短編 | ナノ


傷02【モブ勝】


「勝呂、りゅうじ、です」

頭を下げて、ゆっくりとあげる。全て柔造に教わったことだ。震えそうな手をぎゅっと握って我慢した。勝呂の前にいる男は「初めてなんやねぇ、かわええねぇ」とゆったりとした言葉でにこりと笑った。昼間の玄関でこの男に会ったら品の良さそうな人だと思うだろうが、今この状況でのこの男は勝呂にとってただの恐怖の対象でしかなかった。

柔造に教えてもらう期間は過ぎ、今日が初めて勝呂が「客」を相手にする日になった。柔造以外を相手にしたことはなくこれが初めてだ。けれど、柔造と勝呂が行為に及んでいるのを八百造がみるという事はあった。ちゃんと客をとれるかという意味で、だ。その時でも勝呂は恥ずかしくて恥ずかしくてどうしようもない気持ちになったのに、今日まるで知らない人を相手にしなければならない。

「お線香、つけさせていただきます」

二本の線香を蝋燭に近づけ、火を灯す。一本はこの部屋に、もう一本は廊下で見張りをする柔造の傍に置かれる。線香が時間を示す。この線香が消えるまで、緊急時以外柔造は部屋に入ってはならないし誰も入れてはならない。

「じゅうぞ…」
「廊下におりますね」
「………ん」

襖が閉められるのと同時に明かりも消された。大きな蝋燭の火だけが勝呂とその男をほのかに照らす。にこやかに笑う男は光があるところで見ると優しい雰囲気を出すが、薄暗いこの場所で見ると何を考えているか分からず恐ろしい。背中を押されて布団が敷かれてあるところまで自ら歩き、座ってと言われて布団の上に正座で座る。まるで操り人形みたいや、と勝呂は自分でその様を表した。でも、操り人形のように従順でなければならないと言われた。今からされる行為がどんなに嫌でも。

「緊張せんでもええよ?ゆっくりかわいがったるから。初めてなんやったら玩具とかも使わへんし」
「よろしく、お願いします」

慣れた手つきで襟から肌に触れてくる。びくんと震えると男は笑ってかわええとまた一言漏らした。するすると肌の質を見極めるように何度も何度も触られる。徐々に尖ってきた胸の突起をつままれ、少し高い声が出てしまった。恥ずかしくて顔を覆いたくなるが、それは男の手によって許されない。
寝かされ、首筋や乳首を舐められる。まだ色の薄いそこにねっとりと舌を這わせ、乳輪を味わうかのように舐り、ぷくりと膨らんでいるそこは丁寧に、しかし激しく歯で苛められる。

(柔造の手やないのが、這っとる…っ)

「初々しいなぁ、感度もええようや」
「…っふ…」
「肌すべすべでやわこいし、これならぎょーさん相手できるで」

頬ずりをされるように触られて鳥肌が立った。だめだ、逃げたい、助けて、柔造助けて。そう思うが言葉にしてはいけないとその言葉を自ら打ち消す。失礼は決してしてはいけない、と柔造から習ったのだから。
手で顎を持たれ、唇を合わせる。最初はちゅっと可愛らしいリップ音が鳴る程度のものを。そしてそれが長くなり、やがて舌が侵入してくる。柔造の舌ではない、と顔を背けようとするが、顎を持たれていてそれすら叶わない。

「ん、ん……んんー…っ」

咥内で舌が逃げると追い回され、捕まえられると唾液も舌と一緒に絡められる。はぁ、と息ができたと思えばまた深く深くキスをされ、小さな舌をじゅるりと吸い上げるようにされて勝呂は頭に靄がかかったようになって痺れた。ようやく口が離されたときは、どちらのものか分からない唾液が勝呂の口の端から少し泡立って垂れていたが、自身で拭えないほどに力が抜けた。

