短編 | ナノ


濡れ縁にて【柔勝♀】


「なんや、柔造じじくさい…」
「じ…!お嬢、そ、それは柔造でも少し傷つきますえ?」

先に濡れ縁に座っていたのは柔造だ。寝間着である浴衣のまま少し大きめの自分の湯呑みを傍に置いて朝刊を読んでいた。休日や遅番の日は朝ゆっくりとくつろぐのが柔造のスタンスだった。そこにランニングの汗を流し終わった勝呂が来て隣に座った。隣に湯呑みがあったので少し間を空けて。それに気づいた柔造は湯呑みを退けておはようございます、と爽やかな笑顔で言った。それなのに、だ。冒頭の台詞を言われてしまい、柔造の心は傷ついた。口では少しと言ったが、結構な傷を負った。

「やって……朝から寝間着で新聞読んで湯呑み持っとるってどう考えても若者やあらへんやん」

やろ?と頭を揺らすと、長い髪の毛がさらりと揺れる。
黒い艶のある髪の毛は朝日を受けてキラキラと輝いて美しかった。柔造はいつもその美しく甘い香りのする髪の毛に惚れ惚れしてしまう。その一房が肩を抜け、胸元に落ちる。タンクトップから見える谷間は美しすぎて見れずそのまま髪の毛からも目を離して新聞を見る。

「…そんなこと言うても、ちゃんと新聞読んでおかんと分からんことだらけになってまいますから」
「ほー…」

勝呂は新聞を読まない。世の中のニュースはすべてテレビやラジオ、インターネットから取り入れてしまう。それではいけないと思いつつも新聞はハードルが高いイメージがどうも払しょくできない。
ばさり、新聞を持ち直して柔造はまた新聞を読む。勝呂は正直柔造がじじくさいのも真面目なのもどうでも良かった。自分に構ってくれないのが問題だ。しかし「私に構って!」などと可愛らしく言えるような性格でもなく、でも別にいいというほど諦めがいいわけではない。うーん、と考えたあと、閃いてそれをすぐに実行する。

「……!?え、ちょ待って!待ってくださいなにしてるんです!?」
「へ?これやったら一緒に新聞見れるやろ?」

勝呂は新聞を見ている柔造の腕の中に潜り込み、その身体をぴったりと柔造にくっつけてにっこり笑った。まるで自分が勝呂の肩を抱いているみたいではないか!と言いそうになったけれど、めっちゃ名案やない?と笑う彼女を見てそんな下心の見え隠れするようなセリフを言えるわけはなかった。

「めい……あん、です」
「やろー!ほら、今なに読んどんの?どこ?」

勝呂が動くたび、その豊満な胸の感触を忘れるのに必死で新聞など読めるはずのない柔造であった。


(この感触……お嬢、まさかブラ…………!!!???)



<了>

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