今日の化学は実験。昨日今日と連続で授業があるのは嬉しい。でもその分今週会えるのはあと少なくて1回の授業でだけ。残念な気持ちを抱く自分にどんだけ好きなんだ、と思う。これじゃあもう、いのに対してだって何も言えないし。あ、というか好きになったとか言ってないや。ま、いっか。そもそも好きだけだし。だからと言って実らない恋にする気はさらさらないが。


「先生、手伝いきた」

「ため口かよ」

「何か敬語じゃなくてもいいかな、って昨日ふと思ったから」

「なんだよ、それ」


クスクス楽しそうに笑う先生。敬語だと先生と生徒の壁をすごく感じるから嫌。って昨日思ったからため口にしてみた。それで嫌われたらおしまいだったけど。


「じゃあこれそっちな」

「はーい」


言われた通りに器具を各々の机に運んで並べる。他に会話はない。でも嫌じゃない空間。もうすぐチャイムがなる。クラスの皆がぞろぞろと中に入り出す。先生の周りにも生徒がいっぱい。その中に入って行くのは気が引けるからいつも遠くから見る。それだけで今は満足。…とは言えないが、さっきは2人きりだったし。わたししか知らない小さな強がり。


それから授業が始まって実験の説明。中和の実験。水酸化ナトリウムは直接触れると薄めてても危ないから気をつけろよー、って何回も先生が言ってた。でも皆知ってることだしあんまり聞いてない。先生もめんどくさくなったのかもう諦めたらしい。


「名前、さっさとやっちゃおう」

「うん」


いのに促され先生の観察をやめて、実験に集中する。男子うるさいなあ、なんて頭の片隅で思いながら。


「ナルト、お前っ!」

「うっせー!キバのバーカ」

「んだとっ!?」


真面目に実験やれ。…と思うけど言わない。余計ややこしくなるから。これはもう経験談としてね。


「う、わっ、やっべ」

「え?」


突然目の前で倒れて来たナルト。そこにはわたしのとこの実験器具がたくさん。ナルトのせいで全部倒れる。だけだと思っていたわたしが甘かった。

器具が割れる音。水酸化ナトリウムがこぼれて少しかかる。薄まっていると知っていてもやっぱり怖くなる。すぐに洗わなきゃいけないのに頭が反応しなくて。


「名字!」


先生の声が聞こえて名前がはっきりしたと理解したときには、先生が腕を掴んで水道に連れてかれて念入りに洗われてた。


「大丈夫か?」

「…あ、はい」

「一応保健室も行くか」

「…はい」


そんなしょんぼりしないで欲しい。だって先生は何も悪くないのに。


「色々、ありがとうございます」

「…俺の不注意だよな…ごめんな?」

「先生のせいじゃないです。気にしないで下さい」


精一杯の笑顔でいう。それでも先生の顔は明るくならない。ナルトのこと嫌いじゃないけど、今日はナルトを恨みたくなった。



特に異常なし。保健の先生にもそう言ってもらったし、もう全然気にしてない。

けど先生はさっきから固い表情。ずっと考え事してる。


「今日は送ってく」

「え?」


そんな大袈裟だよ先生。

なんて真剣な表情の先生に言えるわけもなく、素直に従うことにした。

心臓がもつ自信なんてこれっぽっちもない。



行き先不明の恋