さようなら

 
 
涼しい図書館から、太陽が照りつける外に出た。ジワリ、と額に汗が滲む。
 
元気が有り余っているであろうセミの鳴き声は止むことなく、人気のない道に響き続ける。
 
 
 
私達は、お昼ごはんを食べるために課題を中断して食堂へ向かおうとしている。

しばらく歩くと、身長差の凄い二人を見つけた。


「あっ!! 誉君と月子ちゃんだ」

「今日も練習あったんだな、弓道部」

「いや、今日は自主練らしいよ。月子ちゃんが言ってた」


今年こそはインターハイに出場すると意気込んでいる弓道部は、夏休みでもお構いなしに練習がある。寧ろ、授業がない分キツイ練習が詰め込まれているらしい。


―――私も弓道部なら、そこに並ぶことができただろうか。
いや、あの二人にとって私は邪魔者でしかないのかもしれない。


「それにしても、あの二人仲がいいな。
 娘を嫁に出すってこんな気分なのか!?」

「まぁ似たようなものじゃない?」


月子ちゃんから相談を受けたりしていたから、寂しい気持ちはあるけれど嬉しく思う。当事者じゃないのに、ちょっと変だよね。



大人になっても、きっとあの二人は仲が良いのだろう。
もっと歳をとっても、お爺さんやお婆さんになっても、のほほんとした独特の雰囲気を纏って、笑いあえるのだろう。羨ましいな、そういう関係って。


「あー私も彼氏がほしいよ」

「お前だってモテるから、そのうちできるだろ」

「そうだといいな」


違う。そうじゃない。
私がほしいのはその言葉じゃない。


月子ちゃんが入学してから、一樹は私の事をあまり見てくれなくなった。
自分の事を顧みず、無理に未来を捻じ曲げて傷付く姿を――私はずっと見ていたのに、何もできなかった。


一樹に認めてもらいたくて。
一樹に気付いてほしくて。

オシャレだって頑張ったし、難しい料理の練習もした。


私だって報われたい。



 * * *
 
 
 
夏休み後半のある日

帰省していた私は、突然ある料亭に連れてこられた。
しかも、来る途中に美容院で着物に着替えさせられた。何故?
 
 
「本当に一樹?あの横暴会長なの?」

「あぁ。って横暴は余計だ!!」
 
 
悪戯が成功した子供みたいな表情をした大人二人は、私達をおいて部屋を出て行った。
 
 
高そうな和服を着ている私達は、上手く状況が飲み込めずにいた。
 
ホントに何故こうなった?
 
 
「叔父さんがよく笑うと思ったら、こんな事企んでやがった…」

「まだ19なのに婚約って……一樹、破棄するんだったら早くしないと」
 
 
私からしたら願ってもない大チャンスだ。
一樹には申し訳ないけど、好きな人の隣にいることができるのだから。
 
 
―――月子ちゃん一筋だった彼を、私のエゴで縛ってはいけないでしょ?
 
 
「……そんなに俺が嫌か?」

「えっ!? そんなことないよ!!寧ろ、す……」

「寧ろ?」
 
 
珍しく暗い顔をした一樹に騙された。
あんな自信なさそうに聞いてくるから、勢いで本心を言いかけてしまった。
 
もう誤魔化せないか。
伝えたら、心地良い関係が壊れてしまうかと思っていたけど……仕方ない。
 
 
「好きなんだよ。ずっとずっと前から!!」

「ははっ!! 良くできました」
 
 
私が叫ぶように言った瞬間、視界は黒に染まった。
 
抱きしめられてるの?
 
 
「俺は破棄したりしないぞ。好きな女を嫁にできる以上に幸せな事はないからな」
 
「好きな女? 私が?」

「あぁ。俺もずっとお前の事が好きだった。
 だから俺の婚約者になってくれるか?」
 
 
そんな事言われたら、答えはもう一つしかない。
 
 
「よろしくお願いします」
 
 
 
寂しくて苦しかった初恋は、予想外の形で実った。
 
やっぱり、初恋は実らないって迷信なんだよね。諦めないでよかったよ。
 
 
 

 
(月子ちゃんに嫉妬していた)
(子供みたいな私にサヨウナラ)
 
 
 
――――――――――

企画「さようなら」様に提出
 
 
前半に月子と誉が出てきたけど、あまり触れないまま終了…。

時間軸とか気にしちゃ負けですよ。
自主練なのに宮地君がいない事も気にしちゃ負けです。

「あの日の私にさようなら」をテーマに考えていたら、お見合いの話しと卒業式の話しが浮かんだので友達に決めてもらいました!!
もう少しぬいぬいのセリフを増やしてあげたかったなぁ、と今頃後悔してます。


◇補足設定◇
ヒロインの実家は神社です。
昼寝していたヒロインの「一樹…」という寝言を聞いて、もともと知り合いだった不知火(叔父)に連絡をとりました。
(ヒロイン父は行動に移すのが早いんです)
 
 
素敵なお題をありがとうございました!!

2012.02.29 提出

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