短編 | ナノ


退廃的アシンメトリー


「そういえば廉造ってここでなんも買ってないよな。安くするぞ?」
「女の子連れ込んだときに探られて見られたらいややから買わんだけですわ」
「どんな女連れ込んでんだよ」

とある古びたビルの二階。そこが俺のバイト先になる。結構良い立地なものだから、古いこんなビルでも結構客足は伸びる。平日でも休日でも客がほどほどにいる。
有線が流れる狭い店内に入ると、まず見るのはぎっしりと棚に敷き詰められたDVDたち。パッケージがちゃんと見えるように置かれているのは店長の趣味のモノで、あとは背しか見えない形で敷き詰められている。それから少し奥にいくとちょっと特殊なジャンルのDVDやその他が置いてある。その他っていうのがまぁ結構いろいろと種類あるねんけど、これを語り出したらきりがない。レジ近くには雑誌も豊富にある。この辺りやったらこの店が品揃えはピカ一やと思うわ。まぁ揃えてあるもんはいうなら全部R指定がつくもんばっかやけど。それしかないけど。

そんな素敵なお店やから今日もお客さんがたくさん。休日前やから特にっていうのもある。若いカップルがDVDに目もくれずにイボ付きの趣味悪いゴムと玩具を買って帰ったり、かっこええ兄ちゃんがオナホ買っていったり(これは心の中で笑ってまうけど)、びっじんなお姉さんがローター買ってたり(玩具より俺で遊んで欲しいわ)(いや誰に使うかしらんけど)、大丈夫かいってじいさんが結構過激なDVD買ってたり。老若男女様々。結構楽しくバイトしとる。
バイト代も弾んでくれるし、堂々とレジで雑誌を読めるし、店長の優しさでそのビルに安く住まわせてもろてるし俺にとっては最高の職場。

「あ、でも今使てるゴムなくなったら買わせてください」
「買え買え」

ここにあるものならなんでも安くしてやると店長も優しい。あとたまにここの客をお持ち帰りもできたりする。まぁ滅多にないねんけど。
とまぁ、大学では健全で下心なんて全くありませんって具合に女の子を漁り、バイト先で自分の満たされてない欲求を少しずつ満たすという生活を送っている。

「クリスマスが近いからじゃんじゃん売れてるな〜、ゴム補給やってもらっていい?」
「あい」
「そこの段ボールにあるから」

さっきからどんだけゴム買うねんってくらい大量の人がレジに来とる。今の時間帯もちょうど恋人とデート終わってさてどうしようかって時間やから余計になんやと思うけど。さらにいうなら結構同性カップルが買ってるっていうね。なんや悲しい世の中やわ。皆もっと異性を求めていこうや。性病も同性愛の発症が多いていうし健全なレンアイしましょ。

「ちょいすんませー……え、坊?」
「は…し、志摩ぁ!?」

ついつい持っていた段ボールを手放してしまう程の驚きやった。綺麗にゴトンって落ちたから中身をばら撒くことはなかった。
坊こと勝呂くん。年、出身、大学の学部、全部一緒で入学したての時に仲良うなっとった。向こうはまじめでこっちはぐーたらやけど、同じ関西出身で話も合うたし仲良くさせてもろた。坊って呼び方も関西では周りがそう呼んでいると聞いてマネしてみたら本人は嫌がっとったけど徐々に定着した。俺意外はそう呼ばへんからここでは俺だけの呼び名。最初はちょっとした優越感やったね、なんとなく。
まぁけど俺が真面目に授業受けるわけもなく、真面目な坊がなんも言わずにノート写させてくれるわけもなく。俺はノートのために別の子らとつるむようになったってのもあってここ数ヶ月は疎遠やった。まさか自分のこんなバイト先で出会うなんて思ってもみんかったけど。

「まさか坊に出会うとは思いませんでしたわ」
「さいっあくなとこでバイトしとるな」
「俺に似合うてますやろ?」
「お前は少し位期待裏切れ」

ははは、と笑う。良かった、ちゃんと話せる。久しぶりやから不安やったけど、その不安は杞憂に終わってくれた。坊は大学の帰りらしく少し大きめのカバンを持ってた。この人ほんまにヤバいくらい変態やから遅くのコマまで授業とってたな。

「真面目な坊もこんなとこくるんですね」
「初めてやわ、こんないかがわしい店」
「ほな今日は彼女さんの趣味?」
「あー……ちゃう、ダチの…付き合い、みたいな」

坊にしてはえらい歯切れの悪い切り返しで少し不振に思う。やけどそれをほいほい聞けるような仲やないからそうなんやーと可もなく不可もない返事をした。

「坊はなんも買わんの?ゴム安いで?」
「要らんわ」

それから品出ししながら話し込んでいるとレジから呼ぶ声がした。店長はというと、常連のAVにうるさいおっさんに絡まれてしまっとる。ああ、あれはあと数十分は離してくれんわ。なんでこの子が推されてこの子がないんだ!とかそんなん知らんがなっていうね。

「ほな坊、また」
「……あ、おう、」

レジを呼んだ男は茶髪に黒ぶち眼鏡で頭良さそうな坊っちゃんみたいな人。そんな人がここに来たらあかんやろ。しかも買うもんえげつないわ〜。ゴムにバイブに拘束具にて。頭良さそうな人ほど恋人に変な事させるんやなぁ。まぁ自分に使うんかも知れんけど(考えてちょっとげんなりしてもた)。

「あの人と仲良いの?」
「へ?」
「ああ、ごめん。なんでもない」
「や…ははは」

あーこいつが坊の連れやな。なんか坊の友達になりそうな身なりやわ。きちんとしとって清潔感あって頭良さそうで品行方正…なイメージがパッと浮かぶ。まぁ性癖に品はなさそうやけど。縛るの好きなやつはあかんわ、なんや好かんっちゅーかドロドロした感情持ってそうやんか。執着心酷そうって偏見。お金を支払う手はごついけど長くて白くてなんかえろいし、爪を短く切ってあるのもなんか変態臭っていうん?そんなんが出てまっせ。

「ありがとう」

その男はすぐに坊のところへ向かってそのまま出口に向かった。その際、坊の腰に当てた手がなんだか友達というよりかはまるで恋人のようやったし、俺へ向けられたその男の目線を見て分かった。こいつら付き合ってんちゃう?男の目線は確実に嫉妬と牽制やった。その目が確実に俺に向けられとった。
坊はすぐにその手を払ったけど、あれは慣れとるな、絶対。うわーそれちょっとヒくわ。坊が…あの真面目で変態の坊がガチの変態になっとったやなんて…。

「うーわー…マジかい」

ないわ。まさか身近でそんなものを見てしまうなんて思ってもみてへん。確実に付き合ってるってわけやないけどテンションダダ下がりやねほんまに。なんなん、坊は真面目に大学生活を勉学に費やして生きてるっていう俺のイメージががらがら崩れてもた。そんでさっきの男とモザイクかけな見てられん乱れた生活しとるってイメージが再構築。うわぁ……。なんなん、そんなに同性ってええの?一体あの真面目な堅物がどない道を外してこんなんになんの…?
次の客が持ってきた雑誌がレジ机に置かれる。それはゲイ雑誌で、その表紙のモデルがちらりと俺を見た気がした。

………やっぱりないわ。

一番ないのはその雑誌持ってきたのが女の子で俺のめっちゃタイプの子やったって事やけど。
ああ世の中世知辛い。



<了>

Back

×