部屋を案内されて中に入れば、部屋はとても和風で落ち着くかんじ。窓から見える景色は、綺麗で癒される。まさにロマンチックとでも言うべき雰囲気。こんな空間に2人きり…心臓が痛くなりそう。
「いい旅館だね」
「そうだな」
ご飯まで時間もあるし、せっかくだし先にお風呂に入ろうと思い、シカマルに言えば、俺も行くとの返事が返ってきて、途中まで一緒に行くことになった。シカマルの浴衣姿やばいだろうなー、なんて考えながらお風呂に行く。お風呂の中で考えたら逆上せるから絶対にやめよう。うん、そうしよう。
「あれ…」
中には思ったより人がいなくて、快適。人混みはシカマルの影響か分からないけど、あんまり好きじゃない。前はそうでも無かったのになあ。シカマルの影響力凄いね、神だ神。しばらくして露天風呂に入って、露天風呂はやっぱり好きだなあ、なんて入りながら思う。満足してお風呂を出て、浴衣を着てお風呂を出れば、目の前には浴衣姿のシカマル。
「あれ、待っててくれたの?」
「おう、つーかなげぇよ」
「女の子だもん」
「はあー。ったく女ってーのは…」
何か言ってるけど、聞こえない振りしよう。それが一番いい気がする。ていうかシカマルさん!浴衣姿…素敵ですよ!ぐっじょぶです!ああ、温泉来て良かった!犬塚キバくん、本当にありがとう!
「それより早く部屋行ってご飯食べようよ!」
「…ククッ…そうだな」
シカマルが可笑しそうに笑うから、変なことを言ってないよね?と改めて頭の中で再確認。
「何で笑うの?」
「食うこと好きだなーと思ってよ」
「なっ…!シカマルのバカ!アホ!めんどくさがりや!」
ああーもう恥ずかしい!今絶対に顔赤いよ。シカマルのバカ野郎。思ってても言うなよ!と凄く言いたいけど、絶対口ではシカマルに勝てない、と思ったので諦めた。
「拗ねんなよ」
「シカマルなんて知らない」
「…早く行くんだろ?」
「…っ!」
シカマルより早く歩いていたら、隣に並んで来て言葉を発すると同時に腕を引かれる。
…え、ちょ、シカマルさん!?何しちゃってんの!それ無意識にやってたら、タチ悪すぎるからね!?天然!?え天然なの?というかシカマルが別にそういうこと意識してなくても、わたしは意識しちゃうんだからね!?ああ、やばい。心臓がばくばくだよ。あの人達、カップルかな?なんて、すれ違う人の声が少し聞こえた。それが妙に嬉しい。これくらいは思ってもいいよね?なんて考えてるうちに部屋に到着。
「わあーおいしそう!」
部屋に入ればそこには、美味しそうに並べられた海鮮料理やらなんやらがたくさんあった。
「食うか」
「うん!」
向かい会いに座って、いただきますをして食べ始める。
「おいしい!」
「ああ、うまい」
シカマルも満足そうに笑うから、無意識にわたしも笑顔。普段では、事務所で食べたり、こんなに落ち着いて食べたり出来ないから、すごく満足。あの理不尽だったテレビにも出たかいがあるってもんだよ!あれのおかげで前よりもシカマルとの距離が近くなった気がするし!まあ、思い込みかもしれないけどね。仕事がないって幸せかも、なんて縁起でもない事を思ったのがいけなかったのか。
「キャー!!」
どこからか聞こえる女性の悲鳴。ぴくりと反応するシカマル。え?まさか行くの?
「名前、行くぞ」
「………はいい!」
やっぱりねー!!行くと思いましたよ。ただの虫を見て悲鳴あげちゃったの、すいません!なんて結果だったら良かった、ってなるけど雰囲気的に危ない感じの悲鳴だったことは、わたしにも分かる。でも、もうちょっと2人きりを満喫したかった!これが本音です!ごめんなさい!
聞こえた方に向かえば人だかりが出来ていて、掻き分けるように中に入っていく。
「…え、うそ…」
目の前に写るのは、泣きじゃくる女将さんと倒れている男の人。
「名前!」
「…あ…救急車と警察お願いします!」
シカマルが倒れている男の人に近寄って脈を確認している。
「救急車はいい」
「…」
これは仕事に入るのかは分からないけど、家族や親戚以外で人が死ぬのを間近で見たのは初めてで、何故か震えが止まらない。シカマルは、周りの人に色々な指示を出しているのに、わたしは何も出来ない。
「名前?」
「…シカ…マ…ル」
「俺がいるだろ?」
「…うん」
シカマルの優しい口調とさりげなく握ってくれた手のおかげで、いつの間にか震えは止まっていた。
病死?自殺?それとも
(まだ手握ってろよ)
(うん、ありがとう)
(礼はいらねーよ)