はあー、実にめんどくさい。何がって?そりゃあ始業式に決まってるじゃないか。それに寝不足。昨日のことを考えてたら全く寝れなかった。これも全部いののせいだ。でも、また同じクラスだったことは嬉しいけど。あ、サスケくんとは違ったけどね。

いつまでもちゃんと並ぼうとしない生徒に先生が罵声をあげる。耳が痛いくらいに。さっさと終わって欲しいから、普通に並んでるわたしといのにとっては、迷惑以外のなにものでもない。

やっと整列したらしく教頭が開会の言葉を言って校長が話し出した。校長の話は長いから嫌い。そのまま着々と進んでいき次は新任の挨拶。去年同様に別に興味もないし、いい先生なんかいないんだろう、そう思ってただぼーっとしながら、聞いていた。聞いていたというよりは、耳に流していたとかそんな言い方の方が良いかもしれないが。だけど一番端の先生だけは、なんか気になって見てたらしい自分。

次の瞬間、わたしは言葉が出ないほど驚く。


「奈良シカマル…よろしく…お願いします」


知っている人だったとか、そういうわけじゃない。むしろ知らない見たこともない人。…なんだけど…。聞いたことのある声。昨日あのコンビニで聞いたあの声。ずっと忘れることのなかった声。まさか先生だなんて思いもしなかった。否また聞けるなんてそんなこと無いと思っていた。胸が高鳴る。そして確信する。わたしはあの人が奈良シカマルという人物が好きなんだ、と。猫背でちょっとダルそうなスーツが似合う新卒の先生。この人があの声の人。もっといろんなことが知りたい、そんな欲まで出てくる自分に苦笑する。


そしてまた心臓がどくん、と鳴る。

奈良シカマル先生は化学の先生。それもわたしの学年の、だ。こんなにも都合良く関わりを持てるものなのか、そんな疑問も少なからず浮かぶ。でも、それよりも嬉しさが圧勝する。





* * * * * * *



始業式が終わりさっそうと職員室に駆け込む、という考えはあった。でも話す内容もない。結局わたしは諦めて帰ることにした。こういう時ほど自分の恋愛に対する経験値の少なさを恨むことはない。もっと積極的になれないのだろうか、とも。


……あ、れ…?

ふと顔をあげれば目の前には、ダルそうな猫背の姿。頭で考えるよりも先に体が動いていた。


「な、奈良、シカマル先生!」


くるりと振り返る先生。


「…誰だ?」

「奈良シカマル先生の生徒になる名字名前です」


ぽかん、とした先生の表情。まずいことでも言っただろうか。


「…お前さ」

「はい…?」

「よく俺の名前覚えてるな」

「…あ…それは…あの…奈良シカマル先生が…印象に残るような人だったから…です」


しどろもどろな自分に嫌気がさす。もっと上手に言葉が出てこないものかと。


「…クククッ…よろしくな名字」


突然笑いだす先生に脳がついていかない。それどころか名字で呼ばれた事に心臓が破裂する寸前だ。


「あ、よろしくお願いします」

「ところでよ」

「何ですか?」

「何でフルネームに先生つけて呼ぶんだよ?長くねぇーか?」


可笑しそうに言う先生に顔が火照る。理由なんて特に無いんだ。ただ先生の名前を知れた事が嬉しくて無意識にフルネームだった。多分それだけ。


「じゃあ、何て呼べば良いですか?」

「…奈良先生とかでいんじゃねーの?」

「じゃあ、シカマル先生で」

「おー、っておい!」


お互いにやり取りが可笑しくて思わず笑ってしまう。みんなに奈良先生と呼ばれるならわたしは違う呼び方がいい。ただの自己満足。もちろん、そのうち同じように呼ぶ人が出ることは想像がつく。でも一番にそう呼べたから、だから良いかな、なんて思ったり。


「そろそろ校舎閉まんぞ。はやく帰れよー」

「はーい」


まだたくさん聞きたいこともあったけど、仕方ないので明日また話が出来たらいいな、という希望をのせて今日は諦める。ほんの少しの間だけでも喋れたことがすごく嬉しくて。家に帰ってからもずっと気分がよかった。それに明日は化学がちょうどある。色んな気持ちを抱いて眠りにつく。



駆け出しの恋