「お顔がとろっとろになっとるなぁ。泣いてしもて」
「は…ふ……ふ、…ふは……っ」

胸を上下させて息をする。中々息遣いが戻らない。こくんと唾液を飲むと、中から穢れていっているような、そんな気分になって余計に勝呂は涙を流した。男は下着を剥いだあと、足を持って左右に大きく開かせた。嫌悪感に苛まれているのにも関わらず、勝呂自身は緩やかに立ち上がり割れ目からはねばりとした体液が出ている。

(こんなに、嫌やのに…っ)

少しでも反応してしまっている自分自身にショックを受ける。柔造以外が相手ならきっと恐怖でどうにもできないと思っていたのに、見知らぬ男でも興奮しているのだ。けれどそれは柔造が仕込んだ。すぐに快感になるように、そんな体になるように、だ。

「最初やし、イかせてあげましょ」
「ぅ、あ…はぁ……ぁ」
「ほぉら、すぐに元気になった」
「やぁ……んっ」
「ややあらへんでしょうに、こんなにしておいて」

男は勝呂のものを素早く上下に扱き、時々親指で割れ目をぐりぐりと押し潰す様に撫でる。勝呂は余計に高い声で啼いた。先走りはより溢れ、男の手を汚していていく。ほぅら、こんなに気持ちええって言うとる。そう言って男が勝呂の目の前で手を広げると、ねばりと透明な液が蜘蛛の巣のように広がるほどだ。こんなのなにかの間違いや、と頭を振るが、触られた瞬間甘い刺激が下半身から一気に脳まで痺れさせる。

「あ…っああ、あ、あ、っ!」
「イくときちゃんと言うんやで」
「ぅ…んっひ…ぁあ」
「ほらほら、どうや?」
「…っイ……っ…イく、イ、く!」

短時間での強い刺激は勝呂の嫌悪感と理性を隠した。今勝呂の中にあるのは本能と、この男に従わなければという思いだけだ。男の言う通りに達するときに申告しながら達し、よお出来たねぇ、と言われ涎を拭われる。虚しい気持ちしかない。柔造の時はもっと満足感とか、気持ち良さがあったのに。

「今度はこっちやけど、ええとこ僕に分かるかなぁ」
「え…?ぁっ」

勝呂はもう疲れたと線香を見るが、まだ半分を過ぎたあたりまでしか来ておらずまだまだ時間はあった。柔造ならもうこれで終わりにしましょうって言うてくれるのに、そう思うがこの男は自分を仕込む人間ではない。金を寺に払っている「客」なのだ。ぬぷりと孔にローションを垂らした指が入る。一本、また一本と、三本すんなり入った。

「なんや、慣らさんでもいけそうやね」

男は指を抜いてちらりと目線を線香にやった。時間が経つのは早いわ、と言いつつ勝呂の孔に昂った自身を一気に根元まで埋め込んだ。

「〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
「きっつぅ…っ」

あまりにいきなりの事で声すらあげれなかった。まるですべての臓器を持ち上げられたかのような、そんな圧迫感に目の前が真っ白になる。手はシーツを破りそうなくらいぎゅうと握り、持ち上げられた足はぴぃんとつま先まで伸びた。初めて自分が壊れてしまうような体験だ。こんな早急に挿れられることなんて一度もなかった。勝呂は柔造が言っていた事を思い出した。「自分とお客は違います。優しい方の時もあるし、酷い人もおるんです。それを頭の片隅に置いてください」という言葉。

「ぁ…、…ぁ……っ」
「やっぱり…、小さい子はええ塩梅や」
「や…っ動かんで!お願……しま…っあ、ぁ、あ!!」
「ほんまええ声や、廊下におる人もさぞ楽しんどるでっ」

ずるずるずるっと一気に抜かれたと思えばまたすぐに根元まで銜え込まされる。そして中を楽しむかのように小刻みに動かされる。びくんと体がはねあがるのを見逃さず、そこばかりを攻め立てられた。そしてさらに男の手は少し萎えた勝呂自身に伸び、またゆるゆると擦りあげた。

