短編 | ナノ


本気【しますぐ】


(あー坊の首めっちゃやらしい)

後ろから見えるその首筋を舐めまわすように見る。手元にはいつものようにいかがわしいことがたっぷりと載ってある本だ。廉造を囲むように男子がその本に釘付けになっている。ページを捲る度にこの女優好きだとか、このDVD持ってるだとか、そんな話に廉造も口だけ加わる。

「志摩はどんなのが好きなんだよ」
「えーそうやなぁ。こういうのとか」
「おー女王様系。ドエム?」
「ドエムっちゅーか、こういうの見てるとこの人より優位に立ちたい思うやん」
「お前マニアックだなー」

廉造の差した女性は科真っ黒な長髪を靡かせ、金色のメッシュを入れていた。真っ赤な口紅に強気な目、抜群のプロポーションにピンヒールを履いて、鞭という物騒なものを手に持ってポーズを決めている。

(まーちょっとは坊に似てるよな。しっかりしとる目とかメッシュだけやけど。今日のオカズにできるまではいかんわ)

こんなもんやろ、と手元の本をため息交じりで眺める。中心にいた廉造は隣の男子にパス、と本を渡して勝呂の前の席に移動した。

「ぼーんー。なにしてはんの?」
「日誌。今日日直やねん」
「うへー真面目さんやなぁ。こんなん適当でええんに」

これも勝呂の性格であるというのは廉造も重々承知だ。根っから真面目で男なら飛びつく本たちにも目をくれず、黙々と勉学に勤しむ。そんな彼を幼い頃から廉造は好きだった。ずっとずっと。こんな強面だが優しいところがあるし、頼りにされたら応えようとするし、アホなことにも必死になって、もちろん寺のことも必死で。自分が受験受からんかもってなった時も必死になってくれた。廉造は勝呂の良いところをたくさん知っていた。

(真剣なんめっちゃ好き。姿勢がええんも、その鶏冠見たいなんもかぁええ。ああ好きすぎてやばい)

「つーかお前」
「はい?」
「他人のクラス来てエロ本ばら撒くとかどないなっとんねん」

ここは勝呂のクラスで、廉造のクラスとはまた別である。まだ夏休みにもなっていないが、社交的な廉造はすぐに勝呂のクラスにも馴染んだ。よく勝呂のクラスを訪れる子猫丸も同様なのだが。

「え、坊も欲しかったんですか?そんなん言うてくれたら貸すのに!」
「ちゃうわダァホ!俺のクラスまでエロ本広げんな言うてんねん!」
「はは、まぁここのクラスも飢えてんのですわ」

ほら日誌書かんと塾に遅れますえ?と急かすと時計を見てそうやな、と日誌に向かった。

「先に行ってくれてええねんで?」
「待っときます〜どうせすることあらへんし」
「そうか、なんやすまんな」

いーえーと笑って日誌に書かれてある文字、手、胸元、鎖骨、首、顎、鼻、目、額、髪、ゆっくりと観察するように廉造は勝呂を見る。真っ白で綺麗なその体が欲しいと何十回何百回では足りないほど思った。ああ好きすぎるって本当に面倒だと、勝呂を好きだと想う度に思う。しかし自分の嫌がる面倒をわざわざ自分から背負うほどなのだ。恋は盲目、という言葉を最初に言った人と友達になりたいなどと考える。

(ここまで綺麗に育つように害虫駆除してきてん、そろそろ食ってもええかなぁ。ああその首に噛みつきたい)

暑いなぁ、と言う勝呂の言葉に暑いですねぇとオウム返しで答える。目線はゆっくりと首筋を滴る汗。

(あの汗舐めたい。ああほんまあの汗見てるだけで勃つ、今日のオカズにできる)

坊のことを考えるだけで、見るだけでついつい恍惚に浸る。あかんあかん、ちゃんと幼馴染でおらんとな。そうは思うけどついつい下半身に直結することばっかり考えてしまう。廉造は咳払いをして邪念を捨てようとするが、邪念を考えてしまう本人がすぐ目の前にいるのだから捨てれるわけはない。

「よっしゃ終わった!」
「お疲れさん。ほなそれ職員室に持って行ってから塾行きましょ」
「子猫丸は?」
「先行ってます」

俺らも行こか、と勝呂は席を立つ。持ってきた本はまた返してくれたらええしとそのままあのクラスに置いてきた。あんな本でよう勃つな、ありえへんわと心の中で呟いておきながら最後のページがオススメやでと助言しておいた。お前らそういうの好きそうやろという言葉は伏せておいた。

「坊待ってやぁー!」



(女の裸より坊の勉強してる姿の方が興奮するわ)



<了>

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