短編 | ナノ


【金♂×勝♀←廉♀】


ずるいなぁ、って思う。
自分ももし男やったらとか、最近ずっと考えとること。男やったら、お嬢の事絶対幸せにできると思う。お嬢に振り向いてもらえるんやったら他の人に目ぇなんていかへんし、めっちゃ尽くすし、好き、なんて言ってもらえるんやったら何でもできる。女でも結構モテんねんから、男になったら絶対かっこええと思うねん。

「あ、これかわいい」
「どれです?」
「これ」

ぴっとその長くて細い指が差すものはピアスで、今お嬢にはピアスホールはない。ピアスしたいとか聞いたことあらへん。一度も。なのになんで……そこまで考えてすぐに答えが出てきた。

「…金兄にピアスしろ言われたんですか」
「しろとは言われてないけど…」
「けど?」
「……ピアスしたら好きなん片方くれるって言うたから、」

ああ、自分が男だったら。
お嬢は金兄と付き合っとる。付き合って今一年目。帰ってこんでええのに高校も卒業して実家におる。うちらは中学生やし部活もしてへんからすぐに帰ってこれるし(帰ってこれてまうし)、前やったらうちと子猫さんとお嬢の三人で仲良く一緒におったのに、最近は金兄が来るからものっそい邪魔。ほんまに、こんでええのに来るから。そんで付き合ってから、ことある毎にお嬢から金兄のことを感じ取れてしまうようなことになってる。それがすごい、腹立って腹立って、悲しくて、泣きたくなる。

「ピアス、欲しいんです?」
「……ちょっと」

ピアス欲しいんちゃうやろ、金兄の持っとるもんやったらなんでも欲しいんやろ。クッションに顔ぼふって埋めて照れ隠ししとるの、めっちゃかわええ。やけどそのかわいさも全部、金兄がおるからなんやろ。

「ふーん」
「志摩は、彼氏のもんとか欲しくならん…?」
「んー別に。あ、でもお嬢のやったら欲しい!」
「なんでうちの欲しいの。彼氏の欲しいとか変なんかなーあー恥ずかしいっ」

やって別に今の彼氏好きちゃうし。好きでも嫌いでもないっていうか、告白されてフリーやったしまずはお友達からっていうやつやし(そんでもうすることはしたけど)。ほんまに好きなんお嬢って自分でもわかっとる。あーもーあかん、お嬢が好きすぎてあかん。どうにかなる、死ぬ。好きすぎて。
寝転んでお嬢の膝に頭を乗せて腰に抱き着いた。ぎゅううっと強めに抱きしめるとどうしたん、と頭を撫でてくれる。

「ちょっとだけ、こうさせてください」
「なんや、彼氏おるくせに」
「…別れようかと思いまして」
「え、また!?」
「なんかちゃうかなぁって思って」
「……そか」

多分お嬢はうちがめっちゃ悩んで出した結論やと思っとる。ほんまは今決めた。彼氏がおるからとか、そんなんお嬢に言われたくない。彼氏がおるから甘えさせてくれんのやったら彼氏なんて要らん。お嬢に甘えれる方がよっぽどええ。

「お嬢、入りますえ」

一番今聞きたない声が聞こえてくる。そしてすぐにお嬢の嬉しそうな声も。

「金造、今日は早くに終わってんな」
「その分明日朝めっちゃ早いんですけどね。…ってこいつなにしとんですか?」
「うちが甘やかしてんねん」

優しい優しいお嬢はうちが彼氏と別れるから気持ちがぐちゃぐちゃになっているとでも思ってんねやろうなぁ。ごめんなさい、そこはちょっとだけ嘘つかせて。

「おい廉退けや。つーか兄様きたから帰れ」
「ちょ、金造!」
「やってこいつ学校も一緒で放課後も一緒とかずるいです!俺もお嬢に甘やかして欲しい!」
「もうすぐ二十歳の男が中学生に甘やかして貰おうとすんな」
「なんややるんか?あ?」

首根っこをひっ捕まえられて金兄と睨み合いをする。
金兄は多分知っとる。うちが性別関係なく本気でお嬢のこと好きやって。やからべたべた引っ付いてるのは食わんって思っとる。今やって本気で睨んで来とるし。多分こっちから手ぇ出したら手ぇ出してくるんちゃうかな。……あ、出さんか、やってお嬢おるもんな。

「ちょ、なにしてんの!やめえ!」
「お嬢ちょっとすんません」
「ぎゃっ」

首根っこを掴まれたまま部屋の外のぽいとまるで猫のように捨てられた。カバンも。そんでお嬢に聞こえん様に「入ってきたら許さんで」と脅して襖を閉めた。

「金造…そんなんあんまりや」
「いつもの兄妹喧嘩ですわ」
「せやかて…」

お嬢がうちを気にかけてくれてる。そのまま廊下で待っておけばお嬢がこの襖を開いてくれる気がした。

「お嬢、廉と俺どっちが大事です?」
「そ、そんなんずるい言い方やわ!」
「お嬢と二人きりになれんのやったらずるくなってもええです」
「……」
「今は廉やなくて俺に構ったってください。これから会える時間少なくなるんです」
「え、なん……っ」

そこから音が消える。それが何を意図しているのかなんて分かるに決まってる。涙目になるのを必死でこらえてそこから逃げた。

もうお嬢を好きになんのなんかやめる、絶対やめる。やってうちより金兄をとってんもん。もう嫌いや、嫌い嫌い嫌い。ベッドでお嬢の嫌いなとこをいっぱい考えた。うちより金兄とるとことか、友達少ないとことか、勉強勉強うるさいとことか…そんで、そんで…あ、自分の方が友達少ないくせに祟り寺をめっちゃ気にして「うちと一緒におったらあかんのちゃう?」って定期的に言うところとか。…ちゃう、それはうちの友達関係を思ってくれてるから嫌いなとこちゃう。

メールがきた。お嬢からやった。
さっきは大丈夫やったか、追いかけてやれんでごめん、金兄にも怒った、色々考えとることちょっとでも明日話してくれたら嬉しい、辛なったらいつでも電話してこい、また明日。そんな内容。メールがあまり得意ではないお嬢からのメール。

「おじょ…ぉ、なんて……きら、きらいぃ……っ」




ぼろぼろ流れる涙はいつも本当のことしか語らない。



<了>

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