先生についていって着いた場所は化学室。誰もいなくてすごく静か。


「…名前」


久しぶりにあの声で名前を呼ばれて、ドキドキしているわたしがいる。


「好きなやつってよ…」


聞きづらそうに言ってくる先生。好きな人が自分だとは思わないのだろうか。


「先生だよ、わたしの好きな人」

「……」

「だけど、先生はあの女の人が好きなんでしょう?」

「……は?」


意味が分からないとでも言いそうな雰囲気の先生。


「違うんですか?」

「あれただの知り合い」


勝手に勘違いしていた自分が恥ずかしい。ん?でも…


「気まずそうな顔とかしてたし、水族館に行った日わたしが帰っても追いかけてきたり連絡したりしてくれなかったじゃないですか!」

「気まずいのは当たり前だろ。あれキバの姉ちゃんだし」

「え」

「キバの姉ちゃんにバレたらキバにもバレてめんどくせぇし」


キバのお姉さんだったの!?…てことはキバはわたしと先生の関係知ってるのかな…


「追いかけようとしたら近くにキバまでいやがって止められるし、携帯は水没して連絡も出来なかったんだよ。ごめんな」

「そうだったんだ…」


全部わたしの勘違いでただ嫉妬して逃げてただけとか恥ずかし過ぎて死にたい。


「じゃあ、キバのお姉さんと一緒に歩いてた日は…」

「たまたま会っただけだ。つーか見てたのかよ」

「たまたま…」


突然しゃがみ込む先生。どうしたのか不安になって、近寄ってわたしもしゃがみ込む。それに気付いた先生がわたしの肩に頭をのせる。
先生に心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思う。


「嫌われたかと思った」

「……」

「急に避けられて、別れようまで言われて、呼び方は奈良先生になっちまうし…」

「ごめんね」


そっと腕を先生の背中に回す。久しぶりに触れた先生を感じて安心する。心の中の穴が埋められていくかのように。


「勝手に勘違いして嫉妬してごめんなさい」

「…名前からのキス」

「……へ?」

「それで許してやるよ」


こういうのを形勢逆転って言うんだろうな。さっきまで不安気な声で喋ってたのに今は余裕さえ見られる表情してるし。だけど、先生も不安だったんだとかが分かったからしてあげても良いかな、なんて思うわたしがいる。


「目つぶって下さい」


目をつぶった先生をみて、先生の顔綺麗だなあーとかかっこいいなあ、とか改めて思う。そして、ゆっくりと自分の顔を近づける。触れるだけのキス。そこから突然頭に腕を回され、わたしが顔を離すのを止められる。今度は触れるだけの優しいキス何かじゃなくて、熱くて頭がくらくらする大人なキス。


「…んぅ…はあはあ…」

「ごちそうさま」


ニヤリと笑う先生の笑顔が気に入らなくて、余裕を無くしたくて。また、わたしからキスをした。



それでも余裕はなくならない