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2。疑惑



次の日、俺は秀徳高校の正門で待ち伏せをする。



もちろん、待っているのは恋人である愛実であって、決して緑頭の知り合いではない。




「何をしているのだよ。愛実なら今日は休みだ」




けれど、声をかけられ、振り合えれば、そこには元チームメイトである緑間がいた。



「あ?なんでだよ?」




「風邪だと……高尾が言っていた。聞いていないのか?」




「………ぁあ。」




少しバツの悪くなった俺は、緑間から目をそらし答える。その姿に何かを察した緑間はため息を吐いた。




「お前のことだ。また、喧嘩でもしたのだろう?いい加減、痴話げんかはよそでやってほしいのだよ」




「喧嘩じゃ……ねぇーよ」




「どうだかな。そんな事では、いずれ愛実に愛想つかされるぞ」



「………」




緑間の一言に、「もう、つかされてるかもな」なんて言葉を飲み込む。



しばしの沈黙の後、口を開いたのは緑間だった。






「で?今回の原因はお前の浮気か?」





「は?なに言って………ぁ、愛実がそう言ったのかよ?」






「肯定も否定もしない。俺は何も直接聞いていないからな。ただ、先日「あれ、ぜってー浮気だって」「愛実が可愛そうだ」とかなんとか高尾が騒いでたのだよ。」





「高尾って……お前の相棒?さっきも愛実の休みの理由知ってたけど、そんな仲いいのかよ?」





緑間の言葉を受けて、思い出すのはオチャラけたように笑う黒髪の少年。

一瞬、今回の愛実の浮気相手かとも思ったが、テツは年上だと言っていたし、高尾なら少なからず面識はあるはずだから、彼の名前が出るはずだ。






「高尾と愛実は3年間同じクラスで、同じバスケ部員とマネージャーだ。仲がいいのはわかるだろう?まぁ、心配には値しないのだよ愛実に関しては…だが。」




「そうかょ……」




多少なり、引っ掛かりのある言い回しだったが、今は高尾は正直どうでもいい。実際、緑間は愛実に関しては心配ないと言っている。


と言う事は、少なからず愛実は高尾のことを友人の一人と思っているのであろう。




そう思えば、ますますテツや黄瀬の言っていた年上の男が気になった。









「なぁ、緑間。愛実がよ……年上の男と歩いてたらしいんだけど……知らね?」







緑間に聞いても仕方がないが、同じ学校だ、何かしら知っているかもしれない、と疑問を口にする。本当は、もっと早くに、愛実本人に聞けばよかったが……





「それは、あいつの従兄弟の事を言ってるのか?」







「は?」





まさか知ってるとは思わなかった事と一緒に従兄弟かよ…と言う安心感が、短い返事となり口から飛び出す。






「ぁあ、聞いてないのか?大阪の従兄弟が久しぶりに会いに来ると……たしか3週間前」





「そいつ……年上?」




「たしか…大学3年とか言っていたが」





3週間前。


時期的にはぴったりだ。


それに、年上の男。



もう、事実確認は必要ない。



小さな疑問も不審もなくなった。



ただ……


何一つ




「聞いてねぇーよ…………」








そう呟けば、緑間がまたため息を吐く。






「そうか…。まぁ、愛実の事だ。お前のバカみたいな独占欲のせいで喧嘩の種になるくらいならと、話さなかったのだろうな。」







そこまで聞いて納得がいった。

前にも一度、バスケ部の部長との買い出しを目撃して大喧嘩をした。


愛実は悪くない。俺の醜い嫉妬で……








「あぁ!くそっ!」





頭をかきむしり、急に叫んだ俺に対し、緑間は一瞬体をビクつかせると「うるさいのだよ!」と怒鳴る。



けれど、今の俺の耳には入ってこなかった。
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