車に流れる音楽と2人の呼吸。

全く会話をしていないわけではない。でも別にこの沈黙は嫌じゃない。むしろ……すき。
ていうか、わたしいつからこんなに感受性の豊かになったんだ。ああ、気持ち悪い。なんて苦笑する。


「どーした?」

「なんでもない。あ、ここ」


もう家の前。先生といると時間が早く感じる。…感受性だけじゃなくて表現まで豊かになったよね。前よりは…多分、確実に。それはどうでもいいか。


「先生、わざわざありがとうございま…した…?」


何故か先生まで車から降りる。


「なんで先生まで?」

「あ?」

「なんで降りるの?」

「保護者に謝罪必要だろ」


いや、黙っとけば普通に大丈夫だと思うけど。


「それにお前言わないだろ」

「…よくお分かりで」

「…やっぱりな」


ため息つくなよ。幸せ逃げるよ。あ、もしかして先生に幸せなんてもう残ってないとか?

さすがに言い過ぎか。別に先生の不幸は望まないけど幸せじゃなければいいのに、と思う。なんていう性格してるんだよ自分、とわたしも思う。


「ほんとに言うんですか?」

「おー」


ってもうインターホン押してるし。行動早いな。


「はーい」

「名前さんのクラスの副担の者です」


先生ってクラスの副担だったんだ…。全然気が付かなかった…。それと先生さ、さっき名前って言ったよね?顔が緩んじゃいそう。


「あら、どうぞ」


お母さんもお母さんで何でそんな簡単に通すの!


「ちょ、お母さん!」

「なに?」

「そんな簡単にっ」

「あら、いいじゃない!かっこいいし!」


後者が本音だよねコレ。お父さんにチクるぞ!あ、お父さんはただいま単身赴任中で家にいない。まあ、そんなことしたらわたしは地獄行きだろうね。お母さんの手によって。


「それで先生はどうしてここに?」

「実は………」






* * * * * * *







「まあ…わざわざ謝罪なんてすみませんでした」


この子丈夫だから全然大丈夫なんですよ、とか何とか色々話しだしたお母さんの口を塞ぎたい。


「いえ…」

「だからそんな気にせずに」

「あの…」

「はい?」

「娘さんを、名前さんを下さい」

「「え?」」


お母さんとハモった。って違う。先生一体どうしたんですか。頭のネジでも取れましたか。


「あら名前良かったじゃない」

「え、お母さん?」

「…いいんですか?」

「どうぞどうぞ!お父さんには私から言っておきます。あ、でも高校卒業するまでは目立たないように頑張ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」


あのわたしの意思は無視な方向ですよね。てかお母さんなんでそんなに賛成なの。

てか先生と付き合うの?
下さいって結婚?
いやいやいやさすがに色々なことを飛ばしすぎですから。先生のことは好きだけどさ。え?なにこれ。どうなるんだよ。



一方通行の恋は終わったのか、否か