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だから何度でも言うけど、嫉妬くらいいつでもしますからね!


「赤ちん、お風呂沸いたよ〜。先に入っちゃう?」
「んー、」

 付き合ってまだ一か月も経っていないけれど、二人は既にもう何年も付き合っている恋人のようだと周りに評される。週に何回と決めていないけれど、ご飯を食べたり泊まったり、自分たちのペースで恋人生活を楽しんでいる。
 紫原の家は1Kで、勿論赤司の家より狭い。それでもその狭さが心地良いと赤司は紫原の家に来たがった。
 玄関を通り、少し広めのキッチン。ドアをくぐると最低限の家具と、棚には学校の教科書等が整理整頓されている。赤司が来るまでは部屋の隅に服を脱ぎ散らかしていたけれど、彼がやってきてからそれは禁止となったのでちゃんと畳んでいる。

「赤ちーん?」

 なかなか動く気配のない自分の恋人に不安になり、キッチンを片付けていた紫原は赤司の方へ向かう。赤司が気の抜けた返事をすること自体珍しいことで、気になって当然だ。当の本人はベッドを背凭れにして携帯電話の画面に釘づけになっていた。

「ああ、すまない。お前が先に入っても良いよ」
「なに見てんの?赤ちんスマホゲームとかするんだっけ?」
「ゲームはあまりしないな。緑間から連絡があったから返信しているだけだよ」
「は!?」
「?」

 思いのほか大きな声を出して驚いた紫原に、赤司が驚く。特になにも驚かせるようなことは言ってないはずだ。

「う、」
「う?」
「浮気だ!」
「おい、どうしてそうなったんだ」

 緑間の事は紫原もよく知っているはずだ。中学の頃からキセキの世代として一緒に過ごしていたし、高校に入ってからも会う機会は多々あった。赤司としては予想外の反応である。

「ミドちんとずっと連絡とってたの?」
「まぁ、たまに」
「俺と連絡とってくれなかったくせに!」
「お前からもそこまで連絡来なかったし、緑間とは将棋の話があるからな。俺が黒子と連絡をとっているのも知っているだろう?」
「黒ちんはいいけど、ミドちんは完全に浮気じゃん!」
「紫原の中の線引きが分からないが、緑間となにかあったのか?昔に緑間とは何もないと言って終わっただろう?」

 どうしたんだ?といきなりヒステリックになった紫原を落ち着かせようとして頬を撫でる。なにか言いたいような、そんな顔なのに言おうとしない。あと頬を撫でられて嬉しそうにするのは隠せていない。

「ミドちんと赤ちんは、仲良いから不安になるじゃん……」
「黒子はならないのか?」
「黒ちんは峰ちんとか黄瀬ちんとか火神とかいるからセーフ」
「ああ、なるほど。では緑間にも高尾がいるだろう」

 そういうことではない。否、そういうことでもあるのだが、緑間は赤司の事を好きだった過去を持っている。一度は紫原の手によって玉砕した(させられた)恋だったが、連絡をとるということはその燃え尽きた恋に赤司自身が燃料をやっているようなものだと紫原は思う。赤司は緑間の初恋が赤司だと知らないからそんな呑気にものが言える。

「うう、そうなんだけど」
「緑間と高尾は最高のコンビだよ。俺が入る隙がないくらいだから安心して良い」

 浮気なんてしないよと笑う赤司に、これ以上言えずに分かったと絞り出した。

「でも二人でご飯とかやめてね」
「え」
「え?」
「たまには二人で飯でも行こうかと今送ってしまったよ」
「浮気だ!」
「ふりだしに戻るな。食事位良いだろう」

 赤司にとっては旧友との親睦を深める食事だろう。だが紫原にとっては初恋の炎を燃え上がらせる食事になるかもしれないのだ。そんなの行かせるわけにはいかない。

「大体、お前にだって氷室さんがいるだろう」
「室ちん?」
「氷室さんと二人でご飯に行ったりするだろう」
「室ちんには火神がいるじゃん」
「兄弟と言い張ってるので無効とする」
「えー、でも室ちんと俺はどうこうならないから大丈夫じゃん」
「その言葉をそっくりそのまま跳ね返すよ」
「いやいや。第一さ、俺と室ちんが飯行っても赤ちん嫉妬しないでしょ?」
「しているよ」
「は?」

 赤司のその言葉に今度は紫原が驚く番だ。帝光時代に付き合っていた際、赤司も嫉妬をすると聞いていたが、まさか先輩に当たる氷室にも嫉妬していたとは思わなかった。

「お前は何の気なしに食事に行ったりしているけれど、俺は面白くもない。でも、紫原にとって大切な人だと分かっているし、氷室さんが良い人だとも知っているから何も言わなかっただけだ」

 どうだ知らなかっただろう、と言うように紫原をじとりと睨む。
 紫原はそんな事まるで考えたこともなかったし、寝耳に水だ。混乱した頭では対策も立てられず何も考えられず反論すら出てこない。言う事はただ一つ。

「ご、ごめんなさい……」
「緑間と飯に行ってもいいな?」
「う……えー……いや、嘘、嘘です睨まないで!行ってください行って大丈夫ですっ」
「よろしい」
「嫉妬してたって言ってよ。赤ちんに嫌な思いさせてたとか結構ショックだし」
「嫌ではないよ。紫原の交友関係に口を挟む気はないし。ただ、行き過ぎると拗ねるからな」
「え〜赤ちんが拗ねてくれるとか、見てみたいし」
「ふふ、馬鹿」

 ちゅう、と自然の流れのようにキスをして、これで仲直りだ。ここに青峰でもいたら「うげえ砂糖食っちまった」とでものたまうのだろう。

「お風呂、一緒に入っちゃう?」
「狭くなるぞ」
「大歓迎」

 この甘い空気をぶち壊すように赤司の携帯電話が光る。何の気なしに赤司はそれを見て、そのまま紫原に告げた。

「来週の水曜日に緑間と飯に行くから、よろしく頼む」
「来週の水曜って……俺バイト休みの日じゃん!」
「緑間がどうしてもそこしか空いていないそうだ」
「う、浮気だ!」
「紫原、そろそろ一発殴るぞ」

 二人の愛は永遠に!




<了>

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2016/05/03開催SCC25にて発行した【→ -Bunkiten-】の無配として作成。
が、印刷がうまいこといかず断念した小話。

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