雨が降った後の土の匂い

遊具を触った後手に微かに残る鉄の匂い

バイトから帰ってきたセトの汗の匂い


どれも大好きな匂い
好きだから独り占めしたくなる
好きだからこそ、私だけのものにしたくなる



「名前どうしたんすか?くっついてきて」

「ん、セト汗臭いなって」

「えっ、臭いっすか?」

「臭い」

「えぇ、恥ずかしいから離れて欲しいっす」



ふふ、可愛い。

普段見れないセトの照れてる赤い顔。
好きな匂いだから別に気にならないけど、何だかこう…つい、いじめたくなる。


私に臭いと言われて、相当恥ずかしかったのだろうか。
身をよじらせながら、私の抱擁から逃げようとする。



「セト、イモムシみたい」

「楽しそうですっごく可愛いんすけど、今は少し離して頂きたたいっす」

「あっ、セトイモムシなんてあだ名はどう?」

「俺の話を全く聞いてないんすね」



セトが、諦めたような呆れた顔で私を見下ろす。

前から可愛くはないサイズだとは思ってたけど、見下ろすぐらい私とセトの身長差が離れていたとは気づかなかった。

新たなセトを見れた嬉しさと、顔が近くなった恥ずかしさとで顔をセトのお腹にぐりぐりと埋める。

私の頭の少し上の方でくすぐったいっすよーと可愛くないカエルさん。




「ん、急に止まってどうしたんすか?」

「やっぱり、セトガエルの方が語呂良いなと」

「まだやってたんすかそれ」

「セトガエルさん」

「はいはい、げこーっすよ」

「ふふふ、可愛い」

「あんまり嬉しくないっす」

「なんでよー」



セトガエル結構いいと思ったのに。
その本人さんはどうやら不服のようで、口をとんがらせてる。
子供みたいなんて言ったら、今度こそセトの口はどんな風になってしまうんだろう。


「あっ」

何かを思いついたように呟くカエル。
びっくりするからやめていただきたい。
というか、本当よくころころ顔色変わるなぁ。



「いいことおもいついたっす」

「ほほう、名前ちゃんが聞いてしんぜよう」

「一緒にお風呂入るっす」

「いいよ」

「えっ、」

「いいよ、入ろう」

「や、あのっすね」

「セトが誘ってきたんでしょ?」


またいつもの私の悪い癖。
セトがいたずら好きで子供っぽい所があって、でもそれを上回る恥ずかしがり屋さんなのを私は知ってる。
知ってるから敢えていじめたくなる。
私だけのものにしたくなる。

「や、えーっとまだそういうのは早いって言うっすかなんと言うか」

「嘘だよ」

「へ、うそ?」


こんなに慌てて取り乱してるセトを他の団員は見た事ないんだろうな。
こんなに可愛いセトを私以外誰も知らない。
でも、教えてあげる気がなんてない。
だって、私だけのセトだから。


私だけの、ね。


ふふ。





あなたと私と黒薔薇と


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