短編 | ナノ


傷01【柔造】


*なんとなく幼い坊と柔造のお話。R指定なのでご注意ください。


「じゅうぞう…っそこ…!」
「まだ指一本しか入れてまへんえ?昨日は二本頑張れたでしょう?」
「ん…やってぇ……っ」

自分の後ろからじゅぷじゅぷとローションの水音が響いてくる。そして慣れない指が自分の中を出入りする感覚に自然と涙が出てきてしまう。このようなことをしてもう10日が過ぎた。毎夜毎夜柔造が相手をして勝呂の身体を解きほぐしていく。

寺が財政難だという事は知っていた。けれど、身体を売り物にしなければならないほどだとは幼い勝呂は知らなかった。それを全部自分の父親である和尚が担ってくれていたが、それでもまだ足りないという。そのことを柔造に聞かされ、遠まわしにどうしなければならないかというのは聡い彼は気づいた…気付いてしまった。自分の尊敬する父親もしなければならなくてしている。自分だけが逃げるのは嫌だったし、小さい自分でも役に立てることがあればと思い、決心して「俺は、どうすれば良い」と柔造に言った。「悍ましいことをさせることになります。辛いし、しんどいし、汚らしいし、逃げだしたくなることです」柔造は何度も自分にその決心が揺らがないものか聞いた。その言葉を聞くと何度も何度も嫌だと言いたくなるが、最後は「それでもおとんを、皆を守りたいんや」そう言った。
勝呂の決心が揺らがないと分かれば、それから柔造はいろいろなことを教えた。このようなことをする前に自分がなにをしなければならないか、どういう事をするのか。幼い勝呂にとっては刺激が強いというより恐怖を植え付けられているようなものだった。話も聞いた、使うかも知れない道具も見て触った。こんなものをどうすれば自分の中に入り込むのかなんて聞きたくもなかったが、聞かなければならなかった。そして10日目の夜の今日、柔造の指がようやく3本勝呂の中に入った。

「大丈夫ですか?」
「ん…、」
「ゆっくり動かします」

入っていた指が出し入れされる。小さい身体には柔造の指でもいっぱいいっぱいだ。それに慣れれるように、今後痛くならないように細心の注意を払って指を動かす。
四つん這いになっている腕が震えているのが痛々しいが、柔造は見て見ぬふりをする…しなければならなかった。苦しそうな声が徐々に聞こえなくなり、熱に浮かされた声が聞こえてくると安堵の息をそっと漏らした。最初はこのように触られることに対しての嫌悪感を抱いていた勝呂だが、何日も続けていくうちにその嫌悪感は薄くなった。

「もう大丈夫そうですね…」
「痛くは…ない、」
「ほんなら、本番……してみましょうか」

ちゅぷんと指が抜き出され、そこがひくりとひくついた。本番が何を指しているのかは勝呂にも分かったが、そこに踏み切る勇気など持ち合わせているはずもない。

「きょ…今日せなあかんか…?」
「今日やなくても……やけど、こうやって柔造が教えれる日は決まってます。はようにいろいろ覚えたら後々楽ですよ」

なにが楽なのか、は言いたくなかった。柔造は期限というものを決められていた。期限を決めないと柔造が決して勝呂を離そうとしないだろうと判断されたからだ。その期限までに柔造は勝呂の身体を「良い」ようにしなければならない。その期限までまだまだ時間は残されていたが、きっとこれ以上に勝呂が嫌悪するようなことをもっとたくさんしなくてはならない。

「……」
「まだ怖かったら今日やなしにまた今度にしましょうか」
「…今日、する」
「えんですか?」
「柔造が、してくれんねやろ?」
「…はい」
「じゃあ、今日、する」

教えて、という彼は幼いのに自分の底にある情欲を煽り掻き立てる。
柔造はこの小さな子が好きだった。未来の座主として自分が誠心誠意お仕えして、彼の成長を見続けることができればと思っていた。それは生まれた時から知っていて自分も何度か世話をさせて貰ったこともあるため親心も入っているし、10歳も年下でまだ子供だが恋愛対象としても。柔造は勝呂の事が好きだった。それを表に出すことはしなかったし、勝呂に恋愛対象で見て貰いたいというのはなかった。ただただ自己満足で終わらせていたし、終わらせたかった。

