Krk | ナノ


5。頃合



俺は、肩を落として帰宅した。

考えてみれば、ただ似ていると言うだけの子供を、あいつと仲が良かった奴が抱いていただけ……

もしかしたら、実渕が俺に似た奴の子供を預かっただけかもしれないのに。


けれど、俺は未練タラタラであいつの影をいつまでも追いかける。


もしかしたら、愛実に繋がる何かを知っているかもしれないと、驚くテツたちをそっちのけで走った。

けれど、一足遅く、時計台には赤司も実渕の姿もなかった。






愕然としたのもつかの間、すぐに冷静になり、喫茶店に戻った。

けれど、やっぱり気になって他の奴の話なんか耳に入ってこない。仕方なく適当な理由をつけてみんなより先に帰宅した。







まだ、慣れないマンションの扉を開け、真っ先にシャワーを浴びる。



全寮制だった警察学校を卒業して、すぐ借りたマンションは今だ生活環はなく、段ボールが転がっている。しかし、生活に支障はない。







蛇口を捻れば少し冷たいお湯が出て、頭を冷やすのにちょうど良かった。お湯になるまでの間俺はぼーっとシャワーを浴び続ける。




けれど、それでも頭を駆け巡るのは、やっぱり愛実の事ばかりだ……















風呂から上がり、ミネラルウォーターでのどを潤す。そこに丁度携帯の着信を知らせるバイブが響いた。








面倒だと思いつつ見た画面には先ほど会っていた人物の名前





―――赤司征十郎




俺は考えるより先に通話ボタンを押していた
























※赤司視点








中学の仲間と別れを告げ、目と鼻の先の時計台へと向かう。


到着後、しばらくして待ち合わせの相手がこちらに向かってくるのが見え、軽く手を挙げる。





「征ちゃん、お待たせ。ごめんなさいね、この子が出かけるって時にぐずっちゃって…」




「あぁ、かまわないよ。それに、子供はそう言うものだろう?気にすることはない。…今は寝ているみたいだね。」




「あら、やだ。征ちゃんからそんな言葉が聞けるなんて!愛実にも教えてあげないと…」




久しぶりに聞いた名前に、少しだけ反応をする。


レオの口ぶりからすると、元気にはしているのだろうと理解はできても、彼女の気持ちは落ち着いたのだろうか……




「それで?中学のお友達には会えたのかしら?」



「あぁ……さっきまで会っていたよ、そこの喫茶店で……」




言いかけて気づく。

そうだ、俺は、自分の事ばかり考えて、こんなに近くで待ち合わせをしてしまった。


愛実の気持ちが落ち着くまで、彼にはこの子を会わせまいと考えていたのに……




「征ちゃん?どうした……のって…ちょっ!?」




黙ってしまった俺を不思議そうに見つめる彼の手を取り、少し小走りで細道へと入る。それからすぐに適当な地下街への階段を下りた。











しばらく歩き、地下街でも少し大きな広場に出たのを確認し、レオの手を放した。






「すまない……」




「えぇ、大丈夫よ。けど、突然でびっくりしたわ。どうかしたの?」




「いや、俺のミスで少し走ってもらった。さっきの待ち合わせ場所が見える喫茶店で中学の仲間と会っていた……」




そこまで言えば、頭のいい彼なら理解できるだろう……、少しの沈黙の後レオはハッとして俺の顔を見る。




「征ちゃんらしくないミスね。」




「あぁ、本当に申し訳ない」





「まぁ…でも……「うえぇぇぇぇんっ〜〜〜〜!!!」……あら、起きちゃったの大地…」




レオが何かを言いかけたところで、急に子供が泣き出した。


慣れた手つきであやすレオに、近くの店に入ろう、と声をかけ、あらかじめ調べておいた子連れでも入れる喫茶店へと場所を移す。






店内に入り、手際よく作ったミルクをくわえると子供は大人しくミルクを飲み始めた。





「調乳室がある喫茶店なんて、さすがね征ちゃん。」




「俺には子育ての大変さはわからないから、家政婦さんの教え…と言ったところだよ。それより……さっき何か言いかけていただろ?」




「あぁ、それね。」





先ほどまで、ミルクをあげながら優しい表情をしていた顔が、ふと真剣なものになる。




「たまたまにしろ……今回の件で知られたのなら……それもいいんじゃないかしら?」




「と、言うと?」



「そろそろ、彼に会わせても……いいと思ってね。」




「愛実は……、大丈夫なのかい?」



「征ちゃん、女は強いのよ。特に母親になった女はもっと強いの。とっくの昔に整理はついてるわ」




「そうか……。」




「それに、最近、急上昇のナイトもいるのよ?」



笑ってウインクをする彼に、1年と言う月日をなかなか会うこともかなわず過ごしたが、頼もしさは変わっていないのだと実感した。


しかし、ナイトとは……こんなに小さいのに、母にとっては頼もしく感じるのだろうか……




と、この子を抱く愛実と、自分を抱く母を想像の中でそっと重ねてみた。





























気づけば夕日がきれいに色づく時間になっていて、愛実との約束の時間があるからと帰り支度を始めるレオに。


「今度は、愛実も一緒に会えると嬉しいよ」



そう告げれば「また、時間作るわ」と返ってきた。



「あと、征ちゃん、一つお願いがあるの。」



「あぁ。どうぞ?」



「その顔は……わかってるって感じね」




「青峰に、伝えればいいのかい?」



「えぇ。お願いね。けど、どうするかは……」



「あいつ次第……」




俺の返事に、少しだけ眉を下げて小さく笑うと、「今日は楽しかったわ。またね」と言って去って行った。































レオを見送るとすぐに俺は携帯を取り出した。





何度目かのコールのあと、聞きなれた低い声が受話器越しに響いた。




「なんだよ、赤司。」




「やぁ、さっきぶりだね」




「ふざけてんなよ……まぁ、そうだけど」




少し、彼の様子をうかがう。心なしか不機嫌と言う事は……やはり、見られていたのだろう…

そう思った俺は、レオとの約束を果たすことにした。




「で、青峰。俺に聞きたいことは無いかい?」



「……」



「ないなら……「あいつの……」……」




「愛実の……事、何か知ってるなら……教えてくれ」





「あぁ。わかったよ」





その言葉を聞きたかったとばかりに相槌を打つと、その続きを告げるべく口をひらいた
 | 
back