二人だけのルール本03 「いい加減、仲直りをしないととは思っていたからある意味良かったのかもしれないな」 「そうだね」 い草の良いにおいが詰まってるここはもう見慣れていると言ってもおかしくない。この和室と廊下、台所以外は電気がついていない。つまりここには俺と赤ちんしかいないってことだ。 お手伝いさんは週に何度かしか泊まり込みじゃないから今日は帰る日だったみたい。さっき淹れてくれた日本茶は湯気を出して美味しそうに湯呑みいっぱいに入ってる。 あの後、俺んちの前で話すのもどうかって話になってここに来た。誰にも邪魔されなくてゆっくり時間を気にせず話せる赤ちんのうちだ。俺の家は母親がいるからゆっくりできないし。それまであまり言葉を交わさずにいて、一体何を言われるのかとさっきから胸がどきどきいいすぎて煩いってくらい。最悪な展開になったら俺はこの場で確実に泣ける。 「えと……さっきはすまなかった。まさか聞いているとは思わなかったんだ」 「……いいよ。盗み聞きしてた俺も悪いし、あれが赤ちんの本心でしょ?」 「そう、だな。俺の本心だ」 赤ちんのいろいろな面を知りたいって思ってる俺に見せたくない面があると言った。えっちもやだって言ってたし、つまりはそういうことなんだろうなって思う。 さっきからもやもやと考えていた最悪な展開、つまり「別れる」という言葉がしっかりはっきり見えてきてしまった。赤ちんに嫌われるのは嫌だ、幻滅されるのも嫌だ、別れるなんてもう……もう…………。 「ちょ、なに泣きそうになってるんだ」 「赤ちん、赤ちん、俺やっぱりやだ。別れるとか言わないで……なんでもするし、赤ちんの言うことちゃんと聞くし良い子にするし、体育館でおやつあんま食べないから……だから、だから見捨てないで」 「見捨てる?そんな事誰も言ってない。俺も別れたいなんて思っていない」 湯呑みを持っていた手が遠慮がちに机を這って俺の方へと来る。その指にちょんと俺の手が当たる。一番長い指を握ってそれから人差し指、小指も俺の手の中に入れて最後は手を握った。久しぶりの赤ちんだ。 「本当?俺もう限界。赤ちんごめんなさい、許して。もう赤ちんと話せないの嫌だし辛い」 「……うん、俺もごめんなさい。敦にきちんと説明出来て解決策をと思っていたら存外時間が経ちすぎて話すタイミングすら分からなくなっていただけなんだ」 赤ちんの手はいつものように冷たいけど、それよりいまは俺の方が冷たくなってた。そのほんのりとしたあたたかさで俺の手を包んで離すことなく握ってくれて心まで温めてくれる。それだけでも俺はもう幸せになれてて簡単だなって自分でも思うけど、俺は根っから赤ちんを愛しちゃってるから仕方ないことだ。 「……えっちの回数少ないしあんまさせてくれないし絶対謝ってやんないって思ってた。赤ちんがえっち嫌いだったとか……いろいろ考えてるの知らなくて」 「まぁ……問題はそこなんだ」 「赤ちんは俺の事好きでいてくれてるのにえっちは嫌なの?」 するりと手が離れてお茶に移動して一口飲んで考えている。言葉を選んでいるのか俺と目も合わせずに少しの沈黙の後、口を開く。 「そういうことになる」 「でも俺えっち我慢できないし」 「声をもう少し小さくしろ」 誰もいないがこんな話しをしているんだから、とお叱りを受けてしまった。えーだって誰もいないんだもん。今自分たちにとってとても大事な話をしているんだけどこうやって叱られて謝って仕方ないなぁって顔で笑われるとついついふにゃりと顔が緩む。 「俺が上手くなればいいの?」 「そういう問題じゃない。これ以上上手くなってどうするんだ、ばか」 「え、今俺うまい?」 「ああ……ってだから話を逸らさせるな」 「ごめーん」 だめだ、大事な話をしなきゃって思う前に心が赤ちんと話せてるって事に嬉しがって浮かれてしまってる。えっちできるかできないかの大事な話だし、赤ちんも真剣に考えてくれているのに俺ってば。でも上手いっつってくれた!これからも頑張ろう。そういえば何週間かぶりだもんね。