「やああ、そこ、っ、擦る…のっあか…っ、んんん!ひっ、ぅ、そ、やあ、ややあっ!」
「ここっ擦りながら、するとっ気持ちええっ!」

柔造に声を聴かれてしまうかもしれない、こんな声聞かれたくない、と最初は声を押し殺していたが、激しい攻めにそんな考えはすぐに消えた。無理をさせなかった柔造とは違い、この男は勝呂を苛めた。ずるりと抜いて思い切り突き上げると性器を勝呂の内壁がきつく締め上げ、男はええわぁ、と何度も言った。勝呂が達すると締め付けが強まり、男も吐精した。行きつく暇すら与えずにそのままの状態で勝呂と舌を擦り合わせ、かちんかちんと歯と歯が当たる程深いキスを求めた。勝呂はこのまま食べられてしまうんやないか、と思いながらも抵抗する力もなくなすがままだ。はぁ、と男が満足して唇を離してくれると、自分の中に埋め込まれているものはむくむくと大きくなって先ほどと変わらない硬度となり、また中を蹂躙する。

「ぅそ……!っ、あ…俺も……もうイったぁ…!」
「っ」
「やめ…や、…も、できんん……っ」
「あー…出る、出る…っ!」
「ひ、おねが、……動かんで……堪忍……たす、け、てっ!」

そのまま勝呂は何度も突かれ、男が満足するまでひたすら弄ばれた。大きく開けられすぎた太ももは閉じていても痙攣気味にひくひくと無意識に動くが、それ以外はぴくりとも動けないほどになっていた。

「失礼します、お時間で……」
「ああ、もう用意は出来とるよ」
「………お見、送り…します」
「頼むわ。また来るえ?」

勝呂は男に返事はしなかった、否できなかった。男はそれにも満足したかのように歩を進めた。柔造は八百造に教わった通り、そのままその男を玄関まで見送った。殴り殺したいのを拳を握って抑え、帰るのを見届けた後急いで元の部屋に戻る。

酷い有様だった。たった一本の線香が燃え尽きる間で、勝呂は目に光を失っていた。あの男もしたくてしたのではないが力の加減が分からなかったのだろう、勝呂の手は拘束された痕がしかと赤くついていた。この痕は寺に縛られた勝呂家を身動き出来なくさせる鎖の痕だ、と柔造は泣きそうになる。
柔造は廊下でずっと部屋の中の音を聞いていた。勝呂が段々と熱っぽい声を出しているのに理不尽な苛立ちを感じた。ずっとずっと自分だけにその声を聞かせてれば良いのに、見知らぬ男に良いようにされてしまって。柔造自身が勝呂をそのような身体に仕上げたのにも関わらずだ。けれど、時間が無くなるにつれて激しくなる行為には勝呂に対する苛立ちなどどこにも出てこなかった。ただ一つ、今相手をしている男を殺したい、ただそれだけだった。助けて、と聞こえたとき、柔造は思わず立ち上がって襖に手をかけた。けれど何もできなかった。襖に手をかけて、それからどうするのだと頭の中で問うた。その男を殴って、勝呂を助け出してそれで?ここまで仕上げたことを全て意味のないものにする勇気はあるのかと。

「…、ぼん。お疲れ様でした」
「…」
「お風呂、入りましょう。全部綺麗に……しましょう」
「っ」

柔造に抱き上げられたと同時にぶわりと涙腺が壊れたように泣いた。柔造の顔に、そのにおいに安心して勝呂は柔造に抱き着いたまま泣いた。泣いて泣いて泣き腫らした。それをどうすることもできず、背中を撫でながらよう我慢しましたなぁ、と自分が決して泣くまいと歯を食いしばった。



これから、ずっとずっと、このようなことが続くのだから、自分が泣けない、と。



<了>

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