいつは。
私の方が上級生なのだから、後輩として見るのは当たり前な筈なのに。
「僕だって男だよ」
普段より、低く擦れた声に酔いそうになる。
年下に、ましてや、いつも鬱陶しいと毛嫌いしていた男にこんなに迫れるとは思ってもみなかった
そして、こんなに気持ちが揺らぐとは思わなかった。
さっきから、鼓動がやけに速くて煩い。
いっそこの時間ごとまとめて止まってしまえばいいのに。
「ふふ、いつも澄ました顔してるのに、今は僕なんかに頬赤くしちゃってさ。可愛いよね、ほんと」
「…赤くなってないです」
「そういう意地っぱりな所も全部含めて、」
「先輩が好きだよ」
あぁ、甘い物は苦手なのに。
今はその甘さに酔いしれてしまいそう。
お願いなんて言い訳で<
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