出会ってこんなに長く話さなかったことってまずなかったし。 「俺の……問題だ。その……いろいろと、最中は……酷いだろう?」 「酷い?え、なにが?」 最中の赤ちんの酷いところってどういうとこ?回数少ないのとかそういうのは確かに生殺しって思うけど、そういうのを言ってるわけじゃないっぽい。 「変な声……とか出してしまうし、」 「え、喘いでくれるの超嬉しいんだけど!」 「あ、あ、あ、喘ぐとか言うな!」 「そんなの気にしてんの?それ言うなら最中の赤ちんはえろかわいくて改善点なんてないくらいだけど」 目の前の顔が羞恥に真っ赤に染まる。えろかわいいってなんだ……と机に屈服してしまった。もしかしてへんな声だと思ってたからいっつも口塞いじゃってたのかな。それならなんて勿体ないことしてんだろって思う。 「それだけじゃない。なんていうんだろう……こう、自分の弱いところを他人に見られたり触られるのが慣れない。敦でも親でもどうしてもだめなんだ」 「よわいところ……」 赤ちんはゆっくりと俺に分かりやすいように話してくれる。 裸になったり、自分が自分で無いようになったり、気持ち良すぎてどうにかなってしまいそうになったり、そういうのが全部耐えられないと言った。でも俺と一緒にいるようになってから抱き着かれても平気になったし首を触られることも前よりは嫌悪感が薄まったらしい。急所を守りたいっていうの?まるで野生の動物みたい。 確かに赤ちんは首とかお腹とか、柔かい部分を触られるのを嫌がっていた気がする(でもそこが一番感度が良いのは本人は分かってないから俺だけの秘密だ)。快楽、と呼ばれる気持ち良さも自分をおかしくするだけのものにしか感じなくて必要ないとさえ言う。自分でも滅多にしないらしいし、俺とは全く反対だ。俺、気持ちいーこと大好きだもん。 「……その、つまり総合すると俺は人と付き合うのには向いていない」 「ふーん?」 「だから、敦が嫌であれば……切り捨てて貰って構わない」 「ふー……は?」 大人しく聞いていたら訳のわからない言葉が耳に入り込んできた。今赤ちんの口から切り捨てるって言葉が聞こえてきたんだけど?意味分かんない。 「性欲を満たすのも恋人の役目だろう。それを出来ないんだ、俺は切り捨てられることを十分している」 「なん……なんでそうなるかなぁ」 がくり、と項垂れてしまう。 どうした大丈夫か?と問われれば全然大丈夫じゃないよと答えそうになるし、戸惑った顔をしてるけど俺がその顔したいんですけどー。 赤ちんの考えることは難しすぎてよく分かんないし、いろいろ教えられても理解出来ないことの方が多い。たくさん考えられるからたくさんの道があるはずなのになんでそこに行き着いちゃうかな……! 「敦のことを満足させることが出来ないんだから、」 「もー、赤ちん俺を舐めないでよね。確かにえっち出来ないのは辛いけど、そんくらいで別れるような愛し方した覚えないんですけどー?」 「でも」 「別れるっていうのは心が離れて初めてせーりつするもんでしょ?それならもっと良い解決策練ろうよ」 解決策にいまいちぴんと来なかったのか、こてんと首をかしげる。うあああ可愛い!今の無表情からのこてんってところめっちゃ可愛い動画で欲しい!絶対これ自分で可愛いって思ってないよな、あとでみんなの前でやっちゃだめって注意しとかなきゃ。 「解決策というのは、俺が行為に慣れるということか」 「それも一つだよね。我慢って言うと言葉は悪いけど努力してこーよ。そしたら普通の恋人並みに出来たりするんじゃない?」 「……なんだか敦が俺より大人になったみたいだ」 「えーなにそれー」 良い意味だよって言われてもよくわかんないけど、赤ちんが笑顔だから別になんでもいいや。確かに別れるという極論を選択をするのは早まっていたなと考えを改めてくれたらしい。 なんとなく、喧嘩の事を引きずってた感じだったけど今はもう喧嘩する前と同じような空気感になってて居心地が良い。あとはえっちがちゃんとできれば赤ちんも考え込む必要ねーし完璧。 