The Countess-02

本屋に行きたいんです。
そのお願いはインテグラによって聞き届けられ(門限付きだが)、セラスはロンドンにある小さな書店に足を運んでいた。
うちの書庫じゃ駄目なのかとインテグラは言っていたが、全然駄目ではない。むしろ一番適しているとセラスは考えている。ヘルシング家は一世紀の間不死者狩りをしていただけあり、これまでの経験から考察したような専門書も多く、インテグラの厚意に甘え、セラスも利用していた。敵は吸血鬼であり、何より吸血鬼となった自身のことを知らねばならないからだ。
しかし、セラスにとってヘルシング家の書庫は敷居が高かった。何故なら大部分の蔵書が年代物であり、中には原書などもあったからだ。それに、偶には専門書ではなく娯楽的な書物を読みたかった。専門書ばかりでは気が滅入ってしまう。
怪奇小説のコーナーの前に立ち、セラスは本の背表紙を目で追う。
「(なるべく分かりやすいタイトルならいいんだけど…)」
そして、ある本に目を留めた。背表紙に載っているタイトルは、吸血鬼――


「吸血鬼カーミラ」


突如、隣から聞こえてきた女の声にセラスは驚き、顔を向ける。
先程までいなかった筈の女は、まるで最初からそこにいたかのように立っていた。
人間だった頃ならばともかく、今のセラスは吸血鬼である。以前より気配に敏感になったセラスに気取られず隣に立った女。セラスは警戒した。
警戒心を露わにするセラスなど気にも留めず、女は本の背表紙に指をかける。そして、そのままパラパラと本を捲り出した。
「貴女、好きなの?」
「え?」
本に視線を向けたまま口を開いた女に、セラスは戸惑う。一体何を好きだというのか。
「ずっと、この棚の前に立っていたでしょう?吸血鬼、好きなの?」
「あ、いいえ、そういう訳じゃ…」
女の言葉にセラスは時計を確認する。確かに、本屋に来てからそれなりに時間が経っていた。


パタン。


本を閉じる音が響き、セラスの肩が跳ねた。
「そう」
女はそれだけ言うと、手に持っていた本を棚へと戻した。
淡々とした女の動作に、落ち着かない気持ちを抱えながらセラスは声をかける。
「あ、あのう…あなたは好きなんですか?吸血鬼」
「好きでも嫌いでもないわ」
言いながら、女はセラスに顔を向ける。
女の顔を直視したセラスは、文字通り固まった。豊かな黒髪、輝くような白い肌、ほんのりと紅く染まった唇。


「ただ、詳しいとは思うわ。人よりもね」


絶世の美女と言っても過言ではない女の口が、弧を描いた。


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