(こんな風になるなんて誰も思わんやろ…、)

筋肉もまだ未発達のその足を持つ。まだまだこんなにも子供なのに。弟や子猫と一緒に外で走り回って笑って楽しんでいる年頃やのに。
口と口を合わせて舌を絡ませれるようにするなんてこと、良いようにされても抵抗をしてはいけないだなんてこと、普通は見ないだろう玩具の使い方を覚えるなんてこと…、そんなことには触れずに楽しく生活できていたはずなのに。

「前向きましょうか」
「ん…」

こくり、柔造は自分の喉が鳴る音が大きく聞こえた。顔を火照らせて自分の前で淫らに足を広げられて泣くのを我慢している勝呂が目の前にいるのだ。反応しないわけがない。鼻息が荒くなるのを必死に抑え、勝呂を安心させるために大丈夫ですと言いながら頭を撫でた。

「痛かったら言ってくださいね」
「わ、分かった…」

自分のものを取り出すと勝呂はびくついたが、それは見なかったことにする。「今日はやっぱりやめましょうか」なんてつい口が滑って言ってしまいそうになるからだ。勝呂に酷いことはしたくないし、望まないことはしたくない。この状況は柔造にとって酷なものだった。
昂ぶりをゆっくりと埋め込む。指ではない大きなものに勝呂は吃驚するがそれに構わず柔造は腰を進めた。ゆっくりゆっくり、決して勝呂を傷つけることなく恐怖心を与えることなく。

「……ぅ、ん」
「…っ、大丈夫です?」
「痛くは…ないけどっ、変な感じ…」
「良かった…。ならこのまま、身を任せてくださいね。動きます」

平気そうだと判断して、最後まで自分のものを入れ込んだ。ずっと慣らしたおかげか、苦しそうではあるが血も出ずに柔造の昂ぶりを全て受け入れた。それからゆっくりと抜きだし、一気に突く。それを何度も繰り返す。

「あ、…っぁ、や、…っじゅ、ぞ……っ!」
「…っ」
「ぅんっぅ、あ、…ややぁっ変、……っあ、あ、っ」

何度も何度も腰を打ち付け、勝呂の小さいながらもそそり立ったものを指で刺激する。くちくちと良いところを刺激すると、背を反ってその快感を受け入れる。あかん、と言って柔造の腕を掴むがその手にはまるで力は入っていない。添えられるだけのそれに愛しさが募る。この勢いでキスをしようとしたが、今は情の籠ったキスしかできそうにない。そんなもの、してはいけないと自分を戒める。ぎゅうと自分の欲望を締め付けられ、気持ちがいい。さらなる気持ち良さをと欲が膨れ上がり、もっともっとと動きを速めた。

「…(めっちゃ気持ちええ…っ)」
「ふ…く、っ、ぁ、ん…!やああ、」
「坊……坊っ」
「…じゅうぞ……っこわ、こわい…っやめ…てぇ!」

勝呂のその言葉で柔造は止まった。はぁ、と肩で息をしながら勝呂を見ると怯えて震えている。添えられていた手は無意識に震え、何もできないような状態になっていた。ああ失敗した、と柔造は背中がひやりとする。

「す、すんません…大丈夫ですか?」
「っ…ぅ…っぅ」

鼻をすすって泣く勝呂の涙を拭いてあやす。自分の昂ぶりがきついが、このまま続けると勝呂は完全な恐怖心を抱くことになる。それだけは避けなければならない。理性を総動員させて勝呂の身体から自分を抜き取り、興奮が冷めやらぬことなぞ分からないようにいつもの笑顔を張り付けた。

「ちょっと急いでしまいました……怖かったですね」
「っ…じゅ、ぞが…別の人みたいで、怖なってもた…っけど…も、もう大丈夫」

明らかな強がりだが、勝呂のその気持ちを無駄にもできない。肩を摩っていると徐々に震えは収まってきているし、続けることは可能だ。

「ほな、続けますえ?」

こくこくと頷くのを見て、細心の注意を払いながら先ほどのひくつく場所の先に自分を挿れる。

「っ」
「坊、目ぇあけて…見てください。傍におるのは柔造ですよ」
「、ん…柔造なら、ええ」
「……難しいこと考えんと、今日は一緒に気持ち良くなることだけ考えましょ…ね?」

