あのあと先生はただ呆然としていて、その空気にいたたまれなくなって化学室を出た。
あれから数日たった今、わたしの心の中は、まるでぽっかり大きな穴が空いたようだった。とりあえず先生から逃げて声かけられても聞こえないふりして。お前のおかげでとかそんなの聞きたくないから。


「おいっ!名字!」


ビクリと体が反応する。前方には先生。考えごとしすぎてて気が付かなかった。わたしのバカ。すぐに後ろに振り返って全力ダッシュ!先生が走るわけにはいかないから大丈夫だろう。と思ってたのに先生まで走ってきてる状況。でも地はこちらにある、とか勝手に思いながらダッシュし続けること10分。(途中少し歩いたりしたけど)先生をまくのに成功。


「にしても屋上はそのうちバレるかな…」

「誰にバレるんだ?」

「うわあっ!キ、キバってば心臓に悪いから!」

「んな気にすんなって」


いや気にしますから。すっごい気にしますから。


「てかキバ授業は?」

「名前も授業は?」

「……」

「……」

「「サボる/りだ」」


お〜息あっちゃった。まあキバもサボるなら少し楽かなあ、なんてふと思う。


「お前さ、」

「ん?」

「最近なんかあった?」

「……」


鈍感だと思ってたキバに気づかれるほど顔とか態度?に出てたのか……それともキバが鈍感じゃないとか?いやそれはないだろ。


「最近笑わねぇからよー」

「え、そう?」

「みんな心配してんぞ」

「まじか」


いや、みんなごめん。みんなって言っても、いのとか…ナルトとか(もしかしたら)…いのとか…いのとか…あれ、わたし友達少なくね?いやいやいや、心を完全にひらいてる友達が少ないだけだ、うん。…わたし…ナルトとキバに心を完全にひらいてんだっけ?


「心配かけてごめん」

「ま、何かあったら遠慮なく言えよなっ!」

「えー、やだー」

「なっ、人がせっかく」

「嘘だよ」


キバの反応が面白すぎる。すごいアホ面してるよキバ。うん、ごめんいくらか笑いすぎた。


「やっぱ笑ってる方がいいぜ」

「ありがとー」


そう言ってキバも笑う。心なごむなあ。少なからずキバにちょっと救われた。


「俺さあ」

「ん?」

「名字!」

「…うっそ」


ここで先生が登場しちゃいますか。なんていうタイミングの悪さ。


「奈良先生ーちょっとそこで待っててくれね?」

「…?…ああ」


なんでわざわざ止めたんだ?わたしにとっては全然近くに行きたくないからありがたいんだけどね。


「名前」

「んー?」

「俺さ名前のこと好きなんだっ!」


照れ笑いしながらいうキバ。こんなときでさえ先生に見られたとか先生を1番に考える脳を殴りたい。


「……」

「でもお前好きなやついんだろ?」

「…うん」

「だからこれからも友達ってことでよろしくなっ」


けどお前がそいつ諦めるなら俺もアピールしまくるぜとか笑いながら言うキバに思わず泣きそうになった。キバは全部分かっててそれで応援してくれた。わたしは、ただ逃げてただけ。

ありがとう、キバ。


「奈良先生、行きましょうか」



もう逃げ出さない