携帯のアラームで目が覚める。
今の時間は9時。先生がうちに来るのは10時。あまり余裕がないから急いで着替えてご飯を食べて髪の毛を巻いたり。会いたくないとは思いつつも、会うならいつもより大人びた風に見られたいと思う。ずいぶん乙女チックになったな、わたし。

あのときのことは、もう忘れた方がいいのかな…
せっかくのデートだし、同僚ってこともあるだろうし…うん、今日を楽しまなきゃだよね!

そのあと決意するまで待っていたかのように、家の前で車が止まる音がした。それと同時に走り出して外へと向かう。


「…はよ」

「おはよう」


先生はなんだかまだ少し眠そうな顔をしてた。そんな先生を見るのは初めてでなんだか嬉しい気持ちでいっぱいになった。


「どこ行くか決めたか?」

「それがなかなか決められなくて」


というより心に余裕がなかったんだけど。


「まあそんなだろうと思ってたけどな」

「嘘だ〜」

「嘘じゃねぇよ」


車が動きだす。運転する姿を改めてかっこいいなあ、なんて思う。先生にべた惚れだな…うん。


「どこ行くの?」

「教えねぇ」

「けち」

「何とでも言え」


まるで小さい子達のやり取りだなあ…なんて思ってしまった。でも居心地がいい。こんな空間が好き。


「どんどん遠く行くね」

「あー…」


何で曖昧なのというよりもう教えてくれても良くないですか?


「あ…」

「ん?」

「このアーティストすき」

「俺も…」

「照れてる?」

「照れてねぇよ!」


わあ、照れてる。これくらいで照れる先生は可愛いな、なんて。ちょっと自分が大人になった気分。まあ先生が照れるとわたしも照れちゃうんだけどね。


「着いたぞ」

「わあ…」


目の前にはでっかい水族館。多分隣町の有名なところ。先生との会話に夢中で外の景色を全然見てなかったからここに着くとは予想もしてなかった。


「ここ初めてきた!」

「お気に召しましたか?」


先生がふざけてそう言いながら手を差し出してくるから、笑いながら手をとった。


「ありがと、先生!」

「名前」

「え?」

「学校じゃねぇーんだから名前で呼べよ」

「う、うん」


急に大人な顔になるから、無駄に緊張してしまう。


「今」

「シ…シ…カ…マル」

「もう1回」


こうなったらやけくそだ!


「シカマルシカマルシカマル!」

「ん、やりゃあできんじゃん」


そう言って頭を撫でてくれる先生。


「あ、先生っつたら罰ゲームな」

「は?」

「ほら、行くぞ」

「へ、あ、うん!」



2人の距離は近いか遠いか