甘いと思う。しかし甘いと思うが最初はこれで良いとも思う。最初の方だけ、最初の方だけは「勝呂を仕込む人間」ではなく「柔造」として抱いても良いだろう。この溢れる愛をぶつけても良いだろう。そう考えないと、あまりにこの状況は柔造にも勝呂にも辛すぎた。
動きを再開すると、怖がる勝呂に声をかけてやる。それに安心して勝呂はさっきよりもさらに熱のこもった声をあげた。
勝呂の手が宙を彷徨い、両手が柔造の顔にたどり着いた。ぐいと寄せられ、柔造は成すがままにされていると、ちゅ、と触れるだけのキスをされた。驚いた顔で勝呂を見ると幸せそうに微笑まれ、もう一度された。柔造は堪らなくなって三度目は自分からした。ゆるりゆるりと突き上げながらも、甘くとろけそうなキスを何度も何度も。ああ、先ほど我慢していたのに煽るから、と言い訳めいたことを心で呟く。つるつるの舌を擦ってやると締め付けられて気持ちが良かった。

「ぁ…柔造…っじゅう…ぞ……ん、」
「坊、坊……だいじょうぶ、です。ずっとお側におりますよ」

なんて悲しい行為だろうか。好きな人に求められ、抱いているのが自分だと知らせると安堵されるなど、嬉しくて嬉しくて仕方がないはずなのに。このお方はいつか別の誰かわからぬ人に抱かれてしまう。何人も、何十人も。暖かい場所で何不自由なく生きてほしいと願う彼の未来を考えると、なんと切なく苦しいことか。柔造は泣きそうになるのを必死で堪えた。それしかできることがなかった。

「はぁ…あ……も、あ、ぁかん…っ」
「っ」
「ん、ん、ぁ、ん………っ!」

勝呂が達し、締め付けが強くなって柔造がそのゴムの中に吐精する。二人の荒い息が部屋を支配し、肌寒い季節であるのにも関わらず二人の間だけは熱気が張り付く。

「よぉ我慢しました」
「ん…お、れ…ちゃんと…できた?」
「はい、かいらしかったですよ」
「ほん、ま?」
「ほんまです」
「良かった」

薄く微笑んでゆっくり目を閉じると、勝呂は夢へ旅立ってしまった。
手放したくない気持ちが心を支配する。こんな愛らしい子を他の誰かが抱くだなんて考えただけでも吐き気がする。自分の手の中にずっとずっと収めておきたい。どうにかこの方にこんなことをさせないでも大丈夫な方法を、と考えるが当の昔に万策尽きているのだ。

「柔造」
「!…お父」

すらりと襖が開くと、そこには柔造の父親である八百造が立っていた。八百造にも勝呂の肌を見せたくなくて急いで服を整える。
勝呂を慣れさせるのに柔造を選んだのは八百造だった。和尚の事も勝呂の事も、このようなことを内密に管理しているのは八百造と蟒だ。今回、その中に柔造も入ったのだが。八百造から誰もいない部屋で二人きりの時、「和尚は今身体を売っている。坊にもして貰わなあかんかも知れん」と告げられてから数日は眠れなくなったりした。それが現にこんなことになるなんてあの時の柔造は想像もつかなかっただろう。

「坊は?」
「寝てもた。しんどかったんやろな」
「そうか」
「……なぁ、ほんまにこんなこと坊にさせなあかんのか」

柔造の悲痛が隠れる言葉に八百造は静かにそうやと一言言った。その答えが返ってくると分かっていたが、柔造はぎりりと拳を握った。

「和尚もされとることや。……できるならすぐにでも辞めさせたいんはお前だけちゃうぞ」
「………」
「ここ片して坊を寝室にお運びせぇや」
「わかっとる」

八百造も昔、今の柔造のように達磨を仕込んだ。その時どんな気持ちだったのだろうか、そしてもう体を売り物にしている達磨を見てどんな気持ちなのだろうかと柔造は聞きたかったが、聞く勇気もない。

ただただ深い溜息をついた。


<続>

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