「ちなみに敦、どれくらいの頻度でしたいんだ」 「えー毎日レベルなんだけど」 「……」 「う、嘘だし!えっと、えーっと……週に四回くらい」 「よ……!」 ふらりと倒れそうになる身体を理性が必死に支えたらしい。机をぐっと持って横にそのまま倒れることを回避した。あっぶね。つーか週四回とか普通だと思うんだけど違うのかな。 「ちなみに赤ちんは?」 「月に一度」 「月!?もー単位が違うじゃん!」 「う、うるさいな!四回なんて人間の所業じゃない!」 「普通だよこれくらい!」 「仮にこれが普通ならば、普通が人間の体力を逸脱している!!」 この帝光のバスケ部で一番体力がある赤ちんがなにを言い出すのやら。むしろ練習してる赤ちんに人間の体力をいつ……いついつ?ああもう難しい言葉わかんないけどとにかくおかしいっていってやりたい。 「とりあえず週二回くらいから始める?」 「に……せめて一回だ。週に一度あるかないか、今でもこれ位だろう」 「う……まぁ仕方ないよね。りょーかい」 月一度って言ってる人にそんないきなり倍以上に増やせとは言えないよね。我慢我慢。週に一度でいいように頑張らなきゃ。 「あと……喧嘩の原因になったが、俺がやめろと言ったら止めろ」 「えー……うー……出来るだけね」 「よし。敦はなにかないか?」 なにか、っていきなり言われてもなぁ。赤ちんの 負担にならないようにしたいんだけど俺もたつものはたつし赤ちんのそばにいると興奮するし。出すもん出したいし。あ、ハメ撮りに協力して貰ってそれをおかずに抜くとか!……いやいや、ただでさえ見せたくないとか言われてるのにこんなの言ったら睨まれるどころの騒ぎじゃなくなる。他……他になんか。 「あ、じゃあ赤ちん手伝って」 「手伝う?」 「手とか足とか口でごほーしして欲しいな」 「ごほ……う、し」 意味が理解できていないのか無表情でオウム返しされてしまった。ご奉仕、ご奉仕とぶつぶつ呟いて意味が分かったのか少し頬が赤くなる。あ、あ、赤ちんが恥ずかしそうにしてる!!照れてる!!可愛い!ちょー貴重! 「いっぱい手伝ってくれたら赤ちんの負担も減るでしょ?」 「う……あ」 「俺もハッピー、赤ちんもハッピー」 「そ、そうなのか……?」 「そうそう。赤ちんが気持ちよくなるわけじゃないから大丈夫でしょ?」 「したことがないから分からないが……善処しよう」 やったー!!ちゃんと赤ちんがやるって言ってくれたから絶対してくれる。一緒に気持ち良くなることが出来ないのは悲しいし残念だけど、それが負担になっちゃってるんだから仕方がないよね。徐々に慣れていってもらお。 嫌われてないってことが分かったし、えっちについても赤ちんの本音聞けたし良かった。 うん、良かった。良かった良かった。 ……こう、安心したらむらむらっとしてきたんたけどどうしよう。 ちらりと赤ちんの方を見るとまだご奉仕のことを考えている。 「赤ちん、あの、」 「うん?」 「話もまとまったよね」 「まぁそうだな」 「じゃあ実践しよ?」 ずるずると赤ちんの隣に移動して様子を伺う。 だって考えてもみてよ、どう考えても俺の我慢の限界じゃん。二週間以上赤ちんと触るより以前に話もしてない状態が続いてたんだから。よくここまで頑張ったって褒めて貰いたいくらいだ。 「い、いきなり過ぎだ!」 「後回し後回しにしてたらいつまで経っても出来ないよ?」 「う……」 「ね?」 明日からテスト週間だから部活はない。まだテスト週間が始まったばかりだから勉強しろとは強く言わないだろうし、ここには俺は二人だけだから邪魔するもんはなにもない。 確かにいきなり過ぎだと言われたらそうかも知れないし、心の準備とか必要だろう。赤ちんが本当に嫌ならまだなんとかブレーキはかけられる……と、思う。でもこうやって本音を聞かせてくれて嬉しいし、愛しくてどうしようもない気持ちをぶつけたくなるのは仕方がないんだもん。 長い沈黙で諦めかけたとき、赤ちんが俺の制服の裾をきゅっと握った。 「ここでは嫌だ……から、俺の部屋に行くぞ」 「……うん!!」 <続→> |